収まりではなく概念を身につけろ。by清水一人 @若手大工育成P
昨日までの二日間は国土交通省の補助事業である若手大工育成プロジェクトの講座を開催、実技研修の山場である土台敷から上棟、屋根仕舞いまでの建前工事を行いました。この講座の主たる目的は基礎的な技術を身に付ける事もさることながら、自分たちの頭で考えて主体性を持って仕事に向き合う姿勢を身に付けてもらうことと、枝葉の作業を覚えて効率を上げることではなく、建築工事全体の概要や概念を理解して本質的な思考を持ってもらうこととしています。繁忙期のまっ最中に強行した2日連続の研修を終えてみて、若者たちの振り返りの言葉を聞いて、それなりに私の意図が伝わっているように感じました。
作業員から脱出せよ
私が国交相から助成金の採択を受けているJBN(全国工務店協会)に是非とも研修事業に参加させてもらいたいと申し出て、この研修カリキュラムを組み立てた意図とは、若い大工に単なる作業員ではなく、自分で考え主体的に動き付加価値を生み出す、本当の意味での大工職人になってもらいたいとの想いです。
普段は棟梁から指示された通りの作業をするだけの若手大工達が自ら設計図や施工図をチェックして頭に叩き込み、作業手順を詳細に書き出して役割分担と工事スケジュールを組み立てて作業を行う機会は実務の現場ではそうはありません。普段の現場はお施主様の夢を叶える高額商品を作る場であり、失敗は許されません。自ずと未熟な見習い職人に任せるわけにはいかず、逐一指示確認を行う必要があります。何も考えずに言われた通りに作業しなさい、という指導は品質管理の面では致し方無い部分もありますが、同時に若者達の成長を遅らせたり、仕事の面白さを感じられなくするリスクを孕んでいます。
才能主義の職人育成
20年以上も職人育成を行ってきた私の信条を一言でまとめると、誰もが秘められた大きな才能を持っていて、それを開花させるチャンスさえ与えることが出来れば期待を大きく上回る価値を生み出す、モノづくり企業はそんな若者の職人の才能を経営資源に転化して付加価値を生み出すべきとの才能主義です。実務では知識や技能レベルが低い者に責任の重い仕事を任してしまう事は出来ませんが、出来るだけ早い段階で出来ることから任せるようにしています。そんな若者達を集めて自分たちで考え、段取りを組んで小さいながらも建物を1棟建てさせられるのは研修だからこそ。国からの援助があって出来ることではありますが、この研修をきっかけに彼ら彼女らが普段の仕事でも事前に作業内容をイメージし、検証を繰り返しながら工事全体の本質を理解するようになると成長の度合いは一気に加速する可能性があり、非常に大きな価値が生まれると思っています。すぐに大きな成果に結びつく事は無いかもしれませんが、この2日間の研修で確実にその片鱗は見えたような気がしました。
やり方ではなく概念を身につけろ
大工としての技術担当の講師の私と共に、断熱気密施工担当の講師として共に研修事業に携わって頂いているダイシンビルドの清水社長は昨日の講義で、「大事なことは部位ごとの収まりや、やり方を覚えるのではなく、全体的な住宅性能を高く維持する為の概念として、断熱気密の施工を理解してもらいたい。」と繰り返し話されていました。現在の木造建築のスタンダードになりつつある高性能住宅の施工を、気密層、防湿層、断熱層、そして通気層のそれぞれの機能と役割を把握した上で、施工と計画を行うべきとのレクチャーは塾生達の頭の中でこんがらがってぼんやりとした施工の内容が整理されたようでした。最近は国策でも住宅の省エネ化が重要視され、健康面でも住宅の温熱環境が非常に重要だとの報告が学会からも多く提言されるようになり、高断熱、高気密住宅が一般的に普及するようになりましたが、住宅の性能は設計も大事ではありますが、現場での確実な施工が出来なければ設計時の数値が実現しないことになります、性能を支えるのは結局、現場なのだと若手の大工が強く意識を持ち、理論と施工の両方を身につける事は非常に重要で、現場主導の性能設計が本来あるべき姿だと私は考えています。
ボトムアップを生み出す若手職人達
実は、住宅の基本性能が見直され、安全で快適、そして長期間に渡って資産価値が維持できる建物を建てるべきとの考え方が一般的に普及してきたのはこの15年くらいです。それでも日本の住宅はいまだに性能の面で諸外国に大きく遅れをとっていると言われており、住宅供給会社は大きく変化を迫られています。地域によって気候が大きく異なる日本の住宅は画一的な設計、施工では最適解を導くことができない分、その技術的な仮説と検証が続いており、仕様や施工も日進月歩で変わっています。しかし、建築会社はこれまで建ててきた住宅に対する責任があり、おいそれと今までの仕様や施工を否定して変える訳にもいかない事情があります。非常に変化しにくい業態であるが故、若手の大工、設計が最新の情報を学び、ボトムアップで会社に変化をもたらすことが必要で、清水社長が口にされた通り、若手大工が住宅性能に対する概念を身につけ、本質的な思考で最新の情報に触れることの意味は非常に大きいと思います。今回の若手大工育成プロジェクトは2カ年計画となっており、今はまだ始まったばかり。これからの彼ら彼女達の成長が非常に楽しみなのと同時に、塾生達が大きな付加価値を生み出す職人に成長することで、私の創業の志、職人の地位向上を少しずつ前に推し進めることが出来ると大きく期待しています。
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本質的な思考を持った職人育成の研修を行っています。
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