先入観と主観、知識と客観

 一年半ほど前にフランスとオランダへ一人旅をした。美術館巡りが主目的で一週間滞在し多くの絵画を見て巡った。パリではオルセー美術館に滞在中ほぼ毎日訪れた、もちろん1日では見てまわれないという理由もあるが私は好きな絵があるとそれを長時間見続ける癖がある。ただぼーっと、そして何も考えず無を保ったまま。特に風景画を見るときは顕著になる。数多くの絵画を見た旅で特に印象に残ったのはオランダのデン・ハーグにあるマウリッツハイス美術館にある絵、ヨハネス・フェルメールの”デルフトの眺望”だ。

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1660〜1661年頃
カンヴァスに油彩
96.5×115.7cm

 この美術館にはフェルメールやレンブラントといったオランダを代表する画家の絵が多く展示されている。そしてこの”デルフトの眺望”はかの有名な”真珠の耳飾りの少女”と向き合い相対するように展示されていた。もちろん真珠の絵もある種の感動を覚えた、しかしのデルフトの眺望からそれを超える感動を覚えた。フェルメールが描いた数少ない絵画の中でさらに2点しかない風景画のうちの一つである。タイトル通りデルフトというフェルメールが生まれた町を描いた風景、私自身はこの絵をおそらく数十分は見続けていたと思う。抽象的ではあるが何か心に感じるものがあったのだ、一枚の絵と一人対峙して自分の世界中に入ることも絵画の楽しみ方の一つだと私は考えている。

 時折友人たちから美術館は何が楽しいのかと聞かれることがある。絵の知識がないから言ってもわからない、そもそも絵に興味がないという人も多くいる。正直なところこの技法は素晴らしいやこの絵にはこんな歴史背景があるといったテクニカルの部分はどうでも良い。もちろん知った上で見るのも楽しいしより深いレベルで感動を得ることができる。でもあくまでどの絵が綺麗だとか好きだとかは主観であって他人に委ねるものではないと思う。絵を本や映像で見るのと本物を直接見るのはまるで情報量が違う、特に展示場所が違ったりするだけでも感じ方は多く変わる。先入観を捨て絵画と一人向き合うことで得られる楽しみは最強だ。

 日本には多くの美術館があり、そして世界各地から絵画がやってきて特別展が開催されている。機会は多くあるが混雑という切っても切り離せない問題がある。混雑しているとゆっくり絵を見るというのはできずむしろ美術館が苦痛だと感じている人も多くいるだろう。ですが案外特別展を開催してる美術館の常設展は空いてることが結構ある。上野の西洋美術館も常設展は多くの有名作品がありかなりの確率で空いている。様々な絵をたくさんゆっくり見たい人は是非海外に行ってください、海外なら美術館は大抵空いているし、味わえる雰囲気も最高だ。もちろん簡単ではないしお金や語学といったハードルもあるが得られるものは多くある。


 このご時世では外出自体が憚られますが、また美術館や博物館へと気軽に行ける日が訪れることを願います。


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