見出し画像

タレンティズム経営の工務店が見た光

私は大工出身の工務店経営者として20数年前に起業して以来、職人の正規雇用と育成に注力してきました。そもそも、起業した際のミッションに掲げた事業の目的は職人の社会的地位の向上です。自分自身が職人として働いてきた中で感じていた未来への不安、足元の不安定さを解消して、未来に希望を持って安心して、やり甲斐を持って働ける環境を職人達に作りたいと考え、これまで走り続けてきました。その根底にあるのは私自身が学歴社会からドロップアウトしながらも建築業界に拾ってもらい、真っ当な人生を歩めるようになった実体験を元に、誰しもが必ず才能を持っており、それを開花させることで価値を生み出せる、それが出来れば職人の働き方を変えられるとのタレンティズム(才能主義)の考え方に立脚しています。

状態を整える原理原則

職人育成を行うにあたり、私がまず取り組んだのは人事制度をはじめとする社内整備です。当時、大工を正規雇用する会社は殆どありませんでしたが、敢えて職人雇用のスタンダードだった働いた分だけの給与を支払う日給月給をやめて月給制度、そして国民保険、国民年金とは圧倒的に保障が違う社会保険、厚生年金への加入を始めました。工務店というビジネスモデルを変革するにはまず初めに安心して働ける環境の整備から始める必要があると考えたのは当時私が熱心に学んでいた「7つの習慣」をはじめとする原理原則論に傾倒していたからです。職人達の手取り給料を下げずに社会保障をつけると他社ではかけていない莫大な経費がかかりましたし、馬鹿なことをする経営者だと銀行の担当者には経営の見直しを迫られました。また、同業の経営者には気が狂ったのかとまで言われました。しかし、職人の才能を開くにはまず、安心して働ける環境を整えることからだと信じていました。

成果は状態に由来する原則と実践

大工達を正規雇用に転換した次に取り組んだのは社内での研修です。まずコーチングをはじめとしたコミュニケーションの見直しから関係性の改善をはかり、想いが伝わる状態、目的を共有できる組織を目指しました。コミュニケーションの質を高めるのは永遠の課題と言っても過言ではないくらい、奥が深く簡単ではありませんが、それと同時に収益モデルへの転換を図るために進めたのは原理原則論の共有と実践に落とし込む習慣化です。私自身が率先垂範して背中を見せなければと考えてスタートしたブログは、ほぼ日更新をもう15年以上続けています。また、現在、一般社団法人職人起業塾として事業化している、原理原則論を元に現場で圧倒的な信頼を勝ち取り、顧客との関係を深め、継続することで未来の売り上げ利益を自分たちで作る考え方とその現場での実践をスタートさせました。それらの成果として、職人の正規雇用に踏み切って、研修を始めてから4年目には一切の宣伝広告を廃止しても売り上げが作れるようになりました。職人達の才能の片鱗がそれを実現してくれたと思っています。

大工と設計士が計画段階からコミュニケーションする建築

そして、2年前にリブランディング(事業再構築)してからは、事業の存在意義を見直し、四方良しの世界の実現を標榜して地域活性化のためのコミュニティー事業の立ち上げと同時に、建築事「業では社員の職人がいる強みを最大限に活かせる経営を目指して、「聴き手」と呼ばれる建築士と「紡ぎ手」と名付けた大工が一緒に計画段階からモノづくりに携わり、現場で蓄積した知見や職人ならではの感覚を設計に生かす次世代に受け継がれる価値のあるモノづくりへと変容をスタートさせました。これまで行なってきた建築とは少し視点とレベルを変える取り組みは2年の月日を費やしながら少しずつ形になり、社員大工の大ちゃんの自邸の建築では全く私はノータッチで設計士のガラちゃんと二人三脚で設計を進め、私が見ても(手前味噌ながら)所謂工務店レベルから少し抜け出た感のある素晴らしい出来栄えでした。

誰もが才能を持っている

先日、兵庫県の地域産材利活用の設計デザインコンテストの公開審査がありました。そこで、大ちゃん、ガラちゃんコンビがデザインした物件が並み居る有名な設計事務所や工務店、デザイナーの案件を押さえて優秀賞を受賞、また、一般に公開された全作品の中から建築業界以外の目線で選ばれた投票の結果であるアンバサダー賞もW受賞の栄誉に輝きました。特に審査委員長の三澤文子先生には「大工がいい」とお褒めの言葉を頂きました。本人達も非常に喜んでいたのはもちろんですが、私にとってはズブの素人から職人の採用を行い、長年かけて少しずつ、諦めることなく育成をしてきた結果が、彼の才能を開いたのだと、この20数年行なってきたタレンティズムに立脚した経営の一つの答えを見せてもらったようで、本当に嬉しく、そしてありがたい気持ちになりました。全ての人は必ず大きな才能を持っている。それを見出し、開花させることこそ、縦糸を繋ぐと言われる経営の本筋だと改めて感じさせられました。今後も、自社だけではなく日本中の職人がそれぞれが持つ才能を活かせる世界の実現を目指して歩みを進めて行きたいと思います。
大ちゃん、ガラちゃんW受賞おめでとうございます。次はお客様のお宅でもカッコイイモノづくりを提供してください。

___________

聴き手と紡ぎ手による体験を創造するコミュニケーションビルド


タレンティズムに立脚した実務者研修事業


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?