体験ではなく経験を! 関西若手大工育成プロジェクト始動
令和3年5月7日、本日私が住まう神戸市でも緊急事態宣言の延長が決定されました。私が代表を務めている一般社団法人職人起業塾では現在九州、福岡で半年間に渡る集合型研修の真っ只中であり、今月末からは関西でも新たに18期目の研修がスタートする予定となっており、今日は両方の地域での緊急事態宣言の発出を受けて急遽スケジュール見直し等の対応に追われました。
そもそも、新型コロナ蔓延下での研修事業の実施と言うこともあり、定員を半減して感染拡大防止に留意した研修の運営をする様に体制を整えておりましたが、さすがに緊急事態宣言下では少人数といえども集合研修を行うのは控えるべきだと判断しました。スケジュールの変更は塾生や所属されている企業の経営者の皆様、また講師の先生方にはご負担をおかけすることになりますが、ご理解とご協力のほどをお願いしたいと思います。
そんな先行きの見通しがまた見えなくなってきた今日、7月から新たにスタートする予定の、国土交通省の助成金採択事業、JBN(全国工務店協会)主催の若手大工育成プロジェクトの事務方のミーティングが行われました。この助成事業は昨年から3ヵ年計画で若年層の若手大工に対して実務的な技術研修を行うもので、昨年度は関西では実施しておりませんでしたが、昨年度、私は九州での講座に講師として招聘されて半年間通っておりました。実際に講師の立場で研修を実施してみて、普段は指示された通りの簡単な作業を行うだけの若い職人たちが、座学で基本的な知識を学んだ後、自分たちで段取りを考えて、主体的に現場作業を行う姿を見て、若手に成長してもらうのには非常に良い機会だと感じて、私が役員を務める京阪神木造住宅協議会でも同じ事業に参加させてもらうことにしました。本日は事業予算交付決定前のミーティングで、全国の工務店団体の事務方や代表者さん達と一緒に会議に出席させて貰い、プロジェクトの詳細な説明とともに、各地方の取り組み状況も聞かせてもらい非常に参考になりました。今日はいよいよ関西でもスタートする若手大工育成プロジェクトで私たちが提供する価値について述べてみます。
若手大工育成プロジェクト
一般社団法人JBN(全国工務店協会)は全国に地方団体があり、それらを統合して国への政策提言や、各種研修授業の実施、助成金の予算枠の申請、災害復興活動の支援、また中小工務店のリアルな実情を国土交通省等の機関に伝える役割を担っています。私が役員を務める京阪神木造住宅協議会もその地方関連団体で、各種事業への参加と共に全国の同業者と横のつながりを持てるのは非常に大きなメリットだと思っています。
そのJBNの活動で長年、大きなテーマとなっているのは深刻な職人不足の解消であり、特に建築工事で大きな役割を果たす大工の若手の職人を育成することは喫緊かつ重要な課題だと認識されています。その流れで昨年、国交省からJBNで企画された若手大工育成プロジェクトの3カ年計画が助成金の対象として採択され、私たちもその流れに乗って今回からプロジェクトに参加させてもらうようになった次第です。以前の実務研修の様子はこちら、
https://shokuninshinkaron.com/?s=%23若手大工育成プロジェクト
絶対に失敗が許されない仕事での若手育成
研修の内容としてカリキュラムに組まれているのは、およそ半年間12回の研修講座で座学で基本的な知識を身に付けてもらいながら、実際に小さなモデル棟を若者たちに建ててもらう実習研修で、土台の据え付けから建て方、外装材の施工、断熱、機密、内装仕上げまでの一連の作業を行ってもらいます。私たち建築の世界では、施主の想いを汲み取って形にする非常に責任の重い、しかも高額な商品を扱うわけで、絶対に失敗は許されません。その為、若手の見習いには簡単な作業しか行わせることが出来ず、自分で考えて施工するよりは余計なことを考えずに指示された作業のみを確実に行うことが求められます。その過程の中で、一つずつの工程を任される様になり、全体的な施工ができる様になるまでに長い時間がかかります。昨年、私が講師を務めていた若手大工育成プロジェクトの研修では、事前に正しい方法を教えますが、実際の作業はできる限り受講生に任せる様にして、失敗も数多くしてもらいました。間違いない正確な作業を行える様になるには、実際に失敗してみることはとても大事なことで、反省と改善を考えることが経験になると思っています。関西圏の大工見習いの若者たちに滅多にない失敗できる機会を大いに活用してもらいたいと思っています。
成果は状態に由来する。
私は実務研修を行う際に、一日の作業をいくつかに小割りにして、事前に理論をレクチャーし、作業内容を把握してもらったあと、受講生たちに自分たちで役割分担とタイムスケジュールを決めてもらいます。その後、実際の作業に入り、終了後、作業を行った精度と所要時間を検証し、その感想を述べてもらうようにしています。作業がうまくいかない、時間通りに終わらないなどの問題があった際にその原因についての考察も聞くと、殆どのケースで失敗を回避するのに重要なのは事前の準備と段取りだとの結論が出てきます。今日のJBN事務方との会議でも若者に習得してもらう最も重要な点は、段取りと安全衛生に対する意識だと話題に上りました。現場での怪我、労災の発生も事前に作業する状態を整えておけば、起こることはないですし、よく仕事は段取り八分だと言われますが、結果は全て状態に由来するのはどんな世界でも共通の原理原則です。その「何かに取り掛かる際にまず状態を整える」と言う概念を早い段階で若者に経験として伝えることができると、その後の成長も、成果に結びつくのも順調に進むのではないかと思うのです。モノづくりの仕事に技術とスピードは欠かせません。しかし、研修で学ぶべきは大工としての技能もさる事ながら、絶対に失敗が許されない業界で成果に結びつける考え方だと思っています。
体験ではなく経験を!
原理原則という当たり前すぎる理論、概念は誰でも頭の中では分かっていますし知っています。しかし、それを完璧に実践できるかというと、そんなことはないのが実際で、人は大まか、分かっていることが出来ないものです。その齟齬を解消するのに必要なのが経験だと思うのです。それも、誰かに指示命令されたことを行う、責任を負わないお客さん感覚ではなく、自分の頭で考え、選択するプロセスを踏んでから責任を持って行うことが重要で、指示通りに責任など関係なくやってみる(=体験)のとは全くレベルの違う学びがあると思うのです。若者の個性を生かし、才能を開花させて大いに活躍してもらうにはできるだけ早い段階で、体験ではなく、経験を積む機会を提供すべきで、それが出来れば事業所が負担する戦力として活躍するまでの若手の育成にかかる費用も大きく抑えられると思います。
これまでの建築業界、特に職人の世界では、仕事は教えてもらうものではない、見て盗め。という考え方が根強くありました。しかし、世の中は大きく変化を遂げましたし、新しい時代に沿った若者の育成方針、指導の方法論を考えるべき時にきていると思います。職人をはじめとする現場実務者は責任が重く、失敗できない仕事ではありますが、若者に出来るだけ早く、出来るだけ多くの経験を積ませる機会を作り、仕事にかかる技術と同時に主体性を育むことが必要だと思うのです。関西でスタートする若手大工育成プロジェクト、現在参加者を絶賛募集しておりますので、ご興味がある方はお気軽にお問い合わせください。建築業界の未来にタネを植えましょう!