遥か遠くからやってくる光
地球建築家 11-4 アルヴァ・アールト
アールト特集4記事目である。アールトについては書くことが尽きない。
今回は「アールトの光」について書いてみようと思う。
アールト設計による実現した建築作品の約9割は、彼が生まれ過ごしたフィンランドに建つ。
フィンランドはバルト海とボスニア湾に面し、全土が北緯60度以北に位置している極寒の地である。春から夏にかけては晴れて明るい日がかなりある。しかし、冬は本当に、しつこいくらい、ずーっと曇天である。
気分がどんどん落ち込んでしまう。一ヶ月に一日晴れればいい方である。下手をすると今年の冬は一日も晴れなかったという年もあるくらいだ。
「家は夏を旨とすべし」は日本だが、フィンランドは逆で「家は冬を旨とすべし」となる。日本では太陽の光はどちらかというと厄介な存在という認識だが、フィンランドでは慈しんで大切に大切に扱う。
「自動車と反対に、建物と自然の関係は堅固である。建物は特定の土地に一体となって属するものであり、その土地固有の自然条件に強く左右されるものである」 アルヴァ・アールト 1941
アールトの光の取り入れ方は、様々である。
しかし、アールトの光の中で一番美しいのは、建築の奥へ奥へと導き入れた光であると私は考えている。
「はるか遠くからやってくる光」とでも言おうか。
その真骨頂を彼の住宅の最高傑作と言われる「マイレア邸」に見ることができる。
「はるか遠くからやってくる光」の旅路は長い。
太陽で発せられた光は宇宙空間をさまよう。その後、大気圏を通過、地球に到達し、フィンランドの上空へと至る。
そして、マイレア邸の森の木々の隙間を透過し、木製建具の窓ガラスを透過する。内部空間をさまよい、やっとのことで漆喰塗りの壁へと到着する。
長旅を終え、これ以上ない安息の地を見つけた光は、無駄な肉がそぎ落とされ、精錬されて、凛々しく穏やかな表情を私たちに見せてくれる。
その光は心の奥底に染み入ってくる。そして魂の糧となる。
(写真は全て「AALTO Villa Mairea 斎藤裕写真・著 TOTO出版」から引用)
この光がこの地でどれだけの意味を持つものなのか。
心も体も凍える極寒の季節に、どれだけの人々の心に養分を与えてきたか。
アールトは、魂の糧を、生涯フィンランドの地で供給し続けたのだ。