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経営理念の浸透なんかいらん理由 〜伝国の辞に学ぶ企業のガバナンス整備〜

今年もいよいよ押し迫ってきて、年内に片付けるべきタスクに追われる時期になってきました。社内では1年間の振り返りと改善提案をスタッフ全員から聞かせてもらう年末の1to1面談の真っ最中で、来年の事業計画に反映させる貴重な意に耳を傾けることに注力しています。

胸に突き刺さる諫言

毎年何度も繰り返すスタッフとの面談では長年ログを残しており、メンバーの数年にわたる変化や成長を感じる機会でもあります。
それと同時に、スタッフとのやりとりの中で自分自身も少なからず変化していることに気づかされたりもします。
今回、事前のヒアリングシートの中で、私がもっと社内に関わった方が良いのではないか、との意見を貰いました。具体的にどのように関わる事を勧められているのかと考え、面談の際に聞いてみたところ、今更ながら理念の浸透がなされてないのではないかとの事でした。経営者にとっては、非常に重く1番胸に突き刺さる言葉です。

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口を挟まない関わり方

今年1年を振り返ってみると、工務部と設計部それぞれに毎月2回ずつ行っていたミーティングの仕切りを私が行うのを止めてスタッフに任せ、オブザーバー的な感じで参加するようにしました。特に、設計部では、普段からの意思決定と情報共有、相談ができていることを前提にミーティングをやめてみる試みを始めました。
事業承継のプロジェクトを進めていることもあり、意図的に権限委譲を進めながら、私が口を挟むのをできるだけ控えるように意識しています。その辺で関わり合いが少なくなったと言えばその通りです。ただ、それで20年以上続けてきた会社の理念の共有がなくなったと言うのは少し違和感がありました。

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理念の定義

私にもっと社内に関わった方が良いのではないかとの提案をくれたスタッフに詳しく聞いてみると、社長の考えが先進的になりすぎていて、同じ考え方を社内で共有できていないのではないでしょうか、との事でした。要するに、スタッフ全員が私と同じ考え方になっていないと言うことが言いたかったようです。その言葉を聞いて、私が感じたのは、理念と言う言葉の定義がどうやら揃っていなかったと言うことです。私は、私の考え方が事業所の理念だとは思っていませんが、その彼は私の考え方がそのまま会社の理念だと思ってしまっていたようです。そんな事は言った覚えもありませんし、少し意外でしたが、長年トップダウンの組織に染まっていた彼にしては当然の思考なのかも知れません。

組織を構成する人達の共有価値

ちなみに、株式会社四方継の理念は「四方よしの世界を実現する」と定めています。これは3年前にリブランディングを行い、社名とともに事業ドメインを転換した際に、スタッフ全員からヒアリングを行い、何度もディスカッションを繰り返す中で、最大公約数として抽出した全員が持っていた価値観です。皆が自分だけ良ければいいわけではなく、顧客、取引先、そして、地域社会や環境に対して自分達が事業を行うことで良くしていきたいと言う想いを持っていたからで、決して私1人で考えて定めたものではありません。その共有価値をもとに社名を四方継と定めました。逆に、その中心的価値以外の部分では、それぞれがやりたい仕事を気持ちよくやれるような会社にしようと組織変革を同時に進めています。

組織は構成する人の為のもの

経営理念のの定義というか、位置づけは組織を構成する全員が納得し、共有する価値でなければならないと私は思っていて、決して行動や思想を強制するために定めるものではないと思っています。もちろん、事業所のオーナーである創業者や経営者の事業の目的は重要ですが、組織は組織を構成する人のための組織であり、決して経営者のための組織ではありません。この認識は、自律循環型の組織を目指すには、非常に重要なコンセプトだと思っています。これが認識出来ていなければ、混迷を極める複雑な今の世界で持続可能な事業を構築するのは無理だと思うのです。

理念経営の功罪

一昔前までは中小企業で経営理念を明確に定めている事業所は半数にも満たないと言われていました。理念経営という言葉が広く知られる様になり、様々な経営者団体でも理念を定める勉強会などが開かれて今では理念を語れる経営者が随分と増えた様に感じています。しかし、その理念が経営者の思想に立脚した正義を振りかざし、従業員に対しての思想や行動の強制の為に経営者が定めていると見受けられる事業も少なく無く、理念経営が経営者の単なるエゴの具現化のために利用されているように感じることがあります。そんな事業所に持続可能性はないと思うのです。

鷹山公の有名すぎる至言

7つの習慣の元ネタに学ぶ

今回、私に進言してくれたスタッフは、私が長年学び、実践してきたスティーブン・コヴィー博士の「7つの習慣」の考え方がもっと社内全体に浸透するべきだと言ってました。私は、7つの習慣の元ネタは、日本で長年培われてきたリーダーが在り方から襟を正すマネジメント、マーケティングの思想にあると考えており、かなり以前から日本的な武士道に繋がる真摯な商売観を重要視しています。それを集約しているのが上杉鷹山公の伝国の辞です。

伝国の辞
一、国家は先祖より子孫へ伝え候国家にして我私すべき物にはこれ無く候
(国(藩)は先祖から子孫へ伝えられるものであり、我(藩主)の私物ではない)
一、人民は国家に属したる人民にして我私すべき物にはこれ無く候
(領民は国(藩)に属しているものであり、我(藩主)の私物ではない)
一、国家人民の為に立たる君にて君の為に立たる国家人民にはこれ無く候
(国(藩)・国民(領民)のために存在・行動するのが君主(藩主)であり、”君主のために存在・行動する国・国民”ではない)
右三条御遺念有間敷候事(三ヶ条を心に留め忘れなきように)
天明五巳年二月七日  治憲 
上杉神社の鷹山公像

伝社の辞

経営とは縦糸を営むと書く通り、世代を超えて存続出来る様な持続可能性を高める事とセットであり、事業所は創業者や経営者の自己実現の道具ではありません。遥か昔、トップダウン式の最たる仕組みである封建制度で統治されていた江戸時代からそんな本質的なマネジメントを実践している上杉鷹山公は間違いなく世界随一のリーダーだったと思います。鷹山公の伝国の辞に準えて事業所の在り方を見つめ直せば以下の通り、伝社の辞となります。そして、理念とはこの価値観に基づいて定めるべきであり、決して経営者の思想の押し付け出会ってはならないと思うのです。

一、 事業所は次世代にへ伝え候事業所にして我私すべき物にはこれ無く候
一、事業所、社員の為に立たる経営者にて経営者の為に立たる社員にはこれ無く候
一、社員は組織に属したる社員にして我私すべき物にはこれ無く候
伝社の辞 by高橋剛志

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建築業の実務者研修を通して持続可能な自立循環型組織への移行をサポートしています。

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