親友が元親友になった日
その昔、家同士が近所で小学校入学直後からとても仲の良かった【アキちゃん(仮名)】という友人がいました。
アキちゃんとは成長と共に徐々に疎遠になり、別々の高校に進学したのをきっかけにそのまま一度も顔を合わせることなく大人になったのですが、つい最近、別の友人からアキちゃんが私の連絡先を知りたいと言っているのだが教えてもいいか、という連絡をもらいました。仲良しだった聖子ちゃんが今どんな風に過ごしているのか近況が知りたい、とのことで。
私は悩みました。
実はアキちゃんと疎遠になってしまった理由は、‘‘私の中には’’他にもあったからです。
私は中学時代、怖い先輩に目をつけられ、酷い誹謗中傷を受けていました。
私の地元は兵庫県の尼崎というかなりヤンチャな街で、私の時代にもまだ絵に描いたようなヤンキーが校内を闊歩していました(校庭をミニバイクが走っているのを見かけたこともあります)。
その代表格である怖い先輩から目をつけられると何が起こるかと言いますと、まず中学入学直後に先輩が一年生の校舎に殴り込んで来ます。本当にまじで殴り込んで来ます。
「藤村出てこいやあああ!!!!!!!!!!」
と大声で叫びながら私を探し回る先輩たち。逃げる私。
「藤村さん教室に戻って!!早く!!」
と言いながら先輩たちを制止する先生。
クローズを地でいくのが、まさか【地上に舞い降りた天使】との呼び声高いこの私だとはみんなが驚いたことでしょう(黙れ)。
最初の襲撃が落ち着くと、今度は学校内ですれ違う度に大声で「死ねや!!!!!!」と言われます。毎日です。当時はSNSがそれほど普及していなかったので本当に良かったのですが、それでも学校の掲示板なんかには「藤村キモい」といつも書かれていました。校内の壁に落書きで「藤村死ね」と書かれていたのを目にしたこともあります。
そんな過酷な日々を送っていた中学入学当初のある日、アキちゃんと一緒に下校していたら、先輩たちに待ち伏せされて呼び止められたことがありました。
「藤村、お前学校にルーズソックス履いてくるって言うてたらしいやん」
言ってません。一体なんですかその恥ずかしすぎる言いがかりは。
(しかも私が履いていたのは【かなり短めの白靴下】というルーズソックスからは最も遠い靴下だった!!!)
しっかりルーズソックスを履いているその先輩たちを前に、私がその謎の疑惑を否定すると、今度は先輩たちの矛先がアキちゃんへと向いたのです。
「お前も藤村と仲良くしてたら同罪やからな」
たった一言でした。
その言葉がアキちゃんの中でトリガーになったのだと思います。
みるみるうちにアキちゃんの表情が暗くなっていくのがわかりました。
「「聖子ちゃん、私もう聖子ちゃんとは仲良くできひんと思う」」
あまりにも呆気なく、その日を境にアキちゃんとは本当に仲良くできひんくなりました。
とはいえ、あからさまにお互いを避けるということはなく、廊下ですれ違えば挨拶はするし、時間があるときは普通に話したりもしました。けれど、アキちゃんの部活がない日も一緒に帰ることはなかったし、一緒に遊びに行くこともなくなりました。
その間私は、先輩たちが卒業した後に入ってきたその兄弟姉妹から同じように死ね死ね言われていたので、卒業まで立派に【誰よりも死を望まれている生徒】を勤め上げました。(どうだ、生き抜いてやったぞ)
アキちゃんはきっと、彼らのことが心から怖かったのだと思います。それはとてもよく理解できます。でも、私はどうしても許せなかった。許せないというか、理解はしているし仕方がないことだとは思うけれど、そこまで言って親友をやめたからには、もう二度と私と親友に戻る権利はないからね、心の中でそんな風に思っていました。
そんな風に思うことで、自分を必死に励ましていたのかもしれません。
結論から言うと、私はアキちゃんからの「連絡先を教えて欲しい」というお願いを断りました。正直、本当にこれで良かったのかなと思うことはあります。
でも、そうしてあげないと当時の自分の傷ついた心とか、それを必死に誤魔化して過ごした時間とか、アキちゃんがいなくても大丈夫になったときの達成感とか、それらが全部無駄になってしまうような気がしたのです。
断っておきますが、アキちゃんに対する気持ちは【恨み】とは違います。私はアキちゃんのことを恨んではいません。ただなんというか…私たちの人生はもう交わらないけれど、私は私で元気でやっているので、そちらはそちらで元気でやっていてくれよ、みたいな感じです。
本当に、元気で幸せに暮らしていてくれたらいいなと、心から思います。
ただ、最後に一言だけ強がったことを言わせてください。
アキちゃん、本当に惜しいことをしたね。