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【Vol. 4】写真館が申請した謎の飲料に関する特許|えっ、こんな企業があんな特許を!? 最新の食品特許を見てみる

このたびは、本サイトをご訪問していただき、まことにありがとうございます。

こんにちは。私は、食品・化学・バイオ・農業分野において、特許をはじめとする知的財産に関する仕事に携わっております、清原 筆養父(きよはらの ふでやぶ)と申します。

このページでは、

・食品関連企業以外の企業
・一般にあまり知られていない企業
・大学や公的研究機関

による食品関連の最新の特許を、食品メーカーの元研究員で、一級知的財産管理技能士(特許専門業務)である私・清原 筆養父のセンスを頼りに、独自にピックアップして、ご紹介していきます。どのような特許を紹介するのかと言いますと、例えば、

・玩具メーカーが申請している菓子の特許
・聞いたことのない化学会社が申請している乳代替食品の特許
・社名に「食品」という語が含まれるものの、知らない企業が申請している冷凍食品の特許

 …などなど

です。

ここでは、なるべく、特許の専門的な用語は使わずに、書いていくつもりです。
まずは、「ふ~ん」という感じで結構ですので、リラックスして見ていただけますと幸いです。

いやぁ、何とか4回、記事の投稿を続けることができました。あっ、記事を締めようとしている? まだ、始まったばかりなのに……。これは、失礼しました。
では、4回目の今回も、元気よく、ピックアップした特許をご紹介していくことにしましょう。

● サチャインチ入り飲料及びその製造方法|株式会社KOWA(特開2024-175675


タイトル(発明の名称)をご覧になって、皆さまは、どのようなものかイメージできるでしょうか。
何かが入った飲料(ドリンク)であることくらいは、お分かりになると思います。
「何か」、something、それは得体の知れないものが入っているのでしょうか。Oh my gosh!
今回ご紹介する特許には、「?」マークが何個か付きます。

何インチ? 「サチャインチ」

サチャインチ。星形の果実が特徴
出典:ウィキペディア(NusHub氏提供)

まず、「サチャインチ」。何ですか、それは。この特許に当たるまで、私は全く知りませんでした。サン(3)インチですか(違うだろ!)。
皆さまは、サチャインチをお聞きになったことがありますか。
響きだけ聞くと、タレントのヒャダインさんの仲間のようです。ヒャダインさん、BSで放送されている、サウナに特化したバラエティー番組『サウナを愛でたい』、毎回ではないけれど見ていますよ。私、サウナには、めったに行くことはありませんが。一応、ご報告まで。「ととのった」の生みの親・濡れ頭巾ちゃんにもよろしくお伝えください。ウフッ。誰に向けて言っているのやら……。

サチャインチ(Sacha-inchi)は、南米や、カリブ海に近い一部地域で栽培される、多年草の常緑つる性植物。大きな実をつけ、その種子を食用にします。サチャインチの種子は、タンパク質、脂肪、炭水化物、食物繊維など、栄養分が豊富。「インカのピーナツ」とも呼ばれ、特にオメガ3脂肪酸を重量比で約50%も含むパワーフードだそうです。南米からは、いまだに、いろいろなパワーフードが出てきますね。

サチャインチの利用方法は、
実を乾燥させた後、炒(い)ってナッツとして食べたり、
実を低温圧搾で搾った後の搾りかすを乾燥し粉砕、粉状にして料理やお菓子の材料としたり、
実を粉砕、圧搾して搾り出した油脂を食用油として使ったりするのが一般的です。

日本では、数年前にTV番組で紹介されたこともあるようですが、今では話題に上がることは少なくなりました。

サチャインチは、オメガ3脂肪酸を豊富に含むことで、栄養面でメリットがある一方、わずかな渋みと青臭さ(「カビ臭い」と言う方もいるようです。)といった独特のクセがある点がデメリットでした。サチャインチを原料とした飲料を製造できれば、栄養価の高い飲料となりますので、スポーツドリンクなどの商品化への道が開けます。しかしながら、独特の風味と臭いを抑えて飲みやすくするのは難しかったため、飲料の製造・開発の障害となっていました。

そこで、考え出されたのが、サチャインチオイル(またはサチャインチパウダー)と、沸騰させない程度(85℃~99℃程度)に熱した湯とを混合することでした。これらを混合することで、サチャインチオイルに含まれる渋み成分やにおい成分は、湯に溶け出して希釈されます。その結果、希釈液(=湯)を原料として使用した飲料を飲んでも、サチャインチオイルそのものと比較して、渋みや独特の香りや味を感じなくなります。そして、希釈液に、水、酸味料、甘味料、乳化剤、安定剤および香料を所定の割合で配合することにより、渋みや青臭さを抑えて飲みやすい飲料が完成です。

渋み成分や青臭い成分を除去すると、飲料中に、サチャインチの有用物質であるオメガ3脂肪酸が含まないようになってしまう。かといって、渋みや青臭さが気になって飲みにくいのでは、飲料として不適です。そうならない程度に、サチャインチオイルを処理する必要があったのです。

なぜ、写真館が飲料を?

それから、特許を申請した企業です。
「KOWA」という会社。どうやら、「キューピーコーワ」や「キャベジンコーワ」などでおなじみの興和株式会社ではなさそうです。興和社の正式な社名表記は、「興和株式会社」です。興和株式会社の外国にある関係会社には、「Kowa XXX」という表記の会社がありますが、特許を申請した企業は、福岡県内にあります。
特許に書かれた住所を調べてみますと、そこには3階建てのビルが立っていました。そのビルの正面入口の上には、「コーワ写真館 (株)KOWA」と書かれた看板が掲げられています。
株式会社KOWAの正体は、成人式やウエディングなどの記念写真、証明写真を撮影する写真館だったのです。アァ、何ということでしょう。

ワッ、明らかに写真館だった……
KOWAのWebサイトから

株式会社KOWAは、高見盛が生まれた1976年(昭和51年)に、「コーワ写真館」として創業。モンチッチが誕生して35年にあたる2009年(平成21年)に、別の場所にあった店舗と合併する形で、株式会社KOWAとなりました。従業員10人程度の家族経営の企業です。

ちなみに、「フォトスタジオKOWA」という写真館が、東京・江戸川区にあります。株式会社KOWAと所在地が明らかに違いますが、それにしても、あー、紛らわしい。フォトスタジオKOWAのWebサイトも、ついつい見てしまいました。その成果を有効利用したいと思いましたので、ついでに、ここでご紹介したまでです。ハイ。

発明された方は、KOWAの社長さん(代表取締役)お一人でした。KOWAのWebサイトには、社長さんのりりしいお姿を写したお写真が掲載されています。ポーズ、アングルや背景などから、写真館で撮ったのが分かる、典型的な一枚です。ご自分の写真館にも飾られているのかな?

修整(「修正」といえなくもない?)が利く証明写真サービスも好評?
KOWAのWebサイトから

MAKE YOU FREE 迷宮入り?

りりしい社長さんのお写真のことは置いておきまして、なぜ、写真館が飲料の特許を出したのでしょうか。お待たせしまして恐縮です。一つ前の見出しに沿って書いていくことにします。

KOWAのWebサイトには、飲料のことは全く触れられていませんでした。
また、「Googleストリートビュー」で写真館のビルの外観やその周囲をくまなく見ましたが、建物の窓から見える建物内部の様子、建物の周りに設置されたのぼりなどからは、飲料につながる決定的な証拠は見つかりませんでした。
Webサイトからは、社長さんが、写真コンテストで数々の賞を受賞されていること、福岡ソフトバンクホークスのファンであることは分かりました。しかし、社長さんと飲料製造・開発との関係が、IKKOに、ではなく一向に見えてきません。

社長さんは、発明好きなのでしょうか。発明が お好きでしょ もう少し しゃべりましょ♪~
特許の申請者(出願人)は株式会社KOWAとなっていますが、同社は家族経営の小企業です。社長さんのお力が強く及んでいるのは、言うまでもないでしょう。社長さんは、お一人だけで、本業とは全く関係のない発明を創作して特許申請しています。そうしたことから、社長さんは、個人発明家と同様の存在と考えられなくもありません。社長さんくらいの年代(シニア世代)の方の中には、そのような方はいます。私が過去に勤めていた職場でも、そういった方からの特許申請に関するご相談を何件もお受けしていました。時間だけでなく、温めていた夢もあるのでしょう。もっとも、時間があるといっても、近所の図書館でいつも朝から特定の席に陣取ってスポーツ新聞ばかり読んでいる、そんなはた迷惑な時間の使い方はしていないと思いますが。

それとも、株式会社KOWAとしてサイドビジネスを展開したいのか。繰り返しますが、特許の申請者は、社長さんではなく、法人名義ですし。
この特許を申請してから間もなく、特許庁に対して、特許が合格か不合格かを判断してもらうために手続きしています(審査を請求しています。)。ですので、本気度は低くはないようです。個人発明家や小企業の方の特許申請では、申請してほったらかし、申請後に連絡が取れなくなった、といったケースも少なくないですから。

その後も、いろいろと調べてみたのですが、真相はついに究明できませんでした。正直スマンカッタ。と、これまた福岡つながりで、鬼嫁の旦那さまであるケンスキーさんのように、謝っておきたいと思います。

こうして、事件は、迷宮入りとなりました。MAKE YOU FREE 永久に……。と、韻を踏んでいることをいいことに、つい口ずさんでしまいましたが、猫はつれて行っても、「永久に」未解決であってはなりません。複雑に入り組んだ現代社会に鋭いメスを入れ、さまざまな謎や疑問を徹底的に究明する『探偵!ナイトスクープ』への依頼は……今のところ考えていません。もし、ご存じの方がいましたら、清原 筆養父までご連絡くださいますと幸いです。情報を心からお待ちしています。

飲料の試作&官能評価もしている
公開特許公報から

ようやく、要約のコーナーまでたどり着きました。長かったなぁ、ここに来るまで。
最後に、要約を以下に示しますね。

◇要約◇
【課題】サチャインチを原料として使用して、栄養価が高く、しかもサチャインチが本来有する僅かな渋みや青臭さを抑えることで飲みやすいようにした、サチャインチ入り飲料の製造方法を提供する。
【解決手段】サチャインチ入り飲料の製造方法は、所定の量の粉状のサチャインチをフィルターにかけ、沸騰させない程度に熱した湯を通してサチャインチ液を抽出する工程と、抽出したサチャインチ液に、水、酸味料、甘味料、乳化剤、安定剤及び香料を所定の割合で配合する工程とを備える。

こういう景色を見ると、頑張れます。ダァー!!
筆者が頑張って撮影

人は歩みを止めたときに、そして挑戦をあきらめたときに年老いていくのだと思います
アントニオ猪木氏は生前、引退試合の後、マイクを握り、そのように言いました(女優の内田有紀さんが、あるテレビ番組で突然、この言葉を引用されたのには、正直驚きましたが。)。
ここに誓います。私は、モヤモヤ食品特許探偵団の団員として、歩みをストップしません。まだまだ、モヤモヤ食品特許の探索を続けていきます。

ここまで、お読みくださり、ありがとうございました。
では、次回もお楽しみに。

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