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【Vol. 2】製紙会社のケーキに関する特許|えっ、こんな企業があんな特許を!? 最新の食品特許を見てみる

このたびは、本サイトをご訪問していただき、まことにありがとうございます。

こんにちは。私は、食品・化学・バイオ・農業分野において、特許をはじめとする知的財産に関する仕事に携わっております、清原 筆養父(きよはらの ふでやぶ)と申します。

このページでは、
 ・食品関連企業以外の企業
 ・一般にあまり知られていない企業
 ・大学や公的研究機関
による食品関連の最新の特許を、食品メーカーの元研究員で、一級知的財産管理技能士(特許専門業務)である私・清原 筆養父のセンスを頼りに、独自にピックアップして、ご紹介していきます

どのような特許を紹介するのかと言いますと、例えば、
 ・玩具メーカーが申請している菓子の特許
 ・聞いたことのない化学会社が申請している乳代替食品の特許
 ・社名に「食品」という語が含まれるものの、知らない企業が申請している冷凍食品の特許

 …などなど
です。

ここでは、なるべく、特許の専門的な用語は使わずに、書いていくつもりです。
まずは、「ふ~ん」という感じで結構ですので、リラックスして見ていただけますと幸いです。

では、今回も、元気よく、ピックアップした特許をご紹介してまいりましょう。

● ケーキおよびケーキの製造方法|日本製紙株式会社(特開2024-172018


製紙会社が申請した、ケーキに関する特許です。ケーキの箱ではありません。
なぜ、製紙会社が食べ物の特許を? と思いませんでしたか。私も、そう思いました。
そのような違和感を抱くのは大事です。もやもやした気持ちをできる限り解消しようと、食品特許探偵団は今回も、特許を読み進めていきます。エンタメ~テレのガチンコ心霊情報番組『北野誠のぼくらは心霊探偵団』とは違って、「ぼくらはモヤモヤ食品特許探偵団」といっても、団員は私1人しかいませんが……。

全王子が泣いたアレとは?

特許を読んでいきますと、どうも、「カルボキシメチルセルロース(CMC)」がポイントではないかと気づきます。そのような考えに至ったのは、特許に次のようなことが書かれていたからです。

最近では、健康志向の高まりを背景に、牛乳や卵などの動物性原料の代わりに植物性原料を使用した、いわゆる「プラントベース食品」が脚光を浴びるようになってきています。

ただ、卵を使わない場合にあっては、生地の膨らみがもうひとつだったり、膨らんだ生地も安定しなかったりするため、焼いた後のケーキがボリューム感に劣るといった問題がありました。

そこで、卵や乳成分を含まない場合であっても、卵や乳成分を使ったケーキと食感や風味の点で遜色がなく、さらに、ボリューム感もあるケーキは作れないものかと、東京・王子の研究開発本部で研究員があれこれ検討していたところ、つ、ついに、
CMCを配合すればいいじゃん!
という結論が出たのでした。これには、全王子が泣いた、いや、そんなことはありませんでした……。

CMCが重要なポイントである点は、CMCの説明にボリュームを割いていることからも、分かります。糖類、穀粉類および豆乳類の説明は合わせて、1ページもありません。これに対して、カルボキシメチルセルロースの説明は、実に7ページにもわたっています。ち、力が入っていますよね。
同様のケースでは、例えば、香料会社の特許の中に、香料がその特許の必須成分でないにもかかわらず、香料に関してかなりのボリュームを割いて書かれているものを見かけることがあります。各社、得意なジャンルは、いろいろと披露したいのですね。

パッケージだけではなかった

日本製紙Webサイト「セルロース誘導体(CMC:カルボキシメチルセルロース)製造技術・セルロースパウダー製造技術」から

日本製紙社は、印刷用紙の大手メーカーです。紙以外に、食品添加物用のCMCも開発しています。
今回ご紹介しています特許技術のように、ケーキのパッケージに飽き足らず、ケーキそのものにも関わりたくなったのでしょうか。やはり、ケーキの誘惑は強し。ここは、そういう事にしておきましょう。そういう事にしておけば、これから先も、イイ感じですからね。ウン。

パウンドケーキを試作して、パネラーによる官能評価を実施した結果、
CMCを含むパウンドケーキは、CMCの代わりに加工デンプンを使用したパウンドケーキと比較して、外観、匂い、味、食感、総合的なおいしさの、どの項目においても、同等以上に優れていることが分かりました。

さらに、下の写真を見ますと、お分かりになりますでしょうか。
パウンドケーキの断面写真を示す下段の左から1番目~3番目の、CMCを含むパウンドケーキは、一番右の、CMCの代わりに加工デンプンを使用したパウンドケーキと比較して、中央部分が明らかに盛り上がっていますよね。このことから、CMCを含むパウンドケーキは、CMCの代わりに加工デンプンを使用したパウンドケーキと比較して、ボリュームアップしていることが分かります。

公開特許公報から

試作は、広葉樹パルプからCMCを作るところより始まります。えー、そこからかいっ! 何と言いますか、製紙会社らしい、そんな感じがいたします。「既製品なんて、使わねえ。ろくなもんじゃねえ」という、こだわりのようなものが見え隠れしています。「やってやるって!」 みたいな。あっ、「ろくなもんじゃねえ」は、余計でしたかね。

なお、日本製紙は、この特許と同日に、カスタードクリームに関する特許を申請しています(特開2024-172017)。こちらも、CMCを使っています。

まやかしでは、ごまかされない?

今回のケーキのように、卵や乳成分の代替品を使っても、卵や乳成分を原料に使用した食品と風味や食感に見劣りがせず、かつ、安全性に特に問題がないのでしたら、「ごまかし」、「まやかし」、「まぼろし~」など、とやかく言いません。

先日、私は、牡蠣入りグラタンを頂いたのですが、商品に添付された紙片に、「チーズにセルロースが入っていないので、チーズ本来の味を楽しめる」といった内容のことが書かれていました。確かに、グラタン自体は、風味がよく、おいしかったです。
食品によっては、乳成分などの代わりにまたはその使用量を少なくするために、化成品などを加えると、本来の風味が薄れてしまう場合があります。かといって、それをカバーするために、多くの添加物を入れて‘本物’に近づけようとするのは、いかがなものかとも考えます。

ちなみに、製紙業界は、特許に関する紛争が多いことでも知られていますが、今回ご紹介したようなケーキやカスタードクリームに関する特許に触れますと、そういうことを忘れて、何だかホッとしてしまいました。

それから、どうでもいいことですが、今回ご紹介した特許の「ケーキ」の例には、パウンドケーキのほかに、スポンジケーキ、ロールケーキ、ホットケーキ、ブッセ、バームクーヘン、スナックケーキなどがあるそうです。3時のおやつに食べたくなるラインナップではありませんか。そう言いながらも、私は、この記事を書く直前に、頂き物のパウンドケーキを1切れ食べていました。やっと1本を食べ終えたところです。パチパチパチパチパチパチ。ところが、もう1本あるのです。うんざりかって? ご心配くださり感謝しますが、それはございません。昼食後の楽しみですから。

最後に、ようやくですが、要約を以下に示しますね。

◇要約◇
【課題】 卵や乳成分を含まない場合であっても食感や風味が遜色なく、ボリューム感を有するケーキを提供する。
【解決手段】 糖類、穀粉類、豆乳類、及びカルボキシメチルセルロースを含むことを特徴とする。

「こんな記事、書いていて、何か意味あるの」
そうも言いたくなりますよね。分かります。
けれども、私は、世の中には、価値のなさそうなものほど、価値があると信じています。物事、どう転ぶか分かりませんからね。
価値を信じて、生きてゆけばいいさ
と。そう今日も叫んで、明日へ走っていきます。

ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。
では、次回もお楽しみに。

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