伝えるべきは真実と事実。#脱USP
私はかれこれ8年以上も毎月、代表を務める株式会社四方継本社で無料の「継塾」なる勉強会を開催しています。始めた当初は自社のスタッフ向けの起業支援として原理原則に基づいたマーケティングマネジメントをレクチャーする場としてスタートしましたが、徐々に口コミで参加者が広がり、建築業以外も含めて様々な業種の人が参加されるようになりました。今ではすっかりありとあらゆる業種、業態を横断した原理原則論の実践勉強会の様相を呈しています。
マーケティングとの訣別
この塾の具体的な内容としては、全米ナンバーワンマーケターと言われていたジェイ・エイブラハムが体系立てたコンテンツを1つずつ自社のモデルに照らして解釈を新たに考え、実際のビジネスの実務に置き換えて実践する。をこれまで長い間繰り返してきました。しかし、原理原則に基づいているとは言え、市場に対するアプローチも時代の変遷に伴って大きな変化に適応しなければなりません。私は数年前からこれまでの取り組んできたマーケティングマネジメントではこれからの新しい世界では通用しないとの危機感を覚えて、「マーケティングの次に来るモノ」を模索し続けてきました。その一つがコンテンツではなく、ユーザー体験をデザインするUXデザインの思考でした。ジェイのマーケティング体系で最も重要なコンテンツと言っても過言でない「卓越の戦略」の中にある「顧客がまだ気づいていない課題を解決するリーダーでなければならない」との概念を、仮説を立ててテストと検証を繰り返しながら見つけ出すのではなく、UXリサーチと言われる観察調査を通して「事実」を積み重ねて、そこからインサイトを抽出して単なる課題解決ではなく、新たな価値を創造する思考は、私にとっては目から鱗の衝撃でした。現在、株式会社四方継の建築事業部であるつむぎ建築舎で設計メンバー及び大工のリーダー達とUXデザインの考え方を建築設計から施工、そしてアフターフォローのプロセスに落とし込む取り組みを地道に進めています。数十年も顧客の暮らしに密接に関わり、大きな影響を与える住宅という商品だからこそ、顧客が求めている表面的なニーズではなく、長い視点に立った本質的な価値や喜びを提供できるサービスをデザインしたいと思い試行錯誤を繰り返しており、昨年の年頭から社名を改め、建築のカテゴリーの枠を破って、地域コミュニティー事業のつない堂を立ち上げたりもしています。要するに、私達は既に2年前からマーケティング思考との訣別を選択し、事業の再構築を行ってきたということになります。
脱USP!
昨日開催した第94回目となる継塾では「脱USP」とのテーマで、これまでのマーケティング思考を手放す意思表示とその必要性を参加者の皆さんの共有しました。USPとは、ユニーク・セリング・プロポジションの略で、簡単に訳すと、「競合他社に差をつける独特のウリ」だと言われます。
宣伝広告を行ってマスマーケットにアプローチして効果を発揮していた時代は違いがわかりやすく、興味を引くような特徴を取り上げて強みとして拡散していましたが、インターネットの普及と共に、いわゆるテレビや新聞への折込チラシなどのマス媒体への広告が効果性を失い始めてからはもっと強力な強みであるコアコンピタンス(他社が真似できないほどの圧倒的な強み)を見出さなければ、表面的な強み(特徴)はすぐに陳腐化してしまうようになりました。いわゆるコアコンピタンス経営を経営コンサルタントが強く推奨されるようになったのですが、冷静に考えれば、研究開発日に潤沢な資金を投資できる大企業はともかく、日本の事業所の殆どを占める中小零細企業はそのような卓越した技術や知的財産を持っているわけもありません。あるとすれば、ジェイ・エイブラハムが提唱した顧客との関係性の中で卓越した存在になるポジショニング程度のことで、図面さえあればどこの建築会社に依頼しても同じ建物が作れるのと同じように、デザインや品質の精度、サービスの質と量など、企業が掲げる自社独自の強みは、実際のところはコアコンピタンスと言えるようなコンテンツではないことが殆どです。
意図が強みに変わる時代
USPやコアコンピタンスといった競合他社に勝つ強みを見出すことはこれまでのマーケティング理論の中では不可欠でした。しかし、実はその強みは客観的な事実ではなく、売り手側の主観によるところが強く、それが顧客に伝わると陳腐以外の何者でもありません。そして、情報革命による圧倒的な情報の氾濫がそれを白日の元に晒すことになりました。このような混迷の時代を乗り切り、生き残るにはやはり、関係性で選ばれるしかないのだと思います。圧倒的な信頼を得るには、誰が作っても同じになるべき「モノ」ではなく、表面的には見えないが人の心を揺さぶる「意図」を持って顧客や事業に向き合っているかが非常に大事なポイントだと思うのです。わかりやすい例えでは、近年、欧米諸国で大きな成長を記録しているソーシャルバンクの事例があります。日本でも昨年位から少しずつ話題に上るようになりましたが、まだ殆ど知られていないESG投資への傾倒がヨーロッパでは加速しています。ESG投資とは、環境(Environment)社会(Social)企業統治(Governance)の略で、これらに配慮する企業を重視・選別して行う投資をESG投資と呼ばれます。社会に寄与する投資のみを行うと目的を明確にしたオランダのトリオドス銀行 が最近業績を伸ばし、イギリスに進出したのが報道されていましたが、こESG投資は2016年時点でおよそ22兆8,900億米ドル、2014年と比較して25%、2012年と比較すると61%も成長しています。
下の図の通り、持続可能な投資資産の割合をみてみると、ヨーロッパは52.6%と既に半数を超えており、アメリカでも38.1%にも達しています。日本は残念ながら2.1%とまだ実体経済に組み込まれていない状況ですが、世界は確実に「良き意図」を持つ企業に資金が集まるようになっています。これは、3人のレンガ職人の寓話が現実世界に顕在化したことを示しており、見えないモノ=意図こそが多くの人の支持を得られる様になった市場の変化に他なりません。
伝えるべきは真実と事実
そんな時代背景を鑑みてこれからの市場から選ばれる理由を考えてみれば、上っ面の表面的な特徴を強みだと喧伝するのではなく、リアルで確かな「事実」を伝えるしかないのではないかと思います。そして、何のためにその事業に取り組んでいるのかと言う自分の中の「真実」を合わせて伝えることで、実になるものと見えないものの両方の価値を見出してもらい、その価値観や世界観に共感してもらえる人に購入してもらうと言うよりも、応援してもらえるようなビジネスモデルを構築するべきではないのかと思うのです。ちなみに、私が代表を務める株式会社四方継の事実は、大工集団から起業して地域の方々に支持をいただいて20年間事業を継続できていること。創業時から大工の正規雇用、採用育成に取り込んで職人不足と言われるこの時代に平均年齢35歳の社員大工が9人在籍し、もしもの自然災害や住宅のトラブル、そして安心な暮らしを担保するメンテナンスに対応できる体制を整えていること。また、顧客の想いを形に転換するのに不可欠な設計、デザインを担う部署は全員女性で7名が顧客に寄り添い、丁寧に耳を傾けて家と言う箱ではなく暮らしに焦点を当てた全体的な計画を立てています。そして、地域の活性化を促し、四方良しの世界を実現するために、地域コミュニティー事業の専任担当者が地域で頑張っておられる方をせっせとご紹介するサポート業務を行っています。
事実と真実の作り方。
そして、私たちの真実は若年層の大工見習いの採用と育成、低価格の会員制度による地域活性化の取り組みなど、目先の収益だけにとらわれることなく、お客様の安心安全で快適な暮らしを維持し続けることと、それを担うものづくりの担い手を育てることで「一生のお付き合い」と言う約束を守るために力を注いでいます。その根底は、自分たちだけ良ければそれで良い、金だけ儲けがあればそれで良い、今だけよければそれで良いといった思考ではなく、自分たちも含めて誰もが「いいなぁー」と思えるような持続可能な循環型の四方良しの世界を、この神戸の地域から、身の回りのご縁をいただいた方々と一緒に本気で作りたいと思っています。これが嘘偽りない私たちの真実です。
昨日の「継塾」では参加者の皆さん全員に「真実と事実」を発表して頂きました。単なる思いつきのような想いでも、長年それを念じ続け、実現に向けて努力を重ねることで自分の中で真実に変わりますし、行動と実践はそれを事実に変換します。良き意図を持ち、愚直に実践を重ねることこそ、これからの時代を乗り越えていく本当の強さになるのではないかと思うのです。
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