トオアシのススメ!
一般社団法人職人起業塾では、差額を中心にした実践研修が中心ですが、その事業の一環でJBN(全国工務店協会)と連携して国土交通省の支援を受けて若手大工育成プロジェクトと称して、技術研修も行っております。その半年間のプログラムの中に毎回、遠足の日を設けておりまして、今年度は京都に視察研修に行きました。遠足と書いてしまうと、まるで遊びに行くような印象を受けるかもですが、私たちは非常に学びの深い重要な機会だと位置づけています。
次世代型モデルハウスと地域密着の強み
今回の京都での訪問先は3カ所、まず初めに京都市で新進気鋭の工務店としてその名を馳せているgarDEN株式会社の次世代型無人スマートショーハウスSORAに伺いました。先進のテクノロジーを駆使して、予約から建物へ入る際の開錠、照明からエアコンまで全てスマートフォンにインストールしたアプリから操作ができる、また、建物内の見所については全て動画で丁寧に説明を聞くことができるまさに未来型のショーハウスです。また、京都ならではの狭小地での建築を積み重ねてきたノーハウを最大限生かし、建坪はコンパクトに抑えながらも狭さを感じない豊かな空間と効果的に自然エネルギーを取り込む設計はさすが京都の地場に根を張って営業されている地域工務店ならではの強さ感じました。大工育成塾に参加しているgarDEN社の若手大工たちが自社が提供している価値の大きさを改めて認識し、鼻高々になっているのが印象的でした。
京町屋の課題解決型リノベーション
次に訪れたのは、講師を務めていただいている有限会社ダイシンビルド社の清水社長が手がけられている京町屋の高断熱高気密のリノベーション現場で、日本エコハウス大賞の奨励賞を受賞した物件「fikaso これからの京町家」です。京都の町屋は根強い人気があり県外からの移住者が多く購入するらしいのですが、実際に住んでみると京都の気候と古い建物の欠点が重なり夏は暑く、冬は寒い住環境に挫けてしまい数年で手放す人も少なからずおられるとのことです。その問題を解決すべく断熱性能を圧倒的に向上させるリノベーションを計画するにあたり、関西の断熱施工のカリスマと言われる清水社長にオファーが来たとの事でした。大工による細かな造作を施して京町家ならではの風情を残しつつ、建物全体を同じ気温に保つ快適な住空間を実現されている物件は、若者たちに施工力の重要さを認識してもらうには非常に良い事例だったと思います。
環境共生住宅の原点とそのデザイン
今回の遠足の最後に訪れたのは大山崎、天王山にある建築家・藤井厚二が昭和3年に自邸として建てた住宅の理想型である
環境共生住宅の原点「聴竹居」です。和洋折衷と言う手垢のついた言葉では表現できないほど日本の伝統的な民家の良さと、西洋のモダニズムの影響を受けたデザインは竣工からもうすぐ100年を迎えようかとの古さを全く感じさせないどころか、かえって新しささえ感じさせられました。今回は特別に普段は公開されていない本館以外の離れにもご案内いただき、自邸で何度も実験と検証を繰り返したと言われる藤井厚二の真骨頂を拝見することができました。建物の佇まいの重要性と、細やかな造作が生み出す雰囲気が及ぼす影響の大きさについて随分と勉強になったと思います。
トオアシのススメ!
一流のシェフは一流の味を知っているから一流の料理を提供できると言います。現在の建築の世界では建物のデザインや意匠は設計士が描くものであり、大工は図面に描かれたものをその通りに作るだけと言うふうに思われがちですが、実際はそんな事はありません。細かな収まりやディティールなどは図面に全て反映することは非常に難しく、現場の判断に委ねられることが少なくありません。その際に、かっこいい建物を見ている大工はかっこいい収まりを考えて作りますし、ダサイ建物しか知らない大工は当然のようにダサイものを作ります。先人が残してくれたかっこいいもの、美しいものを数多く見ることで大工が作業員ではなく、クリエイターの目線を持つようになると私は考えています。現場で一生懸命に経験をすること、仕事終わってから道具の手入れをして研鑽を積むこと、それらも非常に重要ですが、たまには広い世界に目を向けて遠くに足を運んでみることが大事だと思うのです。
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職人の知的労働者への転換を促す研修を行っています。
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