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直筆・側筆
水墨画は線の芸術だということはこれまでも言及してきました。もちろん墨の濃淡を用いた階調などは水墨画の大きな魅力ですが、技術的な側面でいうと用筆、つまり筆の扱い方がもっとも重要で熟練を要するところです。
描線の質は、技術の成熟度をダイレクトに反映しますので、線の精度を高めることは水墨画上達に欠かせないものとなります。
そこで線や運筆について少し詳しく説明していきたいと思います。今回はまず紙面に運筆する際の筆の置き方、進め方についてお話しします。
線を描く際まず筆を紙面に置いて運筆するわけですが、その置き方や進め方によって描く描線の性質が変わってきます。運筆にはさまざまな種類や用語がありますが、今回は簡単に直筆(ちょくひつ)と側筆(そくひつ)の2種類に大別してご紹介します。
直筆と側筆はしばしばその解釈について議論となるところです。
一つは筆管の紙面に対する角度で判別するもので、筆管を紙面に対して垂直に立てるのを直筆、紙面に対して斜めに置くのを側筆と言います。
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一方もう一つの解釈では、筆の穂先が描線のどこを通過するかで直筆、側筆を判断するというものです。直筆は常に描く線の真ん中を通り、側筆は描線のどちらか一方の端を通るように描きます。この解釈では、側筆のほうが直筆よりも太く力強い線を描くことができます。わかりやすい例でいえば、竹の竿は側筆で描き、枝や葉は直筆で描くといった具合です。
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二つの解釈を鑑みるに、筆の穂先が描線の真ん中を通るように描くには筆管を立てたほうが運筆しやすく、穂先が線のどちらか一方を通過するように描くには筆管を斜めに倒したほうが運筆しやすいので、その点でどちらの解釈も真と言えるでしょう。
ただ、筆管を倒して穂先が線の真ん中を通るように運筆することもままあるため、両者の解釈に矛盾が生じることもあります。
穂先の入れ方や動かし方には細かい用語が存在し、それも後にご紹介したいと思いますが、直筆、側筆と大まかにいう時、筆管の角度よりも、運筆の際の筆の穂先が描線のどこを通過するかという解釈の方に重心を置くことが現代水墨においては合理的な気がします。