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オヤジにマンガを買わせると保険が売れる
鬼滅の刃が空前のヒットのようです。設定もそこまでややこしくなく立身出世ものでストーリー展開も早い、と売れる要素満載。デスノート依頼10年ぶりくらいに漫画を全話読みました。
初めて読んだ漫画は今から45年前で野球漫画の金字塔「ドカベン」でした。実家は開業の歯科医でしたので、患者用に女性週刊誌と月間文芸誌と少年漫画誌が置いてありました、近所の本屋が適当にチョイスして定期的に置いていく代物です。
そこに患者が捨てていく(寄付していく)本がまれに仲間入りします。その中にドカベンの単行本がありました。どうやらオヤジもそれを読んだようで、大きな本屋にドカベンの単行本を買いに行くと言い出します。
待合室に置いてある少年誌もドカベンを連載しているチャンピオンに変わりました。その頃小学校では創刊されたばかりのコロコロコミックが流行っていました、他誌と違い非常に分厚く読み応えのあるマンガ誌です。
これを待合室に置かせるためオヤジに説明しました、とりあえずトイレに置いておくとトイレ滞在が長いオヤジは勝手に読むようです。食事の時などいくつか質問をすると読んでいることがわかります。
メイン連載はドラえもんですが余りお好みではないようで、幽霊と野球のマンガが気に入ったようでそこをアピールしてめでたく待合室の定期購入にコロコロコミックは仲間入りしました。
それから数年後中学生になると、コロコロは読まなくなりました。学校で流行っていたのはジャンプとサンデーです。自分のこづかいで買うのはジャンプと決め、サンデーは待合室の本としてオヤジに購入させるように決めました。
そのためにはチャンピオンをリストラしてサンデーと入れ替えねばなりません。幸いにしてオヤジの好きなドカベンの連載がちょうど終わったので、オヤジに最近はこれが流行っているとサンデーを渡し、何が面白いか聞くとうる星やつらだと答えたので、ではチャンピオンからサンデーに変えようというとすんなり変更を認めました。
オヤジの好きなマンガの傾向は、野球マンガ、ストーリー性の強い劇画調、恋愛物、ギャグでも低俗、このテの作風は嫌いなようで、ドカベン、あぶさん、野球狂の詩といった水島新司作品、うる星やつら、こち亀あたりの単行本は、すべてオヤジの金で買いました。
自宅の本棚は1,000冊を超えるマンガ単行本が占拠し、母親は嘆いておりました。当時のオヤジより今の私は年齢が上ですが、きっと老眼で小さな字が読めなくなっていたのでしょう。そこに息子がマンガを持ってきた。自宅開業の個人事業主で、引きこもりのような彼にとっては世界がそんなに広くもないし、そこに乗っかってみたという感じだったのでしょう。
待合室におくマンガ誌は1冊。単行本はオヤジが気に入ったものであれば全冊大人買い、というルールの元でいかにオヤジに買わせるかという事が重要なテーマでした。
高校卒業と同時に実家を出たので、このルールはそれっきりこれっきりですが、私の営業の原点はまちがいなくこれです。自宅にいる時は昼寝しているか酔っ払っているかでプレゼンになりません。
診療が終わって戻ってきて酒を飲む直前のほんの数分、朝飯時くらいの少ない時間しかチャンスはありません。そこで興味をもたせられなければこのプレゼンは失敗です。
他所よりはお金に余裕がある家でしたが、ただ買ってくれというのは通用しません。これは流行っているとか面白い程度ではオヤジの財布はあきません。時間を掛けるともういいわと言われます。
世間的にお金持ちと思われる商売です、実家には某デパートの渉外担当者や銀行や証券会社、それ以外にも色んなセールスの人がやってきました。もしかすると営業電話も診療所にはバンバン掛かってくるのかもしれません。
オヤジは愛想のない人ですから客商売向きではありません。2代目跡継ぎですから生意気です。営業なぞ間違いなく向いているとは思えません。ところがセールスマンのアタックは人一倍受けているので断り方は長けていたのでしょう。
私は営業マンというのになりましたが、小さな子供がいるお客さんが多いので、グズる前の30分で終わらせます。くだらない事情聴取のような聞き取りも、わけのわからない保険性能の話もありません。
感覚的に保険会社のいうやり方では売れないことを知っていたのでしょう。オヤジが家に上げる営業マン、オヤジが購入を決める営業マン、それは同級生、患者、近所の人そしてそこからの紹介。
でもそれだけでは当然売れません、自宅に出入りしていた人達も色々作戦を考えていたのでしょう。本やセミナーでなんかこれ見たことあるような、というと昔出入りしてたあの人のはこれかと気づくこともあります。
営業に新しい手法なんてきっとありません、うまくいくことは結局同じことです。私もそのやり方しか知りません。
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