小さな工務店が取り組む理想の組織への挑戦 〜総論 三段階のフェーズ〜
令和3年4月2日 晴れ
満開の桜とともに迎えた4月、巷で話題騒然となっている事業再構築補助金の指針が発表され、公募のスタートが切られた影響もあるのか、新年度のスタートと足並みを合わせるように事業系のクライアントから次々に建築関連の相談や問い合わせが相次いでいます。幸先の良い新年度のスタートにワクワクするとともに、既に1年間で施工できるキャパをオーバーしてないかと、ドキドキした気分も同時に味わっています。相変わらずコロナ禍は暗い影を落としていますが、それを跳ね返すかの様に生命が息吹く季節と共に経済が活性化するのは喜ばしいことです。今日はそんな季節外れの繁忙期を乗り越えて顧客の期待に応えられるようにするために考え、さらなる組織改革への取り組みをスタートさせたことを何回かに渡って書きまとめてみたいと思います。
主体性のジレンマ
私は9人の大工と8人の女性設計士での自社設計・施工にこだわる小さな工務店を経営しておりまして、年間に施工出来る能力は限られています。なのでご縁を頂いた方(とその紹介)からお声がけ頂いた分しか受注しないのですが、このところ次々に頂く事業系のオファーに期限内にお応え出来るか少し不安になって来ており、施工体制の整理とスケジュール調整を緻密に行わなければと気を引き締めています。
限られた人数での施工能力を最大化するには全体最適を叶える社内体制を整える必要があります。それには各現場を担当している社員間での横断的なコミュニケーションが不可欠ですが、そもそも、私達はヒエラルキー型の管理体制を撤廃して、ホラクラシー型と言われる、プロジェクトごとに設計士と大工がチームを組んで工事を進める体制にシフトしており、小さな工務店の集合体のような組織になっています。各担当に大きな裁量を渡して主体的にプロジェクトを進める体制をとっているだけに、全体最適をコントロールするトップがおらず、横断的なコミュニケーションが希薄になりがちで、ちょっとしたジレンマに陥っている感が否めません。
個別の効率化は全体最適を損ねる
2年前にピラミッド型の組織図を解体し、大工の数だけ小さな工務店が集合した様なバラバラの関係図に書き換えたのは、意識的にホモクラシー型、ティール組織を目指した訳ではく、スタッフ個々の主体性を重んじるところから能力の最大化を図り、自律的なフラットな組織が成熟することによって全体最適に進むと考えたからです。元々、大工という職業は現場のトップを棟梁と呼ぶ様に、独立性の高い職業ですし、弊社では以前から担当大工制で着工してからは現場を任された大工が全ての差配をする体制をとっていたこともあり、大きな違和感はありませんでしたが、経営者意識を持って、自分が担当する現場の生産性を上げることにコミットすると、無駄を省くのは良いのですが、必要最低限の人員で工事を終わらせようとする様になります。行き過ぎた効率化は人間関係をギスギスさせますし、とにかく、事業所全体を俯瞰して見る目がなくなってしまいます。結果、単体の現場の効率と事業所全体の生産性が整合しなくなったりしてしまいますが、事業計画はあくまで全社目標であり、個々の担当者が大きな成果をあげたところで一定の評価はされても残念ですが目標達成の恩恵を享受できる訳ではありません。
この問題を解決する鍵は情報共有とコミュニケーション、そして、同じ目的へのコミットメントになるのですが、これがシンプルですが意外と難しく、実はどれも一筋縄で片付くものではありません。このところ、非常に業務が混み合ってきた事もあり、年頭に掲げた全社目標を達成する為にこのところ改善策にあれこれ想いを巡らせています。
烏合の衆から脱出する3つのフェーズ
ホラクラシー型と言われる管理統制型ではない組織の最も大きな弱点は、烏合の衆になりやすい事だと思っています。主体性と自律性を持った人の集合体だからこそ、それぞれが裁量を委ねられ、自分で考えて問題解決を繰り返しながら目的を見失う事なく目標を達成する事が出来る様になります。まずはじめにその部分の個々のリテラシーレベルが揃う事が重要で、これが担保されなければ組織も事業も成り立ちません。これが前提条件のフェーズですが、これだけでは組織としての全体最適はありえません。
次のフェーズは他者との関係を積極的に持ち、そして改善して余剰価値を分配し、足らないところを補足しあう事で相乗効果を生み出す集合体になる事です。ここで必要なのは、同じ目的を掲げて、同じ方向性を持っているかであり、理念やミッションを腹の底から共有できている事が大前提になります。
私が考える最終的にあるべき組織の形は上述の2つが自立的に循環し、継続できる様に整う事で、これが仕組みとして回り出すと属人的な事業から脱皮して持続可能なビジネスモデルへの完成度が高くなると思うのです。それが私が現時点で考えている組織構築の最終形であり、第3のフェーズとなります。
まずは理想の組織を目指すことから
組織がどの様にあるべきか、という根源的な問いは原始時代から繰り返されてきましたし、いまだにその最終的な解が明らかになっておりません。どちらかというと、全ての組織に当てはまる唯一無二のシステムなど存在しなくて、それぞれの組織にそれぞれの最適解があり、それを探求するしかないと思っています。私個人としては、小さな工務店の組織運営を考えた時、最も重要視したいのはメンバー全員がやりがいを持って楽しく働ける環境であり、その上でクライアントに大きな価値を提供したいと思っています。そして、この繰り返しが四方良しの世界に繋がると信じています。なので、トップダウン式の押し付けで働く様なことにはなってもらいたくなく、出来るだけ権限移譲を進めたいと思いこれまで組織改革に取り組んできました。目指すのは主体性を持ったプロフェッショナルによる合議制の運営です。しかし、民主主義は大きな欠陥を内包しており、やもすれば衆愚政治に陥りがちです。古代ローマでは卓越した哲人による強烈なリーダーシップこそが全体最適を生み出しとの説がありましたが、私は哲人一人に寄りかかる属人的な運営は持続循環型にはなりえないと思っていて、複数の哲人による会議制と哲人を次々に生み出す教育制度が一体になった運営が理想の組織になると考えています。具体的にはコミュニケーションと自主学習のスキームの構築となるのですが、その詳細は次回に譲りたいと思います。とにかく、理想を持って組織を改善し続ける事が何より大事だと思うのです。
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