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効率化の弊害と未来へのタネまき #職人不足問題の解消は人事制度改革から

令和3年4月22日 晴れ

今日は珍しく事務所にこもって第一次公募の締め切りが近づいてきた経産省の事業再構築補助金がらみのデスクワークを中心に、オンラインでの人事制度改革のコンサルティングと顧問先のスタッフとの電話での1to1ミーティング、あとは顧客が購入した土地の解体現場でのトラブルを収めに行ったり。普段ほとんど事業所にいないので、外出の予定がない日の方が忙しく感じます。
私は神戸の方田舎で工務店を営んでいる大工あがりの経営者で、建築コンサルタントでもなければ、社労士でもないし、ビジネスコーチを生業にしているわけではありません。本業と離れた業務ばかりを行っておりますが、長年私が学び続けている古典的マーケティング理論では他社が行っていない問題解決を行える力を身に付けることが求められており、学びを実践する中でいつしかコンサルティング的な仕事が半分以上を占めるようになってしまっています。今日は、繰り返しワークショップを行っている職人を始めとする現場実務者育成のための人事制度の基本的な考え方についてまとめてみたいと思います。

既に決まっている10年後の建築業界の破綻

日本の建築業界は既に職人不足の問題が大きく取り沙汰されるようになっておりますが、実はこの問題はまだ序の口で、これからどんどん加速して、10年後には圧倒的な職人不足で業界全体が立ち行かなくなると言われています。とにかく、今活躍している職人はほとんどが50代〜60代で、若手の職人は全国的にほとんどいないのが現実です。全国どこに行っても若手の職人は本当に少なく、現在現場を取り仕切って活躍している職人たちが引退する10年後は目も当てられない状態になっているのは予測ではなく既に事実だと言っても過言ではありません。ものづくりの仕事は、作り手がいなければ全く売り上げはできません。いくら多くのお客さんを集めたところで、工事に着手できなければ会社は売り上げが回らずに潰れてしまいます。そんな当たり前のことに気づがれた経営者は急いで職人育成に取り掛からなければならないと、職人の正規雇用に踏み切る事業所が増えてきました。

効率化の弊害

バブルが崩壊してからのおよそ30年間、日本がデフレスパイラルに陥ったのと同時に、建築業界は単価の下落と需要減で非常に厳しい経営環境が続いてきました。そのせいで、職人を正規雇用して育成する事業所はほとんどなくなってしまい、「経営の効率化」とか、「筋肉質の事業経営」等の耳障りのいい合言葉の下、必要な時以外は職人を切り捨てる、職人を正規雇用せずに外注扱いにする事業所が圧倒的多数を占めるようになり、今ではすっかりそれが業界のスタンダードになってしまっています。そんな経緯があり、今更職人を雇い入れ、育成しようとしても給与体系や就業規則などの事業所の人事制度と、職人の働き方の整合性が取れず、悩まれる経営者が少なくありません。また、現在の職人不足の根本原因である、職人の働き方が若者に受け入れられてない現状の改善も同時に行わなければならず、職人の正規雇用と育成は決して簡単に足を踏み入れられるものではありません。

金の問題かよ、

私はこれまでの20年間、大工工務店として職人の正規雇用と、若手の育成に力を注いできました。一般的な職人は加入していない社会保険や厚生年金等の労働環境整備を行うと、同業他社に比べて非常にコストがかかります。職人の給与体系のスタンダードである日給月給から月給制に転換し労働法に従って就業規則を改定したら、7名の大工で年間一千万円以上も経費が掛かる様になり、経常利益が全て吹っ飛んだ時の衝撃は今も脳裏に焼き付いています。その当時はずいぶんと苦労もしましたが、その川を渡ったおかげで職人が定着し、また職人等が主体性を持って現場作業以外の役割も担ってくれる様になり、現場での顧客満足を勝ち取りリピートや紹介の顧客が次々に来てくれるマーケティングを構築してくれています。また、若手の職人も集まるようになり、現在社員大工の平均年齢は30歳代と未来に希望が持てる環境が整ってきています。私が思うのは、職人がいなくなってしまったのも、若者に職人と言う働き方が受け入れられなくなったのも「金の問題」が大きく作用しており、その部分にアプローチしなければ職人不足問題の根本的な解決には至らないと言うことです。詳しくは下記のチカラボなる建築業界専門の情報サイトに寄稿しています。

職人の地位が低すぎる

職人不足問題の根本原因である「金の問題」をまず解決するというのは、職人の所得を底上げさせる必要があるのと、その原資となる事業所の利益を向上させる両面にアプローチする必要があります。職人の所得は人事制度の整備であり、事業所の利益向上は自社独自の市場を形成するマーケティングの構築です。私の持論はものづくり企業では現場人材育成とマーケティングは一体のもので、代表理事を務めている一般社団法人職人起業塾ではその両面のサポートを行っています。私は全国各地の建築会社から協力業者会の総会や安全大会などに講師として招かれて講演やセミナーを行ってきました。各地で職人の稼ぎを訊くと地域差はありますが、1日あたり2万円がアッパーです。週休1日で働いたとして年収に換算すると、600万円程になりますが、殆どの職人は個人事業主で道具や車両はもとより、保険、ガソリン代、高速代等々の経費がそこに含まれていることを鑑みれば実質、450万円程度にしかなりません。5年から10年もの技術習得の期間を経て、一人前の職人になったところで、その程度の稼ぎでは自分の家も建てることはできないのが現実です。これではあまりに夢がなさすぎるし、休みも少なく、怪我や病気をしたら働けなくなるリスクを考えると、若者にソッポを向かれるのも、親御さんに泣いて職人にならないでくれと止められるのも致し方ありません。要するに金の問題とは、職人の地位が低すぎる問題なのです。

難しくない付加価値の創出

大工あがりで起業した私が創業時に掲げたミッションは「職人の(自分も含めた)社会的地位の向上」です。まず初めに取り組むべきは他業種と比べても遜色のない労働環境を整備することで、その入り口こそ労働基準法に完全適合した正規雇用、月給制、社会保険、厚生年金への加入だと考えます。それと同時に若者が未来に夢と希望を持てるキャリアプランの策定と確実にキャリアを積んで年齢を重ねるごとに所得も地位も上がっていく運用(教育とサポート)を行う必要があり、この部分を一般社団法人職人起業塾で人事制度のWSや実務者向けの研修でお手伝いしています。上述したように、現在、職人として一人前に働けたとしても、その価値は年収450万円程度に留まるのは業界全体の仕組みになってしまっています。職人にその先に進んでもらうには、さらに付加価値を生み出してもらうしかありません。難しく聞こえるかも知れませんが、実はそんなに高いハードルがある訳ではなく、現場作業を行いながら、工事現場全体の工程や協力業者、職人の段取り、顧客との窓口を行って現場を進めるようになれば、現場監督や施工管理者は必要なくなり、その分の人件費を受け取れば良いだけのことです。また、現場実務者が顧客との綿密なコミュニケーションを取れば、必ず顧客満足を勝ち取るこちおが出来て次の仕事に結びつきます。多くの企業が売り上げの3%を投じると言われている宣伝広告費、販促費が必要なくなるのは非常に大きな価値になります。そして、これらは全て、一昔前の大工の棟梁が普通に行っていたことで、何も特異な事ではありません。

未来へのタネまきしませんか?

今日のオンラインでの人事制度コンサルの際も、具体的な賃金テーブル、役割と責任と給与を連動した等級制度と、見習い、職人、リーダー、マネジメント層のそれぞれに求める定義の説明を行いました。その事業所では長年一緒に現場をこなしてきた大工を正社員として迎い入れ、今後、若手大工の採用と育成に取り組むとのことでしたが、ベテランの大工さんも「年収600万円以上もらうには大工としての現場作業だけをしていたら良い訳ないはない」と、現場管理や人材育成などの周辺業務に携わることに対して前向きに取り組む姿勢を示してくれているとのことでした。まずは人事制度を整え、信頼関係に結ばれた職人と一緒に未来に向けて一歩を踏み出せば、非常に難しく高いハードルがあるように感じる職人育成も確実に解決に進むと思っています。冒頭に、10年後には職人不足で建築業界は立ち行かなくなると書きましたが、昔に比べて今は工具も良くなっていますし、職人が一人前に活躍できるまでの技術習得の期間も短くなっています。多くの事業者が今、職人育成に取り掛かれば、5年後には大きく改善される可能性も残っていると思います。モノづくりの本質は人づくり。よし、職人育成をやってみよう!と思われる方は以下のオフィシャルサイトからお問い合わせを頂ければ、アドバイスや情報提供、また人事制度改革にすぐに使える帳票もシェア致しますのでお気軽にお問い合わせください。未来にタネを植えましょう。

◆一般社団法人職人起業塾のオフィシャルサイト:
https://www.shokunin-kigyoujyuku.com
職人育成、人事制度改革についての相談はこちら→
https://www.shokunin-kigyoujyuku.com/application/contact/





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