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USPから意図への転換③ 〜3本の矢と新卓越の戦略〜

私は神戸にある株式会社四方継の本社で足掛け8年に渡って毎月、原理原則に基づいたマーケティング理論の実践勉強会を主宰しています。スタート当初はジェイ・エイブラハムの卓越の戦略を自社に置き換え、顧客接点である現場で実装するための大工スタッフ向けの勉強会でしたが、どんな業種にも応用が効く理論ということもあり、異業種の方の参加が増え続け毎月20名から30名程の方々と学びの時間を持っています。今では独立心旺盛な中学生も継続的に参加されるなど、幅広い業種業態、様々な立場の方が集い、本質的な価値創造を考え、実践する場になっています。今月、第94回目を迎えるその「継塾」では、時代の変化に適応して本格的にマーケティングを手放すコミットメントを行います。以前にもマーケティングの構築に不可欠だと言われてきたUSPを手放す記事を書いてきましたが、今日は勉強会のテーマに合わせてもう少し続けたいと思います。ここまでの記事はこちら、


ご縁こそがマーケットのセグメント

前の記事では、これまで重要視されてきたUSPという競合に対して差別化できる「ウリの効くユニークな強み」は現代の圧倒的な情報が飛び交う世界においてはあっという間に陳腐化すると同時に、分かりやすく特徴を伝えるサービスの形容詞が逆に薄っぺらい耳障りの良い言葉だと捉えられかねない様になってしまったとの時代の変化を解説しました。それを受けて、資本主義社会から共感型資本主義へのシフトが求められる時代背景を鑑みて、もっと人と人との関係性を深める本質的な価値提供が必要であり、それにはまず「共感される意図」を明確に持つこと、それをメンバー間で共有すること、そしてクライアントに伝えるべきだと書きました。結局、強みは常に市場のセグメントとセットであり、世界一の強みを持てるのは世界に一社しかない訳で、ローカルビジネスに取り組む事業者はその地域でのオンリーワンを目指すしかありません。そして市場の限定は人口やエリアに限った訳ではなく、実際は人と人の繋がりこそがその事業所のマーケットであるのが実際のところです。元々、私たちが長年取り組み、目指してきたジェイ・エイブラハムの卓越の戦略もその部分に特化していると言っても過言ではありません。しかし、時代は変わり、その卓越の戦略さえも見直す時期に来ていると考えています。

ジェイ・エイブラハム卓越の戦略 

•あなたから何か買う人は、単なる「顧客」ではなく、あなたの保護下にある「クライアント」と考えるべきである。
•クライアントの生活をより良いものにする、という高次の目的のためだけに、ビジネスに取り組む。
•惚れ込むべき対象は、自分の商品ではなく、クライアント。
•クライアントが言葉に出来ない想い、ニーズ、課題を明確に表現し、それを満たすリーダーとなる。
•あなたやあなたの会社、商品、サービスがなかったとすれば、クライアントにとって損になる程のレベルで商売をする。
•あなたとクライアントの双方が、信頼、誠実、尊敬の対象となるような精神的な「きずな」を構築する。


新しい時代に沿った卓越の戦略

実のところ、卓越の戦略はスティーブン・R・コヴィー博士が提唱した原理原則を理論構築の土台にしていますので、全く的外れな概念になってしまったとは思いません。しかし、ヒエラルキー型の組織構造全盛の時代に作られた理論体系だけにその色が濃く反映されており、基本的なスタンスというか、今一度その在り方を見直す必要があると思っています。私が上に転載した卓越の法則で最も違和感を覚える様になったのは、売り手と買い手の対比が鮮明にわかりやすく示されている点です。伝説のマーケティング・バイブルと言われた「ハイパワー・マーケティング」がブレイクした20年前の成長拡大主義の時代と今が最も違うのは持続可能な自立循環型社会への移行が世界のトレンドに変わったことで、書籍の紹介で「業界を制圧し、他社を圧倒的なパワーで凌駕するノウハウが、豊富な事例と共に説かれる。」と書かれているのを読むと流石に時代錯誤の感が否めません。今の価値観、パラダイムに卓越の戦略を修正すれば、以下のように書き換えるべきではないかと思います。

新卓越の戦略 

•あなたから何か買う人は、単なる「顧客」ではなく、あなたと継続的な共生関係にある「クライアントであり、コミュニティーメンバー」と考えるべきである。
•クライアントの生活をより良いものにする、という高次の目的と同時に関係するステークホルダー、地域、環境にも寄与するべくビジネスに取り組む。
•愛し大切にすべき対象は、自分の商品ではなく、クライアントを含む地域社会であり地球環境
•クライアントが気付かない潜在的な想い、ニーズ、課題を共に探求し、それを満たし、解決するパートナーとなる。
•あなたやあなたの会社、商品、サービスがクライアントにとっても地域社会にとっても不可欠なレベルで商売をする。
•あなたとクライアント、関係するステークホルダー、そして地域社会が、信頼、誠実、尊敬しあう精神的な「きずな」で結びつく


三本の矢の理論

新しい卓越の戦略に書き換えた中で、最も重要なのは、人と人の属人的関係性からコミュニティー、組織、社会と共感する関係性の輪を広げたことです。3者以上の関係性になることで直線的だった価値の交換が円を描く様になり、それこそが循環型社会へのシフトを叶える入り口になると思っています。スーパーセールスによる顧客との卓越した関係性づくり、またはそのスキルの習得はあくまでも属人的な価値創造であり、一点突破の考え方です。それに比べて価値を循環させて、持続可能にしようとすれば、点ではなく面で圧倒的な信頼関係を構築する必要があると思うのです。戦国武将の毛利元就が3人の息子に「1本の矢なら折れるが、3本の矢なら折れない」と戒めた「三本の矢」の逸話(三矢の訓)とは少し意味合いが違うかも知れませんが、3本の矢は1本の矢に比べて三倍強いのではなく、矢のまとめ方にもよりますが、接着して一体化すれば「材料力学」の理論をもとに計算すると何と 1本の矢の約5倍の強度(折れにくさ) になるとのことで、また「たわみにくさ」については、1本の矢の約11倍 にもなるとも言われます。コミュニティーや組織の成り立ち、在り方を見つめ直し、共感の輪を広げる事で圧倒的な価値を生み出すことができることを示唆する良い例と言えると思います。

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信頼を得られる真実と事実

また、建築的な観点から見ると、木造建築の軸組で筋違のみで建物の変形を抑止するのに比べ、面材で柱や梁を一体化することで2.5倍〜4倍の強度になるのは業界内では常識です。点よりも線、線よりも面、また面を重ねることで圧倒的に強度、持続性が高まるのは建物の構造だけではなく、ビジネスの世界でも同じだと思うのです。VUCA化と言われる先行き不透明で、不安定極まりない時代の大きな変化と共に私たちが考えるべきは競合他社に差をつけて勝つことではなく、多くの人と思い(意図)を共感し、多様性を認め合いながら、他方行での価値交換を持続的かつ循環的に行うべきだと思うのです。来週開催する第94回継塾では、表面的な強みをアピールするのではなく、リアルにファクトを提供する人と組織のあり方を参加者の皆さんと共に考えてみたいと思います。「御社を信頼する真実と事実は何か?」「それは誰が再現してくれるのか?」そして「それはいつまで持続可能なのか?」の3つの質問を考えていただくことにします。この勉強会は無料で、オンラインでも公開してます。ご興味のある方はお気軽にご参加ください。
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