「旅は魔法なのか。」〜奥入瀬渓流ホテル〜
薄っすらと雪化粧。
川は白い水飛沫をあげて流れている。
周囲の木々は葉を失って寂しいはずの枝に美しく雪化粧を纏っていた。
木々のトンネルをくぐり、視界が開けた途端、大きな建物が現れた。
「星野リゾート 奥入瀬渓流ホテル」
外観はクラシカルなウッドテイストだ。
時刻は15時ちょうど。
バスは玄関前に停まった。
分厚いコートを着て待ち構えていた複数人のスタッフが出迎える。
バスを降りると冷たい空気で鼻がツーンとし、全身に力が入った。
急いで玄関の自動ドアに体を滑り込ませると、自分の薄汚れた黒いキャリーバッグをピックアップした。
自動ドアは雪国特有の二重構造になっていた。いわゆる「風除室」がある構造だ。
二つ目の自動ドアが開き、爽やかな香りと焚き火のような燻された香りが鼻腔を刺激した。
同時にモダンなロビーの風景が目に飛び込む。
右手にはウッドテイストなフロントカウンター、左手に渓流の岩のように設置された大小様々なソファが設置されていて、壁紙は先ほど橋の上から見た渓流をシンプルに表したデザインだった。
カーペットはグリーンがかったブルー。
波のような模様が描かれている。
"そうか、このロビー自体が渓流なんだ"
呆然と立ち尽くしているとスタッフの声が聞こえてきた。奥にウェルカムドリンクがあり、チェックインはいつでも良いと。
いつの間にかカウンターに列が出来始めていたため、奥のウェルカムドリンクがある場所へ進む。
数歩進み、再び足を止めた。
木々についた真っ白な雪。
その中央に鎮座する大暖炉。
それはまるで美術館の一番奥に鎮座している大きな一枚の絵画のようで圧巻の光景だった。
円錐状の深いグリーンの暖炉。
暖炉にはゴールドのような色合いで独特な絵が描かれている。きのこ?妖精?どこかで見たようなタッチだ。
いつの間にか自分の周りは写真を撮っている人達で溢れていた。
私は絵画を見るようにただ眺めていた。
美しいと思った。美しいと思えた。
あの暖炉と心で呼応しているように感じた。
触れてみたくなり、写真を撮っている人達の邪魔にならないよう場所を移る。
近くで見るとさらに圧倒させられる。
高い天井を突き破らんとするほどの大きさ。
他の人が暖炉をコンコンとノックするように触った。金属製の音がする。
私もそれに倣い、暖炉に触れる。
暖炉には薪がくべてあり、炎が高く上がっていたが、暖炉の表面はひんやりとしている。
金属の厚みは10cmを優に超えている。
ぐるりと暖炉を一周する途中で「TARO OKAMOTO」の文字を見つけた。
「暖炉 森の神話」は岡本太郎の作品だった。