見出し画像

アカデミックな書式の美学

論文なんかに書く図や表、数式の書式って、結構大事です。
図表の書式次第で、読む前にその論文への「ちゃんとしてそう/してなさそう」は結構変わってきますし、まして数式なんかは書式がまずいと読み手に誤解されてしまうこともあったりします。そんな大事なアカデミックフォーマットですが、しっかり大学やなんかで教わるかというとそんなことはなく、各研究室の一子相伝的な、先輩の背中を見て覚えろ的な、そういうところは多いかと思います。

この記事では、科学コミュニケーションが正しく行われるために守るべき、もしくはこの方が美しく見えそう、というアカデミックな書式について備忘録も兼ねてまとめています。めっちゃ基本的なことからあんまり知られてないよなってことまで書いてますので、研究室に配属されたばかりの学部生はもちろん、院生などにも参考になれば幸いです。

※大前提として、この記事の内容全てに優先して、投稿先の指定するフォーマットに従ってください。投稿先は神であり投稿先の言うことが絶対です。

図の例:Rで作ったアヤメのデータの適当なプロット

この図ができるRスクリプト↓

  • キャプション

    • 位置は図の下

    • 思っている3倍詳しめに書く

    • 学会などで紙面が限られている場合に詳細な説明を省略

    • ラベル必須(複数パネルにおいて上下の図が横軸共通なら片方省略する)

    • 軸ラベルは「変数名 (単位)」or「変数名/単位」 (下記「単位の書き方」参照)

  • ファイル形式

    • pdfかepsのベクタ形式で作れるなら作る

    • データ点が多かったりして表示が重くなる場合にはラスタ形式。pngやtiff。写真ならjpgでも。ラスタ形式の場合、解像度300dpi以上で出力する。

    • トップジャーナルなどではラスタ形式にtiffを推奨しているところもあるが、非圧縮の画像ファイルのためとても重い。解像度300dpi以上を指定していれば、普段はpngで十分。

  • 図のサイズ (投稿先次第だが通常の2カラム論文なら)

    • 1カラム幅 (8cmくらい)

    • 2カラム幅 (16cmくらい)

    • (1.5カラム幅、論文誌によってはナシ)

  • 特に必要なければモノクロ。(グレースケールとモノクロは別)
    カラーが必要なときにカラー。

  • グリッド線なし

  • 図全体の枠線なし

  • 複数パネルの場合(a), (b), ...のようにラベルをつける。

  • フォントは本文と同じ

  • 図は全て本文中で引用されている

  • 特に理由がなければ軸のアスペクト1:1の正方形で作ると見栄えが良い

  • 図中の文字は英語。日本語の媒体は英語表記の図も受け付けてくれるが逆はない。(図中の文字は差し替えが面倒)

Excelでの作図について

Excelでも論文の書式に沿った図は作れる。作れるが、Excelのデフォルト図から上記の書式にするまでの手数が多いので、ちゃんとやろうとするほど面倒。
あとExcelでは図の出力解像度が指定できないのはマジで困る。

Excelのデフォルト図
MATLABのデフォルト図
Python (matplotlib) のデフォルト図
Rのデフォルト図

作図をMATLABやR, Pythonなどスクリプトとして作っておけば後からの再利用が容易なのも利点。

表の例:同じくアヤメのデータから適当な
  • キャプションは表の上

  • 縦罫線は書かない。

  • 天地の罫線を他の罫線より少し太くする。

  • 見出しの書き方は図と同じ(「変数名 (単位)」or「変数名/単位」)

  • 有効数字を意識する。

  • 文字の系列は左揃え。(例の"Species")

  • 数値の系列は

    • 整数は右揃え

    • 少数は小数点揃え

    • ±など記号があるときは記号揃え

  • 見出しの揃えは調べたところあまり決まっていない。個人的には下の項目の揃えに合わせると綺麗に見えると思う。もしくは中央揃え。

  • フォントは投稿先の指定。ない場合は本文中と同じ。

数式

半角で

大前提だが全角の数字やピリオド、スペースは使わない。

斜体と直立体の使い分け

数式を書くときには変数を斜体にし、定数や意味を表す添字は直立体で書く。

e.g. ネイピア数、ステファンボルツマン則

$$
\mathrm{e}=\lim_{t \to 0} (1+t)^{1/t} \\
E_\text{b} = \sigma T^4
$$

  • ネイピア数$${\mathrm{e}=2.71828\cdots}$$は定数なので直立体

  • $${\lim}$$は変数ではないので直立体

  • bは黒体(black body)を表すbなので直立体

注意が必要な記号

ハイフンとマイナスとダッシュ
細かいですが、キーボードのハイフンで入力できるのはあくまでハイフンでマイナス記号とは異なります。(Wordの数式モード等では自動的に変換されます)

  • - (hyphen, 複合形容詞や半端なところで改行する時)

  • – (en-dash, 範囲を表す時, pp.11–16)

  • — (em-dash, 文章を中断して説明を書く時これで囲って書いたり。論文ではあまり使わない)

  • − (minus sign, マイナス)

全て横棒ですが違う文字なので、気をつけましょう。


○ $${S = \pi r^2}$$: 特に必要がなければ何も書かないで良い
× $${S = \pi * r^2}$$: アスタリスクは畳み込み積という別の演算を表す
× $${S = \pi \times r^2}$$: ベクトルの外積に特に使うのでスカラー積なら書かない方が良い

単位の書き方

数値と一緒に書く場合

$$
\sigma
= 5.67 \times 10^{-8}\ \mathrm{W\ m^{-2}\ K^{-4}}
= 5.67 \times 10^{-8}\ \mathrm{W/(m^2\ K^4)}
$$

単位は直立体

  • 単位全体を括弧でくくらない([]も()も)

  • 数値と単位の間に半角1字分空白
    (上記$$10^{−8}$$と$${\mathrm{W}}$$の間)

  • 単位同士の積を表す際半角1字分空白
    (上記$${\mathrm{W}}$$と$${\mathrm{m}^{-2}}$$、$${\mathrm{m}^{-2}}$$と$${\mathrm{K}^{-4}}$$の間など)

  • 秒を表すのに$${\mathrm{s}}$$でなく$${\mathrm{sec}}$$などSI単位系にない表記を使わない

  • 割り算が複数回出てくるときは負のべき指数を使うか分母を括弧でくくる
    (× $${\mathrm{W / m^2 / K^4}}$$)

文字と一緒に書く場合

これは色々議論があるが、結論としては

  1. 丸括弧を使う
    $${T \ \mathrm{(K)}}$$

  2. 単位で除した商の形で表記する
    $${T\ / \mathrm{K}}$$

のどちらかを使う。(論文内で統一すること)
SI単位系の取り扱いを決定している国際度量衡局(BIPM)は厳密な表記としては2の表記を推奨している。が、実用上1の方がよく使われている。

「色々議論がある」の色々は長くなるので以下を見てください

注意が必要な単位「°C」

セルシウス度°Cは「ど」と打って変換する人がいるかもしれませんが、こうした場合、日本語の書類だったら問題にならないですが、海外論文などの場合英文の中に全角フォントが紛れ込んでしまうことになりかねません。(日本語フォントの入ってない環境でこういうファイルを開くとその部分が文字化けしたりします)
正式には°Cは「degree sign "°"+ C」です。

degree signは

  • Windowsでは「Alt+Fn+0176」or「Alt+0176(テンキー)」
    (WindowsPCがないので未検証)

  • macでは「Shift + Option + 8」

で入力できます。

※macの場合「Ctrl+Cmd+Space」で特殊文字全般を探せるビューアが開くので知っておくと便利です。

参考

時間があればこちらも見てみてください。ここに書いた話のほか、よりデザイン的な話まで書いてあります。
伝わるデザイン | 研究発表のユニバーサルデザイン

いいなと思ったら応援しよう!