花の名前を教えて
結構な田舎で育ったのに(電車が1時間1本とかじゃない。電車が通ってない)、植物に詳しくないことが、今更ながら悔やまれる。
狭いながらも楽しい実家の庭は、花に溢れ、草に溢れ、野菜や果物に溢れていた。
母は園芸が好きだし、祖父母は季節ごとの野菜や果物を育てていたし、玄関の前には、姉の生まれた記念に植樹されたクロガネモチが、すくすくと枝葉を伸ばしていた。ちなみに、私の記念植樹はない。2番目なんてそんなものだ。
そうやって、植物に囲まれて育ったので、身近すぎて、逆に興味を持てなかったのだ。
当たり前にその辺にある花。草。その認識で十分だった。
コロナ禍でおこもり生活が続いているので、近所の散歩やサイクリングが非常に良い刺激となる。
そして、道行くなかで目に入る色とりどりの花は、気持ちを上げてくれる最たる例だ。
梅か桃か分からないけど小さくて可愛い花。
剥いた果物の皮みたいな木に咲く白い花。
庭先に並ぶプランターの、えーっと、パンジー?コスモス?ヒナゲシ?みたいなやつ?
花は、そこにあるだけで人の心を和ませるが、名前が分からないと、何となく締まらない。季節感もめちゃくちゃと思われ(何せ正解が分からないのだ)、恥ずかしい。
園芸好きな母は、当然、花の名前にも詳しかった。
自分で丹精込めて育てているものは当然のこと、花壇の隅に自生する小さな花のこともよく知っていた。ただし、それらは雑草のくくりなので、ガンガン抜いていた。
母に、もっと、花の名前を教えてもらっておけば良かった。
簡単に会えない昨今の状況で、後悔に近い、切ない思いが胸をよぎる。
母とはLINE(母と姉とのグループLINE。父は参加拒否)で頻繁にやりとりするので、ふと、このようなメッセージを送った。
「母さんにもっと花の名前を教えてもらっておけばと思ふ けふこのごろ」
何故、短歌めいた中途半端な古語を用いたか自分でも不明だが、母も取り合わなかった。
スベッた感じがしてつらかったので、すぐに猫の写真を送ってお茶を濁した。
次の日、母が、コメントもなしに花の写真を送ってきた。
おそらく、散歩中にでも撮影したのだろう。
薄い紫色の、4枚の花びらが可愛らしい、小さな野花だった。
これは。と思った。
昨日の、娘からの「花の名前を教えてもらえばよかった」という唐突なメッセージを、母が受け止めてくれたのではないか。
短歌は流されたが、気持ちは届いていた。
母さん、ありがとう!
私「これはなんという花?」
母「ムラサキハナダイコン」
私「大根だった」
大根の花かと勘違いしたが、花の形状が大根と似ているため、こう呼ばれているらしい。
なお、このテキストの見出しの写真が、それだ。(大根?)
これからも、母さんに、いっぱい花の名前を教えてもらう予定だ。散歩で見つけた花の写真を送ったり、送ってもらったりして、色々おしゃべりしよう。
そして、教えてもらったら、今度は、雪国生まれの夫に教えてあげようと思う。
終わり。