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実験は24時間ずっと続く【素粒子物理の最前線 #4】
標準理論を超える「新しい物理現象」の手がかりを求めて、日夜研究にいそしんでいる素粒子実験の研究者たち。
この連載では、素粒子物理学や、Belle II実験とよばれる素粒子実験について、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所の宇野健太先生に解説していただきます。毎月更新予定です。
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みなさん、こんにちは。高エネルギー加速器研究機構の宇野健太です。
これまでの過去3回の記事では、「タウ粒子を用いた新物理探索」について紹介しました。
そこでも言及しましたが、新物理探索においては、タウ粒子の生成数、つまり実験データを限りなく増やすことが重要になってきます。
そのため、私を含めたBelle II実験に参加している研究者たちは、データをどのように増やしていくかを日々考えています。
今回は、そこに焦点を当ててお話しします。
電子と陽電子を衝突させて、未知の物理現象の発見を目指す実験
まずは、Belle II実験について簡単に説明します。
Belle II実験では、周長約3 kmの円形加速器 (SuperKEKB加速器)で電子と陽電子を高速で周回させ、それらを衝突させる実験を行っています。
電子と陽電子が衝突すると、様々な素粒子反応が起こり、例えばB中間子やタウ粒子が生成します。
そして、この素粒子反応をBelle II測定器を用いて詳細に調べることで、未知の物理現象の発見を目指しています。
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Belle II測定器は、電子と陽電子の衝突点に置かれています。
大量のデータを集めるための工夫
実験データを大量に集めるためには、大きく分けて2つの方法があります。
1つ目は、加速器の衝突性能(ルミノシティと呼びます)をなるべく高くすることです。ルミノシティが高くなればなるほど、実験データの取得効率が上がっていることを示しているので、高ルミノシティでの加速器運転が我々の目標です。
2つ目は、実験をなるべく長く行うことです。当たり前ですよね…。
しかし時間は有限なので、限られた時間でいかに効率よくデータを取得するかが重要になってきます。
24時間ずっと続く実験! いつでもトラブルに対応できるように
加速器の運転は、数ヶ月ぶっ続けで行うことが多いです。
直近だと、SuperKEKB加速器は2024年10月9日から12月27日まで運転していましたが、この間は基本的に24時間ずっと稼働し続けていました。
運転中は、加速器や測定器に異常が起きていないかを確認したり、何かトラブルが起きた際にはすぐに対処する必要がありますが、当然1人で24時間働けるわけではないので、シフトを組んで実験を行います。
例として、Belle II測定器の状況を確認するシフターの様子をご紹介します。
たくさんの画面に測定器のいろいろな状態がモニターされており、測定器に異常があれば、容易に気付くことができるようになっています。
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取得したデータに問題がないかも確認しています(筆者撮影)。
もし各測定器でトラブルが起きたときは、対応する専門家に電話をかけます。
そのため、専門家たちもシフトを組み、電話がかかってきたら24時間いつでも対応できるようにしています。
シフトは3交代制
シフトは1日3交代(つまり8時間シフト)で行ない、9時~17時を日中シフト、17時~深夜1時を準夜シフト、深夜1時~9時を深夜シフトとよんでいます。
シフトは希望制であることが多いです。
大学院生などの若い人たちは朝が苦手な人が多い(私見です(笑))ので、準夜シフトが一番人気です。17時~深夜1時が一番人気だというのは、ちょっと変な気もしますね。
一方、シニアの研究者たちは日中シフトを好む傾向があります。
さらに、外国から来る研究者たちは、時差ボケをあえて直さず深夜シフトを好む人が多いです。
ということで、なんとか24時間シフトを組めるわけです!
シフト表を見ると、この研究者がどういう生活をしているのか、何となくわかるので面白いです。
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こちらも見るべきモニターがたくさん…(筆者撮影)。
私もどちらかといえば、準夜シフトが好きなタイプでした。万が一寝坊したら嫌なので…。
しかし、2024年からBelle II実験の運転を統括する責任者(ランコーディネータ)になったので、朝起きれないとかそんなことは言ってられなくなりました。
平日は日々の運転に対する業務が多いので、土日の日中シフトあるいは準夜シフトが一番好きです。Belle II実験に参加しているメンバーは1100人以上いますが、休日のシフトが好きだという人は数えるくらいしかいないかもしれません(笑)。
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プロフィール
宇野 健太 (うの けんた)
高エネルギー加速器研究機構 (KEK) 素粒子原子核研究所 助教。
テニスと野球観戦が趣味。