ゲージ? ファイバーバンドル?
Wikipedia にはいつも助けられているが、首をかしげるようなこともないわけではない。
量子化に摂動的も非摂動的もない。量子化は理論を定義するもので、その計算手法とは別のものだ。超対称性を仮定して解きやすくした理論ならいざ知らず、現実のゲージ理論で非摂動的に「計算できる」レベルまできちんと定義できるやり方は他にないので、格子ゲージ理論が「他のスキームよりもうまく開発されていない」というのはまったく逆の話だ。(日本語ページは英語ページの直訳だと思われる。)
ゲージ理論とは何か。数学の本を読むとファイバー束とか、接続とか切断とか、抽象的な概念があれこれ出てきて一向にイメージが湧いてこない。だが、格子ゲージ理論なら簡単だ。
まず、時空は4次元の立方格子だとしよう。格子点にはクォーク場をあらわす変数がある。この変数には(スピンをあらわす成分とは別に)「色」と呼ばれる3つの成分があり、それぞれがある複素数の値をもつ。この「色」には便宜上、「赤」、「青」、「緑」という名前がつけられているが、そこに絶対的な意味はない。色の空間での回転が可能で、好き勝手に回転したものも元と同じ意味をもつからだ(ゲージ対称性)。しかもこの回転は各格子点でそれぞれ自由にやってもよい(局所ゲージ理論)。唯一の制限は、隣の格子点同士で変数を比較するときは、それぞれの点で勝手に決めた回転を吸収してくれるような変数が必要だということ。隣り合う点を比較するときは、それぞれで行った回転を補っておく必要がある。点と点をつなぐ棒の上に置かれたこの変数が、辻褄を合わせる役割を担う。これこそがゲージ場、あるいはグルーオン場で、ゲージ理論の要となる。数学の言葉では「接続」と呼ばれるが、まさに点と点を接続するものだ。ゲージ場は棒の上にあるので、4次元の空間では方向に応じて4種類存在する。この4成分は連続理論の言葉ではベクトルに相当する。グルーオン場はベクトル場であり、グルーオンはベクトル粒子だ。
「ゲージ」とは物差しのこと。各格子点の変数を測る原点を決める役割をもつ。物差しの原点はどこにとっても構わないが、隣の点同士では原点をどこにとったかを教え合う必要がある。これがゲージ場の役割ということになる。実に自然な話ではないだろうか。
格子理論がよいのは、こうしたすべてがきちんと定義されている点にある。定義されているからこそプログラムに落とし込むことができて本当の計算ができるわけだ。計算とは、紙の上でギリシャ文字の記号をいっぱい書き連ねることではない。最後は数字が出てくる本当の「計算」だ。数字にするからには、すべての文字があいまいさなく定義されていないといけない。発散してもいけない。学んだ理論をすべて理解できているか確認するには数値計算をやってみるに限る。何が足らないのかはっきりと教えてくれるからだ。教科書で学んだ連続空間の場の量子論で実際に何かを計算しようとすると(摂動論以外では)どうしていいかすらわからないはずだ。
出発点からして格子を考えるということ自体に違和感を感じるかもしれない。だが、場の量子論で出てくる発散をどうにかするには、どうせ何らかの形で空間を区切る必要がある。丸でも四角でもいい。(あるいは運動量空間の切断かもしれない。)最後は格子が見えないくらい小さくするのだからどれも同じことだ。そう思えば、格子の何がいけないのかという話になる。ウィルソンのくりこみ群は、格子を無限に小さくする極限をどう取ればよいのかを教えてくれる理論だ。こうして連続時空の理論が再構築される。
冒頭のWikipediaに戻ろう。摂動的あるいは非摂動的量子化スキームという言葉が意味不明なのはともかく、他にも理解不能な記述が散見される。日本語訳の問題ではなく、英語のオリジナルの記述がすでにおかしい。いつの間にか権威を確立したかに見えるWikipediaだが、素朴に信じるわけにはいかないようだ。無理もない。記載に責任をもつとは誰も言ってないのだから。
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