屋久島の森とともに生きること。
私は、山と街を繋げ、兵庫県の地元産の木材を活用して、山を活性化させる建築業者の団体、「ひょうご木づかい王国学校」の代表を務めています。神戸を中心に50社ほどの工務店と、製材所等の関連事業者の方に加盟いただいて地道な啓蒙活動を続けています。その1つが多可町で育てられたヒノキをフローリングや羽目板などの製品にして、メンバー間で流通させる仕組みで、私が代表を務めている株式会社四方継ではその多可町ヒノキを体感できるショールームを作っています。それに先行して、昨年、リニューアルした事務所の床は地元兵庫県の材ではなく屋久島産地杉のフローリング「ヤクイタ」を全面的に施工しました。一見、全く整合性が取れていないようなその選択の理由を述べてみたいと思います。
屋久島に通い続ける理由
現在、私は屋久島に滞在しています。1年に1度開かれる「屋久島の森と共に生きる協議会」の総会に出席するのと、今年で3年目、すっかり恒例行事になった神の宿る島屋久島の森に登拝するのがその目的です。屋久島と言えば縄文時代から七千年生き続けている、神の域と言っても過言でない世界最長の命をつなぐ生物、屋久杉がつとに有名です。屋久杉は天然記念物に指定されているので伐採や製品化等は厳しく制限されていますが、屋久島には植林された地杉と呼ばれる杉があり、こちらは杉の生息域の南限ということもあり独特の風合いを持つ材料として人気を博しており、木質系住宅建材メーカーなどから販売されたりもしています。しかし、その実態は、屋久島で伐採された材料を丸太のまま本土に運び、本土にあるメーカーの工場で製品化されて高い付加価値をつけて販売されており、屋久島の林業家や山主には二束三文といっても過言でない安い丸太の材料費しか支払われる事はなく、森の手入れをする費用も賄えないほど疲弊しておりました。まるで江戸時代に屋久杉を幕府に年貢として収めていた構図を彷仏するような実態に対して山に利益が還元する仕組みを作らねばならないと発足したのが「屋久島の森と共に生きる協議会」です。
森を循環させる仕組み
杉の産地の南限であり、屋久杉のDNAを引き継ぎ、同じ土壌で育てられた屋久地杉は内地の杉に比べて癒し効果のある香りの成分量が多く含まれ、虫害にも強く、耐候性にも優れた非常に負荷価値の高い木材です。しかし、丸太のまま素材だけを島外に搬出してしまうとその付加価値は価格に反映されることなく、メーカーだけがその利益を享受することになってしまいます。「屋久島の森と暮らす協議会」はこのままでは屋久島の森を守ることができないと危機感を強め、島内で製品にして販売しその利益の1部を森に還元し、森を循環できる仕組みを作り上げられておられます。そして、その取り組みに賛同する全国の工務店や団体が共同宣言に調印し、屋久地杉を使った建築を広める活動しており、私達もご縁を頂いてそのメンバーの一員としてヤクイタを広める活動をしています。私も毎年総会に出席する様にしており、今年も同じ志を持つひょうご木づかい王国学校のメンバーと共に屋久島を訪れている次第です。
神に触れる森
屋久島に通い続けるもう一つの理由は、太古の昔から循環を繰り返し生き続けている屋久島の森に入り、神に触れる時間を待つことです。今年も屋久島の山岳信仰のメッカと言われる太鼓岩から、数千年命をつないでいる上なき神たちが聳える森を歩き、樹齢7000年と言われる縄文杉まで山道を歩きました。伐採された、もしくは朽ち果てた屋久杉の株に新たな種子が宿り、その数からエネルギーを吸い上げて大木へと成長している様はまさに自然の循環システムが具現化した姿であり、三代杉と呼ばれる3世代に渡り同じ株で成長している屋久杉は圧巻です。その姿は私たちが目指している循環型社会や、持続可能なビジネスモデルの構築に強い示唆とリアルなビジュアルとして、強烈なイメージを与えてくれます。悠久の時を越えて命を継ぐその姿を目の当たりにすることで、大きな力を与えられるような気になります。
自然循環する世界の体感
地球が有限である以上、際限のない拡大成長はあり得ません。近年、持続可能な世界を作るために、循環型の営みにシフトすべきと言う論調は子供たちが学校でSDGsを学ぶ様になったことに代表されるように随分と一般的になりました。そして、循環型社会の思考は、これまでの30年間、世界中でもてはやされてきたグローバリズムと逆のローカリズムへの転換だと言われがちで、少し認識を間違えれば保護主義の色が強くなってしまいます。屋久島の森を歩けば、循環する社会とは、個々がそれぞれに持続可能なシステムを持ちながら、緩やかに繋がり、影響し合って全体最適もしくは全体の調和が取れることだと気づかされます。自分たちも幸せになるべきだし、自分たちだけが良ければそれでいいわけではない。私たちが理念に掲げる四方良しの世界の実現のヒントは屋久島の森にあると、今年も深い森を歩きながら改めて認識を深めた次第です。屋久島の皆様、お世話になりました。また来年、戻って来ます。
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