社会で通用する中学校での学びってなに? 〜大工のお仕事体験授業〜
現在、私が住まう兵庫県では中学校が地域の事業者とコラボしてキャリア教育を行う「トライやるウイーク」の真っ最中です。11月に入ってから、一応、専修高校の校長をしている私と若手大工の和希は毎週のように講師として中学校へ職業体験の授業に出張しています。基本的に、この手の体験授業の講師は和希に任せているのですが、今回は受講する人数が多いという事で私も同行し、ついでに張り切って大工の技術体験の前説を行いました。
「1+1=2」は本当に合ってるか?
授業の冒頭に中学1年生の子供たちに対して「将来、社会に出てどんな職業に就いて活躍をしたいか決まってる?」と訊いてみると、数名の生徒が勢いよく挙手してくれました。1年生は反応が良いみたいです。答えてくれた生徒はそれぞれ、料理人、助産師、設計士になりたいと答えてました。意外にしっかり考えているのだと思いましたが、明確に将来の職業をイメージしている生徒はごく一部で、殆どの生徒はこれから勉強して選択肢を探してみるとの意見を述べていて、それが大半を占めました。当然と言えば当然ですが。
そんなやりとりをした後、中学校しか出ていない大工上がりの工務店社長であり、マイスター高等学院の校長の私から伝えたのは、「学校で学ぶことは意外と単純でシンプルでも、とても大事なことがある。学んだことを一つずつしっかり身につけるようにしてください。」とのアドバイスです。
分かりやすい例として取り上げたのは算数です。私が「1+1=?」と聞くと元気よく「2!」と全員が答えてくれました。しかし、それは果たして本当か?と質すと、え?!何を言ってるのか分からない、という反応が返ってきました。
当たり前+当たり前=当たり前
1+1=2の答えの怪しさ、不確定さを感じてもらうために、小学校から習っている算数の計算式のように、なんでも当たり前の通りに答えが出るのなら簡単で良いのですが、世の中はそんなに簡単じゃないんだよ。という前置きを話した後に大工体験のワークショップに入りました。
私たちが行う中学校での体験授業では木造伝統工法の仕口である四方蟻継を刻んでもらっています。授業枠の2時間では墨付けからでは到底終わらないので、事前に墨をつけておき、その通りに鋸を引き、鑿ではつりってもらいます。二人ひと組になって、雄と雌を刻み、それぞれが墨通りに刻んで出来上がったら、共同作業が成り立ち、組み上がるという段取りです。まさに、1+1=2の世界の体現だと説明しました。
「君たちがこれから行うのは、木の柱に書いてある線の通りに切るだけだ。お互いにそれが出来たら組み上がるように線を引いている。当たり前のことを当たり前にできるのが仕事の入り口なんだよ。」と職業体験授業っぽい話で締めて、作業に取り掛かってもらいました。
簡単なことが出来る訳じゃない
作業を始める前に、私がノコギリの引き方、ノミの叩き方のレクチャーをして、分かったかな?と繰り返し確認してから作業に入ってもらいました。私がさも簡単そうに2方向の墨通りにノコギリを引く姿を見て、皆、意外にやることは単純で簡単なんだ、という顔をしてスタートしました。
しかし、初めての作業がそんなに上手くいくわけはありません。ただ真っ直ぐの線通りにノコギリを引くだけなのに、うまくいかないと皆が苦心しながら、それでも一生懸命、黙々と作業に勤しんでおりました。結局、時間内に刻み終えた生徒は17名中4名程度、しかも墨通りに刻めていないので組み合わせられないという残念な結果になりました。せっかく出来上がったのに〜と、悔しがっておりましたが、それでも皆、普段触る事のない道具で木を刻んだ事自体が結構楽しかったようでした。
中学校で学ぶべきこと
授業の最後に、「1+1=2の式を成立させるには1を正確な1に、約束通りの1に、それも一人だけではなく、皆がそれを出来なければなりません。当たり前のことが当たり前になるには、技術、知識、経験、体力といった複合的な要素が並立し、それらが一つになってこそ1として成り立つのです。今日は大工の仕事を通してそんな体験をしてもらいました。君たちが今、中学校で習っているのは、そんなモノの見方、考え方でもあるのです。是非ともしっかりと学び、身につけてください。」との言葉で2時間の授業を締めました。
そんな私の話がどの程度、中学1年生の生徒たちに伝わったか、響いたのかは分かりません。しかし、当たり前のことを当たり前に行うことこそが難しく、重要だという事だけは(しつこく繰り返し言ったので)少しは伝わったのではないかと思います。ついでに、モノづくりの世界に興味を持つ生徒が現れてくれたら、半日かけて授業を行った甲斐もあるし、言うことはありません。
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働きながら高校卒業資格の取得ができる上に、社会で活躍するための人間力を身につける志教育を行っています。