USPから意図への転換② 〜風の時代の符号〜
昨日の記事では一般的な認知としての売り込むための方法論的なマーケティングを手放し、本質的な自社独自の市場の創造のために良き意図を持ち、それを実業に落とし込む必要性を解きました。ソーシャルバンクとして有名なオランダのトリオドス銀行に多くの預金が集まり、ヨーロッパでは半数の人が社会課題を解決する善き目的を持った投資を支持する時代が到来しています。環境や社会課題に意識が低いと言われる日本でも、収益性だけを目指すのではない意図あるお金の使い方への価値転換はそんなに時間がかからないと思っています。
USPとコアコンピタンス
20年前に私が熱心に学んでいたジェイエイブラハムが体系立てたマーケティング理論の根幹にあるのは顧客への愛情と、在り方でした。その次のステップとしてまず確立すべきなのはUSP(ユニークセリングプロポジション)と言われる競合他社に打ち勝つためのユニークな強みを明確にすることで、この強みを軸にしてビジネスを発展させると言うロジックでした。その後、世の中のスピードが速くなり、あらゆるものが一瞬にして陳腐化するようになり、さらに強みを特化させ、同業他社が真似できないレベルの圧倒的な強みを見いだすべきだと言うコアコンピタンス経営がマーケティング界隈では推奨されました。今も新たなビジネスモデルを構築する、もしくは現在のビジネスをブラッシュアップする際に常に自社の持つリソースは何か?強みはどのようなものがあるか?を考えるフレームワークは、経済産業省も推奨しており頻繁に使われています。
陳腐なUSPに意味は無い。
事業の経営に携わっている経営者もしくは経営幹部の方は、1度ならず自社の強みについて考える機会があったかと思います。しかし、情報革命以後の今の世界では、デザインや技術、素材とあらゆるものがネット上でシェアされており、自社しか持ち得ない強みを見いだすのは容易ではありませんし、ほとんどの中小零細企業にはそのような突き抜けた強みを持っている会社はほとんどないのが現実だと思います。私自身も経験がありますが、大したことがない自社の持つリソースを並べ立て、内部的な相対評価で1番ましなものを強みとして取り上げ、振り回そうとしてしまいがちです。しかし、いざマーケットの中に投入してみると強みでもなんでもなかった事に気づかされることになりました。
case1(答えは人の中にあり)
もう10年近く前になりますが、とあるエステサロンのマネージャーが私のところに相談に来られました。自社独自の強みを持とうと新しい機械を導入したり、新しいサービスを始めると一時は新規顧客が増えるが、ホームページやチラシで告知するのを見て近隣の同業他社が同じサービスを少し下の値段を潜って始められ、顧客を取られる上に単価も下がってしまう。それを何度も繰り返して、もうどうしたらいいか分からないとの事でした。私からのアドバイスは、付け焼き刃の新規サービスなど強みでも何でもないし、差別化にはなり得ない。もし強みが持ちたいならば、一人ひとりの顧客に真摯に向き合って地道に信頼関係を結ぶ取り組みをするべきだと答えました。そのマネージャーは藁をも掴みたい一心だったようで、全く畑違いの私のアドバイスを素直に受け入れ、従業員教育に力を入れて、接客とカウンセリング、アフターフォローの精度を高める仕組みを熱心に作られました。結果、そのエステサロンは昨年のコロナ下で周りの店舗が大幅に売り上げを下げる中、前年比で売り上げ増を記録して、現在もコロナ禍に全く影響されず順調に業績を伸ばしておられます。お客様に美しくなってもらいたい、毎日楽しく暮らしてもらいたい、心の安定を届けたい、との明確で善なる意図が実業に反映されて安定した事業モデルの構築につながったのだと思います。
case2(社員大工は強みではない)
私が代表を務める株式会社四方継も今の本社ビルが竣工した15年ほど前にマーケティングに取り組み始め、その際、スタッフ全員と自社のUSP(強み)とは何かについてずいぶんと話し合った覚えがあります。その時の結論は、同業他社でほとんど行っていない社員大工による責任施工ではないか、と言うことになりました。しかし、実際はお客様にとって現場で働くが大工が社員であるかどうかなど、どうでも良いことだとそのすぐ後に気づきました。重要な事は社員大工であることではなく、現場でものづくりをする職人がお客様の立場に立って誠実に物事を考えるか、プライドを持って良い仕事をやろうと思っているか、優れた知識と豊富な経験を兼ね備えているかであり、要するにそのような社員教育ができなければ強みにはなり得ないし、逆にそれができれば圧倒的な強みになるのだと気づいて社員研修、大工育成に注力をし始めて今日に至ります。圧倒的な顧客満足こそ我々の未来を作る。との意図を共有し、それが現場に浸透し始めた頃から、紹介やリピートのオファーが増えて、私たちは一切の宣伝広告を止めることができました。それが高じて現在、全国で研修事業を行っている一般社団法人職人起業塾を立ち上げることになりました。
善なる意図の共有こそ力
15年間にわたり、一切の売り込みをなくして持続可能な自立循環型のビジネスモデルを構築することに注力してきた私の現時点での結論は、たいしたリソースを持っていない会社が無理に強みを見い出しても意味はなく、それよりも良き意図を社内全体で共有すること、それを目の前の顧客一人ひとりに伝えきることこそが強みになると言うことです。他社との差別化を図る新しい商品やサービスは、情報が溢れかえる現代では一瞬にして陳腐化してしまいます。自分達ができることぐらい、他社でもできると考えるのが現実的です。それに比べ、人と人との固い信頼関係はそう簡単には崩れません。商品やサービスなどのわかりやすい、目に見えるものに磨きをかけるよりも、表面的には分かりにくくても、人の内面に隠されてある思いやり、正直さや誠実さなどの人間力を高めることの方がこれからの時代ずっと大きな効果性を発揮すると思います。昭和から平成の時代とは価値観が逆転した令和時代は見えないものの価値が高まる風の時代だと言われています。ソーシャルバンクの勃興はその非常にわかりやすい例では無いでしょうか。これからの時代、企業は人なりとの大原則通り、そこにいる「人」に磨きをかける内向きの思考こそが求められると思うのです。人が善なる意図に心を動かされるのは昔も今も変わりません。嘘や偽り、表面的な取り繕いやごまかしが通用しない本物の時代がいよいよ到来したと認識すべきだと思うのです。
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原理原則論で人間力を磨く研修やってます。
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