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大工の醍醐味 〜誇りと自信と志〜

大工上がりの経営者である私は、国土交通省の大工育成事業の若手大工向けの技術実習の研修講師を務めています。現在行っている2年計画の研修事業では昨年建てた2階建の小さな小屋を改築して小さな平家の建物にリノベーションする実務研修を行っています。就業3年以下の若手大工見習いを集めての研修は懇切丁寧に技術を伝える研修を行う講師が多いのですが、私は少し考え方が違っており、技術研修にもかかわらず、違う部分に焦点を当てた研修を行っています。

若者達が受けたい授業

研修用の実習棟である小さな小屋の構造の組み替えは今ではあまり大工が行わなくなった墨付けや手刻みで行いました。プレカット(構造木材の機械加工)全盛の今の時代、実際の業務に沿わない面は否めませんが、大工として構造材の加工が出来ないようでは半人前以前のレベルで、それはもはや大工とは呼べないと私は思っています。以前から、実務では手刻みをするチャンスはなかなかないので、せっかくの研修の機会に墨付け、手刻みの練習をさせたいと思っていました。前期の最終講の日に今期の研修内容の希望を受講生達に訊いて見たところ、若干の誘導と言うか、私からの提案もしましたが、彼らから手刻みをしてみたいとの意向があがり、それを聞き入れて今期の研修内容を決めました。

大工として駆け出した頃

話は変わって、私がまだ駆け出しの大工として起業した頃、とあるお客様が建て替えの工事を依頼してくれました。その頃は設計スタッフがいないどころか、私は職人として弟子と二人で下請けの大工工事を行っており、図面も私が手書きで書いて打ち合わせを繰り返していました。今、当時を振り返って考えるととんでもなく頼りない吹けば飛ぶような個人事業主の大工が良く新築の工事を注文してもらえたものだと驚いてしまいますが、とにかく起業して初めての元請けの大きな仕事に気合いを入れまくって、夜中遅くまで図面を描いてはお客様の元に持っていって打ち合わせを重ねたのを思い出します。

人生最高のシビれる経験

建築士の免許は持っていたとはいえ、設計実務の経験など皆無だった私が描いた図面も必死でお客様の要望を聴いた内容を反映し続けてなんとか納得頂くに至り予算の課題も乗り越えて無事契約、着工となりました。初めての元請け工事はまず材木の仕入れを売り掛けにしてもらえる様にと材木屋の番頭に頼み込むところからはじめ、様々な関連業種の職人をツテを頼って集めて協力をお願いしました。その当時に紹介してもらった取引先や職人とは20年経った今も殆どお付き合い頂いています。分からないことだらけで大変な思いもしましたが、完成を迎えた時に感じた大きな達成感はそれまでの人生で味わった事がない痺れる体験でした。自分で設計した建物が実際に出来上がる、これこそが大工としての醍醐味だとその時、心のそこから感じたのを今も鮮明に覚えています。

良い体験の共有と連結(SECIモデル)

現在行っている若手大工育成育成塾の研修で、小さくて簡単なつくりながらも、自分達でカッコイイ建物になるようにデザインを考えて、手刻みで作り替えて見たら?と塾生達に提案してみたのは、自分自身の大工としての醍醐味を味わい、痺れた原体験があったからです。(暗黙知)
決まった図面通りにただ作業を繰り返してモノづくりをするのではなく、自分達で考え、考えたものを実際の形にする。そこで得る高揚感と達成感は何物にも変え難い経験になるだろうと考えて、実務経験の浅い若い大工達には少し荷が重い、失敗を繰り返すことは容易に想像がつく難しい内容になるのを承知で勧めました。(形式知と共有、連結化)

誇りと自信と志

想定した通り、今回の実習研修では、なぜこんなに失敗を繰り返すのか?と少し嫌気が差すくらい彼らは失敗を重ねました。それでも、なんとか無事に上棟した後で振り返りの感想を訊いてみると、「かっこいいのができた」と頬を緩ませて話していました。彼らが次に手刻みでモノづくりをするのは失敗の許されない本番になるであろうことも皆が当然分かっていて、その上で今回の研修の達成感と共に反省点を今後の仕事に生かすことが出来れば、きっと素晴らしいモノづくりの担い手になってくれると思います。
誇りと自信を持って、自らが考え、自ら実際にモノづくりが出来る、そして、相手の気持ちを汲んで想いをモノづくりに込めて人の幸せをつくる。そんな志の高い大工に育ってくれたら、私が柄にもなく先生役を買って出て開催している研修をやった甲斐が出るというものです。彼らの未来に期待したいと思います。

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技能だけではなく、志を固める研修も行っています。

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