日曜の午後のミルクセーキ
ミルクセーキと初めて出会ったのは、小学校の時だ。
今でもあるのか分からないが、『夏休みの友』的な、夏休み中の課題用冊子に、イラスト付きで紹介されていた。
私は、ミルクセーキの美味しさと、家にあるものだけでできる手軽さに魅了され、毎週のようにつくっていた。
つくるのは、大体日曜の午後だった。午前中、スイミングスクールで体を動かして、お昼ご飯を食べて、良い感じに気だるい時間。
甘いミルクセーキを飲みながら、漫画を読んだり絵を描いたりするのは、至福の時間だった。
ミルクセーキのレシピは、ざっくり次の通り。
なお、記憶を頼りに書いているので、過不足があるかもしれないが、ご了承されたい。
★材料★
卵1個、砂糖お好みの量、牛乳コップ2杯分位、バニラエッセンス少々
★手順★
① 卵を、白身と黄身に分ける。
② 白身を、白くなるまで泡立てる。
③ ②と別のボウルで、黄身と砂糖を、砂糖のざりざりがなくなるまですり混ぜる。
④ ②③と牛乳をよく混ぜ、バニラエッセンスを垂らす。
⑤ グラスに注ぎ、氷を浮かべたら完成!
②の作業がとにかく大変だった。
白身のとぅるんとした食感を消すために、メレンゲとまではいかないが、白く泡立った状態にする必要がある。それを、小学生が手動で行うのだ(ハンドミキサーもあるにはあったが、戸棚の奥深くに眠っていた)。
ミルクセーキをつくるときは、大体、3歳離れた姉と一緒だったので、白身の泡立ては、交代で取り組んでいた。
1人5分ずつくらい、頑張ってシャカシャカ混ぜていた。
私は、昔から調子に乗る性格なので、泡立てる際は
「うおーー!」
と無駄に声を上げ、無駄の多い動作で作業していた。動きが大きい方が、なんかこうパワーが注入されて、早く泡立つんじゃないかとか、非科学的なことを考えていたのだと思う。
姉は非常に優しい性格なので、そんな愚かな妹を鼻で笑うようなことはせず、
「妹が泡立てると、すぐ白ぅなるね!すごいね!」
と褒めてくれていた。
私は鼻高々で、我流の泡立てに邁進した。姉は、変わらずそれを称賛したが、自身が追随することは決してなかった。やはり、姉なので、道徳のほか、科学や物理についても理解が進んでいた。
苦行は②のみで、他の工程はどれもあっという間だった。
最後に、バニラエッセンスを数滴垂らすのだが、この作業が非常に好きだった。
茶色の小瓶が被っている赤い蓋を開けた瞬間、独特の匂いが鼻をくすぐる。
完成目前の、クリーム色の液体に、一振り、二振り。
溢れるバニラの香り。深呼吸すると、空気が甘く、とろけるようだ。
思わず、バニラエッセンスを指に一振り、口に運ぶ。めっちゃ苦。うわ何これめっちゃ苦いじゃん。
バニラエッセンスの芳醇な香りにつられて直接舐めた時のガッカリ感は、お散歩に行くよーと言われて意気揚々と出発したら、ワクチン接種会場に到着した犬と同じくらいの気持ちじゃないだろうか(名著『動●のお医者さん』を片手に)。
でも、懲りずに、何回も舐めてしまったと思う。それほどまでに、バニラエッセンスの香りは魅力的だった。
完成したミルクセーキは、姉と1杯ずつ分け合った。時には、小さなマグカップを用意し、他の家族に振る舞うこともあった。
日曜の午後のささやかな行事は、しばらくの間続いていたと記憶している。顧みるに、楽しく、幸せなひと時だった。
終わり。