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点、線、面 ④ 点苔
またまた点のお話です。これが点に関する最後のお話になりますので、どうぞ最後までおつきあいを。
東洋画において、点は単なる点ではないということはこれまでも言及してきました。東洋画における点はものの形そのものを表すこともあるほど意味を持ったものなのです。例えば植物でいえば花びらや葉や果実、風景でも森や雲まで点で表現することが可能です。
近代の画人、小杉未醒(放庵)は「大雅堂」という著書の中で水墨画(南画)の点について次のように言及しています。
「点、南画の点の面白さよ。近くに打てば苔となり、やや速く打てば草となり、遠く打てば木となる。それのみをもっても摩訶不思議なるに、それのみに限らず、或は晴日の明るさを現し、或は陰湿を表し … 」
この小杉放庵の言葉の中に出てくる、近くに打てば苔となる点がいわゆる今回お話する点苔(てんたい)とつながります。
点苔は必ずしもものの形そのものを表すわけではないのですが、水墨画では非常に重要な役割を果たします。
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点苔は、点の苔というわけですから文字通り木や岩に生えている苔を抽象化して点で表現したものです。しかし、これは点苔の表現方法の一部に過ぎません。樹木の幹や枝に貼りつく苔以外にも、枝に点苔を打てば葉芽や花芽を表し、山や岩などでも、陰になる部分や皴(しゅん)の境目に点苔を施し形を明確にしたり強調したりします。
さらに重要な役割としては、点苔は画面にリズムや華やかさをくわえることができます。
前回四君子で登場した梅の図は、点苔を説明する好例といえるでしょう。
水墨で梅を描く際、濃墨で幹や枝に点苔を描き入れますが、この濃墨の点をリズムよく配置することで、苔や芽を表現するのみならずまるで画面全体に命を吹き込んだような活力を与えることができます。
形似や写実から離れ写意的な表現方法を取る水墨画においては、点苔はまさに象徴的な表現手段といえるでしょう。