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命より大切なものなんですか?

過日、とある講演会に参加した際、こんな問いかけをされました。

「命をかけて守るものありますか?」

もちろんありますし、私の場合、それは結構多岐に渡ります。と心の中でつぶやきました。

何を言うか、では無く何をやるか

しかし、頭の中では、自分の命を投げ出してても守りたいと思っていても、人は誰しも弱くて、自分が可愛いもの。
本当に実際の行動に移せるのか?と言われると、正直、そのシチュエーションになってみないと何とも言えないのが実際ではないかと思います。
こんな究極の選択に言葉だけでは重みが足らなすぎます。

少し近い文脈で、先日、私が校長を務めているマイスター高等学院の授業の中で、人が本当に信頼を得られるのは、何を言ったかではなく、何を行ったかだと、実践の重要さを伝えました。計画に価値はなく、実行してこそ価値が生まれる。決めたことをきっちりとやり切ろうと、社会人としてのあり方を伝えました。

決意と決断

決意を表した「やります」「やろうと思います」との言葉の危うさを私は起業してからの30年間で嫌と言うほど思い知らされてきました。人は束縛を嫌う動物が故に、必ず計画が遂行されるような緻密な計画を立てるのを本能的に避けようとします。殆どの人は無意識下で余白を確保しなければ息が詰まってしまうのを知っているし、そのように振る舞うもの。言行一致を全うする生き方はかなり意識して選択しなければ出来ません。
それには単に思った決意表明では無く、何かを手放し断じる決断が必要ですが、そんな選択をする機会は現代社会ではそうそうあるものではありません。

命の危険を感じた時

学生達に対して、言行一致の大切さをわかりやすく伝えて、理解してもらえるために、持ち出した事例は私自身のエピソードでした。
それは、東日本大震災の時の放射能汚染が大きな問題になった時のこと。

震災発生時、私達は北関東で飲食店の店舗工事を請け負っており、担当の大工が現地で工事を行っていました。
政府からはなかなか公式に発表されませんでしたが、原子炉がメルトダウンしたとの噂が漏れ出して、放射能被爆を恐れた人達が西日本に大移動を始めました。私のところにも知り合いの経営者から電話がかかってきて、「天皇陛下が京都御所に移られたらしい」「東京には芸能人が全くいなくなった」と真偽の程はわからないが、とにかく放射能が漏れ出しているとの情報が入ってきました。
社員の命を脅かす情報を聞いてしまったからには、聞き流すわけには行きません。即、現場をそのまま放置して神戸に戻ってくるように指示を出しました。

戦地に赴く

それから2ヶ月程経って、漸く原子炉がメルトダウンしていたのが明らかになり始めた頃、工事を依頼してくれていたオーナーから連絡が入りました。
「まだ計画停電が続いていますが、周りのお店は営業再開し始めました。うちの店はこれからどうなりますか?」
福島の問題はあるにせよ、飲食店チェーンのオーナーが関東で展開してきた事業を全て畳むわけにもいかないのは私も理解していましたし、工事を請け負って始めた以上、途中で放棄してしまうのは許されることではありません。
なんとか開店まで漕ぎ着けるようにするのは私達の責任です。

ただ、メルトダウンの後の放射能汚染の情報がもう少し公開されて、安全が確認できるまで少し待ってほしいと私からはお願いしました。

しかし、その後も福島原発の原子炉の処理は困難を極め、全く進展はみられませんでした。飲食店のオーナーからは痺れを切らして催促の電話が入るようになりました。これ以上は引き延ばせない、待っていてもなんの進展もないと判断した私は、自ら単身乗り込んで工事を進める判断を下しました。

現行一致は在り方の基本

今となっては、大袈裟にしか聞こえませんが、その当時は余震がまだ頻繁に続いており、計画停電が行われている状態で、放射能の影響も未知数。もしかすると、命に関わることもあるかもしれないと考えて、社員に現場に行くようにとは、私には言えませんでした。もしものことが起こるなら、それは全ての責任を追う私の身の上に起こるべきです。

私は30年前に職人の地位向上を志して起業しました。
道具の様に扱われていた自分自身が大工として働いていた経験から、職人が人並みの安心を手に入れて、未来を標榜し、希望を持てる様な業界に変えるのだと意気込んで、今もその活動を続けています。

足元では社員大工達に幸せになって貰いたいと言っている私が、放射能汚染されているかもわからない関東の現場に行ってこいとは口が裂けても言えませんでした。

志が万事の源

結果的に放射能被曝によって健康を損ねることは今のところありませんし、やっぱり大袈裟に考え過ぎていたのかと思うこともあります。
ただ、自分の身の危険よりも社員の命を優先した決断をした事実は私の中に残っています。

一度出来たことと、初めて行うことは天と地ほどの開きがあります。
自分は命よりも大切だと思うものの為に決断が出来る、出来た事実はその後の様々な人生の選択において大きな影響していると感じます。
命よりも大切なものがあります。と躊躇う事なく言えるのは私の強みになっています。

そして、それはやっぱり志を立てて、その具現化のために真摯に働いてきたからだと思うのです。
志を立てて万事の源となす。ですね。

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人は人。道具じゃない。
そして人は自分で考え選択出来る力を身につけるべき。
そんな想いで職人育成の高校を運営しています。

7月に出版した書籍、東京を中心に売れてます。日本の課題を教育を切り口に解決を模索しています。


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