五感で作る料理(自分を信じる)
「自然がくれた愛情ごはん」(アノニマ・スタジオ)
もう随分前になりますが、かるべけいこさんのこのレシピ本を初めて見た時は、驚くと同時に、思わずにやりと微笑んでしまいました。
何しろ、レシピに必須のはずの、材料の分量が一切書かれていないのです。
例えばこんな感じ。
キャベツ 甘夏 塩 酢 醤油 オリーブオイル
自分の感覚で作れるようになりたい。
これまで、料理のマスターには、まず「型」を覚えることが大事だと書いてきましたが、次に大切なのは、自分で「感じて」「決める」こと。自分の感覚を信じられるようになることです。
塩加減、歯ごたえ、甘みや酸味などのバランス、材料の切り方や火の通り方による味わいの違い。まずは、自分が美味しいと思う「着地点」をつかめるようになること、そして、その着地点に向かって料理の手順を進めていくこと。最終的に目指したいのは、そういう境地でしょう。
とはいえ、苦手意識のある人にとっては、それこそ大変に難しく感じるところかもしれません。時間のあるとき、心の余裕のあるときに、まずはシンプルな一品から、試してみてはどうでしょう。
先に挙げたのは、キャベツと甘夏のサラダの材料です。
・キャベツを千切りにして、塩を振る(どれくらい?)
・甘夏の皮を向いて、食べやすい大きさにちぎる(ちぎらずそのままの大きさだったらどうでしょう?)
・キャベツと甘夏をあわせたところに、酢、醤油、オリーブオイルを加えて味を整える。(それぞれの量は?加える順番やタイミングに意味はある?)
実際にはもう少し具体的な手順が記されてはいるのですが、さて、出来上がったら、まず食べてみてください。どうですか?塩味が足りないと感じたら、塩か醤油を少し足してみるといいかもしれません。残念ながらしょっぱすぎたな、と感じたら、自分の感覚だと調味料を多く入れすぎる癖が出る、ということですから、次回は控えめに。オイルや酢の量についても同じです。
また、味が足りないと感じた場合、塩や醤油ではなく、酢や甘夏の量で調整する、というのも一つのアイデアです。全体にメリハリがあると、食べ物って美味しく感じられるのです。
自分で作ったからこそわかる味わいを楽しもう。
キャベツの甘味と千切りならではの歯ざわり、甘夏のジューシーさ。この2つの材料が持つ個性を、醤油とオイル、酢で自分流にまとめるだけで、フレッシュで香りがよく、食感も楽しいサラダに仕上がるということ。出された料理を、ただ食べるだけでは感じられない立体感を感じませんか?
反省点があっても構わないのです。ここをこうしたらよかったな、次はこうしてみようかな。作るプロセスを踏んだからこそ、思うことがあるはずです。
これぞ、料理の醍醐味であり、自分の感覚をつかむということ。
新しいカテイカのテーマの一つは、お手本のない、変化の激しい時代を、波を乗りこなすように柔らかく生きる力を身につけること。そのベースになるのは、自分自身の感覚です。そして、料理というのは、その感覚を最も見つけやすく、また、その喜びを一番わかりやすく感じられるカテゴリーです。
自分で塩をふった食べ物を、ただ塩をふっただけの手抜き料理、なんて流さずに、美味しいな!と自信をもって感動してみてください。それは、まぎれもなく、あなたの手で作られた美味しさなのです。