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消えることにより現れるもの(ナイブズ・アウト)

あるミステリー作家が自宅で亡くなる。
自死である。
彼自身の誕生日、家族が揃ったその夜のこと。

翌朝集められた家族に、家政婦と看護師。
対するは警察と、探偵。
探偵は匿名の依頼を受けて呼ばれている。

探偵は依頼通り、自死と見える作家の周辺を確かめていく。

犯人探しが始まり、それぞれに仮面が剥がれていく。

観客には最初から誰が作家の死に関わったのかを知らされる。

バレるのか、それとも何か他にあるのかとハラハラワクワクさせられる。

最後のどんでん返しまで・・・

人が生きている時、存在は木の根のように
脈を張って周囲に緊張をもたらしているが

亡くなると脈は死に、緊張が消えて
抑えられていた感情やものやことが浮かび上がってくるのだろう。

最後の段になって私はなぜか号泣してしまったんだよ。

それはこのお話を紐解く鍵が
人の優秀さや、善や、愛情であったから。

作家がこの世から去ったことによって取り除かれた緊張により

悪は明らかに悪

善は明らかに善

の、コントラストがはっきりと語られたからだ。

さらに、ベテラン有名ミステリー作家は細部に渡って仕込みを怠らなかった。

それは神業ともいえる精巧さで、死後明かされていく。

もし彼が生きていたら、と思う。

ここまでの愛を示せただろうか。

ひとりひとり、際立たせるやり方で。

この死にまつわる顛末は
偉大なミステリー作家の最後の舞台にふさわしい。

この探偵は空気のように、からくりの枠組みの外から力学を明かして去っていく。

だが彼もまた、作家の手の内の登場人物のような感触が残る。

偉大な作家とは、その死後までストーリーを残すものなのか。

あとそうだ、私、トニ・コレット大好きなんです。

書くことで何かできるのか、それとも何にもならないのかわからないで続けてきたけど、きっとこれからも書き続けます。もしよかったらサポートよろしくお願いいたします。