想いがなければ始まらない、想いだけでは続かない。
昨日までの屋久島への研修旅行は非常に多くの学びと気づきをいただくことができました。私たちは屋久島で植林され育った屋久地杉(屋久杉ではない)を島内で加工、製品化したフローリング等の商品を全国に販売し、その利益の一部を森に還元して、森の整備を行うLLP(屋久島地杉生産者有限責任事業組合)の取り組みに賛同し、神戸で行っている建築事業でクライアントに屋久島地杉の採用の提案を行っています。そもそも、神戸で地元の木材を活用して持続可能な自立循環型の仕組みの構築を目指してきた私たちにとっては屋久島のLLPの取り組みは非常に参考になり、学ばせて頂いています。ただ、想いの部分で共感しているからといって、クライアントに屋久島地杉を採用頂けるかと言うと、そんなことはなく、ご採用頂く理由をしっかりと提案する必要があり、屋久島足を運んでその部分を担保出来る情報収集に努めています。
情報共有できる仲間こそ宝
今回、屋久島の森と共に生きる協議会の総会の後に、全国の賛同する工務店から事例共有の時間が持たれました。そこで強烈に感じたのは、ヤクイタの特性を存分に生かした提案を行うことで、想いの部分だけではなく、クライアントのメリットとして認識され、広く採用されている事実から、想いがなくては何も始まらないが、想いだけでも事業は廃れてしまうという厳しい事実です。とある山口県の工務店さんは、屋久島地杉から放出される香り成分と、そこに含まれる鎮静作用が一般の杉に対して20倍もの数値があることを示して、寝室専用の床材として提案されているとの事でした。また、とある四国の工務店さんは屋久島地杉特有の赤身が多いワイルドな風合いをアイアンの金物屋家具と合わせることで、若者から大きな支持を得ていると発表されておりました。弊社でも、現在施工中の新築現場では、虫害に対する耐性が高い利点を生かして外装材に利用したりしています。そんな罪が持つ負荷価値をしっかりと認識することで、クライエントに対する適切な提案と、その評価をいただけるのだと改めて強く感じ、屋久島を離れる前にLLPの工場に立ち寄って、新しい商品ラインナップを追加するお願いをした次第です。
道徳なき経済は罪
私は、常日頃から仕事において最も重要なのは目的であり、どのような意図を持って事業に向き合っているかを自分自身正す必要があるし、取引先へもそのような視点を持って相対するべきだと言い続けています。例えば、同じ屋久島地杉を製品化して販売している事業者でも、丸太の素材のまま(二束三文で)買い上げて、本土で加工、製品化して付加価値を自社の利益にしてしまう現在メーカーもあります。同じ素材を使った製品でも、その意図は屋久島内で製品化しているLLPとは全く違いますし、私たちはその意図を汲み取ってお付き合いする先として選択する意味と責任があると思うのです。意図とは簡単な言葉で言い表すと「想い」になると思います。その見極めこそが事業における最も重要なことだと認識していますが、実際それだけでは多くの人に理解や共感を得る事はできません。また、情報が溢れかえる今の世の中では、インターネット上に影響力がない事業は実在しないのと同じ様に扱われてしまうのが現実です。
想いだけでは続かない。
想いがなければ何も始まらない、しかし、想いだけでは事業を持続することは不可能だと言うジレンマは、私たちの取り組んでいる兵庫県の地元の材料を使うことにもそのまますっぽり当てはまります。兵庫県の林務課から引き継いだ「ひょうご木づかい王国学校」の取り組みはまさに、地域に循環する仕組みを作りたいとの想いだけで突っ走ってきた事業でした。活動を継続していく毎に様々な人とのご縁が深まり、同じ志を持った人同士が助け合うコミュニティーへと成長したことで、ようやくクライアントに胸を張って兵庫県産木材を使ってもらえるようになってきました。山から伐採した時点で丸太材を選別し、通常の一等材の安価な値段で節の少ない美しいヒノキのフローリングを作り販売できたり、長期トレンドの様相を呈しているウッドショックに影響されない、安定した価格で高品質な材木を山から住まい手まで一直線につながって供給できる仕組みを構築したりと、クライアントに地元の山から産出される材料を選んでもらう理由が明確に示せるようになりました。本当に心から嬉しくありがたい事です。
想いと価値の両輪を届ける
私たちが目指す四方良しの世界、古来から近江商人が商売の理念に掲げてきた三方良しはまず、自分だけが良ければ良いと言う了見の狭い思考を捨てて、まず初めに皆に良くなってもらいたいとの良き意図があってこそです。しかし、想いだけでそんな理想の世界が実現するほど、今の世の中は単純ではなく、長い間弱肉強食の新自由主義的な資本主義の価値観で人々は生きてきましたし、日本人はそのような教育を受けてきました。それも一巡し、持続可能な世界を作るべきとの本質に立ち返る気運が高まり、ソーシャルバンクに圧倒的な資金が集まったり、ESG投資が資金運用のスタンダードへと転換してよき意図を持つ事業が見直されている今、私たちは想いと同時に、誰もがわかりやすく納得出来るような能力や価値を示すべきですし、その両輪を回すことできっと世の中は良くなってくるのではないかと思うんです。
まず想いありき、同時に提供する価値に対する真摯な姿勢と、その責任を持つ取り組みを進めていきたいと思うのです。
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