ポケットモンスター「囚われのハートゴールド」の悲運
田舎のゲーセンで思わず撮った写真があったので、まずはそれを見てほしい。
よくある、「クレーンやら何やらで『鍵』を取って、その鍵に合った箱を開け、景品をもらえる」というやつだ。写真はその「景品」の一覧である。その景品の中に、目を疑うものが入っていた。
そう、
『ポケットモンスター ハートゴールド』だ。
これにはかなり驚かされた。どう考えても、その場所にあるべきものではないだろう。
通常、この景品ゾーンには最新のゲーム機だとか、最新のゲームソフトだとか、何かしらの魅力的な景品が置かれているべきだ。
しかし、ポケットモンスター ハートゴールドが発売されたのは2009年9月。状況から察するに、このカセットは10年近く、この場所に置かれ続けているのだろう。
なぜ、こんなことが起こっているのか。考えてみればみるほど、このハートゴールドが不憫に思えた。
「囚われのハートゴールド」の悲運
この写真を撮ったのは、今年の正月、祖母の見舞いで熊本県・天草に行った時のことだった。祖母の見舞いを済ませ、近くにある墓に参りに行く前に立ち寄ったスーパーで、このハートゴールドに遭遇した。
昔から、そのスーパーの一角にはちょっとしたゲームコーナーがあり、私はその場所が好きだった。祖母の家近くにある唯一のアミューズメントであったためだ。
私は一度、そのゲームコーナーにて苦い経験をしたことがある。小学校2年生のころ、当時大人気であった「ゲームボーイアドバンスSP」を獲得するために、なけなしの小遣いを使いに使い、2000円ほどを無駄にしたのだ。(2000円は当時の私にとっては大金だった)
ちなみにその時にプレイしたゲーム筐体はすでになくなっており、ハートゴールドが景品のゲーム筐体は違うものになっていた。とはいえ、景品を獲得する仕組みも、設置されている場所も同じであったため、どこか懐かしい。
だが、やはりそこに今「ハートゴールド」が置いてあるのは納得がいかない。本来そこにあるべきは「喉から手が出るほど欲しいもの」であるべきなのだ。かつての自分は、ゲームボーイアドバンスSPが置かれたショーケースに夢を見ていた。冷や汗をかきながら、なけなしのお小遣いを溶かし続け、軍資金が尽きたときにはとてつもない無力感に襲われた。
当時のゲームボーイアドバンスSPと同様、当時「ハートゴールド」がショーケースに入れられた際には、子供たちはそこに羨望のまなざしを向けていたことだろう。
それが今や、である。
かつて多くの子供たちが楽しんでいたニンテンドーDSは3DSに変わり、それさえも「NINTENDO Switch」へ変わってしまった。一方の『ポケットモンスター』もブラック・ホワイト、X・Y、サン・ムーンから最新作のソード・シールドまで、複数タイトルが発売された。
その間、この色あせたハートゴールドはスーパーのゲームコーナーにて、誰に遊ばれることなく、ただ居続けた。
「にじいろポケモン」のホウオウも経年劣化には敵わず、色が落ちてきてしまった。ケースの角も湿気でふやけてしまった。「ポケモンといっしょに冒険できる! 」という売り文句のポケウォーカーはきっと今では、BOOK OFFのジャンクコーナーくらいしか居場所がない。
10年間、ケースに囚われ続けたハートゴールドが羨望のまなざしをもう受けることはもうない。そして、これを欲しがるために100円をゲーム機に入れる人ももういない。
店側からすると、このハートゴールドは、本来の販売価格よりも多くの利益を生み出した、優秀な存在だったかもしれない。
しかし、このカセット本体は、「誰かにプレイされる」という本来の目的を果たせぬままに、その賞味期限を終えてしまった。
そしていつか、店員の気まぐれでまた別の景品へとポジションを譲ることになるだろう。私が次にこのスーパーに行く頃には、すでにいなくなっている可能性も高い。
かつてショーケースにて注目を浴びていた「囚われのハートゴールド」は、10年の時を経て、ただの「見世物」として、今日も誰かに写真を撮られる。