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JR常磐線の「北千住~綾瀬」のきっぷが買えない件
この記事は、私のブログ「せうの日記」に掲載したエントリーを再構築したものです。元エントリーは出典元のURLをご参照ください。
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とりあえず「1週間に1回は何か書きたいな」と思っているせうです。こんにちは。一応、不定期更新をうたっていますので、あまり期待せずによろしくお願いいたします。
「せうの日記」では、いろいろなエントリーを書いてきました。その中には今でも検索流入(簡単にいうとGoogleやYahoo! JAPANといった検索エンジンから閲覧されるもの)が少なからずあります。せっかくなので、そういうエントリーをnoteで再構築(ほぼコピペの可能性は否定できない)してみてもいいのではないか、と思い至りました。
今回はその第1弾ということで、JR線の隣駅同士なのに、JRでは(かなりトリッキーな手を使わない限り)きっぷを購入できない区間を紹介しようと思います。
常磐線の北千住駅にある運賃表が「おかしい」
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JR常磐線は東京都荒川区にある「日暮里駅」を起点として、宮城県岩沼市の「岩沼駅」に至る全長343.7kmの路線です。起点の日暮里駅は東北本線の駅でもあり、東北本線の運賃計算における分岐駅(※1)ともなっています……が、日暮里駅では列車の折り返しはできず、東北本線の上野駅(または直通線を経由して東京駅または東海道本線の品川駅)で折り返すようになっています。終点の岩沼駅は折り返す機能を備えていますが、定期列車では同駅折り返しの設定はなく、東北本線の仙台駅まで直通運転をしています。
※1 日暮里駅~赤羽駅間の東北本線は「王子経由」のルート(通称「京浜東北線」)と「尾久経由」のルート(通称「宇都宮線」)があり、両駅間またはこの区間を通過するように乗車する場合、運賃はわずかに距離の短い王子経由で計算する。なお、途中下車が可能な乗車券を持っている場合は、どちらのルートでも途中下車可能(ただし逆戻りは不可)。
常磐線は日暮里駅を出ると「三河島駅」「南千住駅」を経て「北千住駅」に至ります。ちょっと分かりづらいのですが、南千住駅は荒川区、北千住駅は東京都足立区に所在します。単に「千住」と呼ぶ場合、南千住近辺を除くと基本的には足立区だと考えて問題ありません。
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この北千住駅ですが、東京都内の駅としては有数の規模をほこる駅で、東武鉄道伊勢崎線(通称「東武スカイツリーライン」)、首都圏新都市鉄道常磐新線(通称「つくばエクスプレス」)、そして東京地下鉄(通称「東京メトロ」)の日比谷線と千代田線に乗り換えられます。この駅の公然の秘密として、実はつくばエクスプレス以外の駅は構内で通路がつながっているということが挙げられます。千代田線の改札口については、伊勢崎線・日比谷線や常磐線に乗る場合も“公式に”利用可能です(入り口にも東武鉄道や東日本旅客鉄道(JR東日本)のロゴマークがあります)。
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常磐線の話に戻りましょう。常磐線の北千住駅の次は、同じ足立区内にある「綾瀬駅」です。北千住駅の常磐線(JR線)きっぷ売り場に行き、運賃表を見てみると、何かがおかしいことに気が付くはずです。
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何と隣にあるはずの綾瀬駅が“省略されている”のです。綾瀬駅のさらに隣にある、東京都葛飾区の「亀有駅」へのきっぷは買えるのに…。
この不思議な省略のそばには「綾瀬は、東京メトロ千代田線の券売機でお買い求めください」とも書いてあります。北千住駅も綾瀬駅も常磐線の駅なのに「東京メトロで買え」とは、ちょっと不思議ですよね。
謎を探りに常磐線(?)の綾瀬駅へ
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JR常磐線の北千住駅では隣の綾瀬駅までのきっぷが買えない――その謎を探るには、隣の綾瀬駅に行くしかありません。そこで綾瀬駅に向かいました。
ホームに降り立つと、隣の北千住駅とは雰囲気が非常に異なります。なんというのか、JR東日本(東日本旅客鉄道)の駅とは異なるデザインを取っているように見えます。一体これはどうしたことなのでしょうか…?
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その謎の答えは簡単で、常磐線の綾瀬駅は東京メトロが管理しているからです。
常磐線は、綾瀬駅から茨城県取手市の「取手駅」まで、快速電車・快速列車や特急列車の走る「快速線」と、各駅停車の電車が走る「緩行線」の複々線区間となります。これらのうち、緩行線は綾瀬を接続駅として東京メトロ千代田線との相互直通運転を行っています。綾瀬駅を境に、常磐線(緩行線)と千代田線が交わるというわけですね。
このように複数の企業の鉄道路線が直接行き来する「相互直通運転」をしている場合、その結節点となる駅はどこか1社が代表して管理するのが一般的です。綾瀬駅の場合は、東京メトロが駅を管理する形態で、JR東日本は同社に駅務を委託しています。そのため、綾瀬駅は常磐線の駅でありながらも東京メトロ仕様の案内サインや改札機などを設置しているのです。
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一義的に綾瀬駅は東京メトロの駅なのですが、JR東日本の駅でもあります。そのためJR線のきっぷが買えないのはマズいです。このような事例の場合「各社がそれぞれ自動券売機を設置する」「駅を管理する企業の自動券売機で他社のきっぷも買えるようにする」のいずれかのパターンを取るのですが、綾瀬駅は前者でJR線用の自動券売機はJR東日本が設置しています。
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このような駅の場合、自動券売機上の運賃表も企業の分だけあります。どういうデザインの運賃表を設置するかはケースバイケースで、各社が自社デザインのものを持ち寄って掲示することもあれば、駅を管理する会社が自社デザインでまとめて作って掲示することもあります。
綾瀬駅の場合は両者の折衷で、JR東日本の運賃表に寄せたデザインながらも、東京メトロがアレンジを加えています。これはJR線の運賃表に、千代田線の「西日暮里駅」でJR線に乗り換える場合の運賃を一部で併記していることが原因です。「東京メトロの息吹を感じるJR線近距離きっぷ運賃表」を見るには、綾瀬駅に行くしかありません。
で、この運賃表なのですが、デザインの差異とは異なる、違和感を覚えるポイントがもう1つあります。
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常磐線の北千住駅とは異なり、綾瀬駅から常磐線の北千住駅は認識されています(省かれていません)。しかし、北千住駅までの運賃が空欄になっています。つまり、この運賃表の下にあるJR東日本の自動券売機では北千住駅までの乗車券を買えません。
北千住駅と綾瀬駅――隣同士の駅なのに、なぜJRではきっぷを買えないのでしょうか。
常磐線の「北千住~綾瀬」のきっぷが買えないのはJRグループ共通のルール
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実は、常磐線の北千住~綾瀬間のきっぷを買えないのは、北千住駅と綾瀬駅だけに限った話ではありません。JRグループの旅客鉄道会社(※2)の全ての券売機・窓口では“常磐線の”北千住~綾瀬間のきっぷを購入できません。
(※2)北海道旅客鉄道(JR北海道)、JR東日本、東海旅客鉄道(JR東海)、西日本旅客鉄道(JR西日本)、四国旅客鉄道(JR四国)、九州旅客鉄道(JR九州)
これは旅客鉄道会社が定める「旅客営業規則」の第16条の5に規定されており、現場判断で発売しないというわけではありません。
常磐線北千住・綾瀬間相互発着となる旅客に対しては、乗車券類の発売を行わないものとする。
ポイントは「乗車券類」となっている所で、定期券を含む乗車券だけでなく(あり得ませんが)指定席券、急行券、特別急行(特急)券、特別車両券(グリーン券)など、北千住~綾瀬間で完結するあらゆるきっぷがルールとして買えないのです。
「北千住~綾瀬」のみ移動したい場合はどうする?
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「自分は北千住駅から綾瀬駅(綾瀬駅から北千住駅)に行きたいのに、きっぷが買えないとなると、どうやって移動すればいいんだあああああ」と思う人もいるかもしれません。しかし、先ほど出した常磐線の北千住駅にあるJR線近距離きっぷ運賃表に、こんな表記がありました。
綾瀬は、東京メトロ千代田線の券売機でお求めください。
要するに、この区間のきっぷ(乗車券)は東京メトロ千代田線の北千住駅なら買える、ということです。
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この区間を行き来する場合、通常の東京メトロの運賃が適用“されません”。普通、鉄道の運賃は乗車距離に応じて計算されるのですが、東京メトロ千代田線の綾瀬~北千住間(※3)のみを乗車する場合は距離ではなく区間で定義する「特定運賃」が適用されます。その金額はJR東日本の「電車特定区間」(※4)の初乗り(1~3km)運賃で、普通乗車券の場合は140円(交通系ICカード利用時は136円)となります。小児運賃は半額で、紙のきっぷの場合は端数を切り捨てます。通学定期券を除く乗車券には「鉄道駅バリアフリー料金」も上乗せされます(普通乗車券なら10円)。
(※3)千代田線は北綾瀬駅が起点なので、常磐線とは逆方向の表記となる。
(※4)JRグループの「幹線」に分類される路線のうち、特に乗降客数の多い路線(区間)で、通常の幹線よりも運賃が割安となっている。「東京」と「大阪」で設定されており、東京の電車特定区間では「山手線内」というさらに細かい区分も存在する(説明は割愛)。
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なぜJR東日本の運賃を適用しているのかというと、この区間は常磐線と並走しており、東京メトロの運賃よりも乗客に有利だから(=安いから)です。なお、先述の通り“常磐線の”北千住~綾瀬間のきっぷは本来買えないものの、常磐線の北千住駅または綾瀬駅で買った「150円」(鉄道バリアフリー料金込み)の金額式普通乗車券なら、互いの駅で降りることが可能です。
しかし、並走しているとはいえ、常磐線と千代田線は別企業が運営する別路線です。別企業が同じ線路を共有しているわけでもないのに(※5)、なぜこの区間の運賃をそろえる必要があるのでしょうか。
(※5)首都圏では、東京メトロ南北線の目黒~白金高輪間を東京都交通局が「都営三田線」の一部として、北総鉄道北総線の青砥~小室間を京成電鉄が「成田空港線」の一部として借りて共有している例がある(ただし、京成電鉄成田空港線に小室駅は存在しない)。
「北千住~綾瀬」を行き来したり通過したりする場合の運賃は?
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JRグループの前身である「日本国有鉄道(国鉄)」は、常磐線の直流電化区間(日暮里~取手間)の混雑緩和策として複々線化を進めることにし、新設する緩行線(各駅停車の電車向けの線路)を東京メトロの前身である「帝都高速度交通営団(営団地下鉄)」の千代田線に直通できるようにすることにしました。
しかし、複数の“大人の事情”が発動した結果、常磐線と千代田線の接続駅は快速電車/列車が止まらない綾瀬駅になってしまいました(大人の事情を説明しようとすると文章がさらに長大になるので割愛します)。つまり、常磐線の複々線化が完成すると、常磐線(国鉄線)として北千住と綾瀬の両駅を行き来する術がなくなってしまいます。
そこで国鉄と営団は、複数の運賃に関する特例を設定することになりました。その1つが、先述の綾瀬~北千住間における特定運賃です。運賃を割安な国鉄(→JR)にそろえることで、常磐線で北千住~綾瀬間を行き来していた乗客に便宜を与えたのです。
これを含めて、この北千住~綾瀬間における運賃計算上の特例についてまとめると、以下の通りです(逆方向に乗車する場合も同様です)。
北千住~綾瀬間のみ乗車する場合
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北千住~綾瀬間のみ乗車する場合は、東京メトロ線を利用したとみなします。ただし、先述の通り運賃は特定運賃で、JR東日本の距離制運賃と同額です。この区間の普通乗車券と障害者/学生用回数券は東京メトロ千代田線の北千住駅または綾瀬駅でのみ購入できます。団体乗車券は、両駅と東京メトロの駅にある一部の「定期券うりば」で購入可能です。
北千住から綾瀬を経由して北綾瀬まで乗車する場合
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北千住から綾瀬駅を経由して北綾瀬まで乗車する場合は、綾瀬駅は千代田線の途中駅とみなして全区間で東京メトロの距離制運賃(通常運賃)を適用します。普通乗車券の場合、運賃は鉄道駅バリアフリー料金込みで180円(交通系ICカードの場合は176円)です。小児運賃は半額ですが、紙のきっぷの場合、端数は”切り上げ”です。
常磐線の南千住方面から北千住で乗り換えて綾瀬に向かう場合
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常磐線の南千住方面からJR線に乗車し、北千住駅で千代田線に乗り換えて綾瀬駅まで向かった場合は、綾瀬駅までJR線を使ったとみなして運賃を計算します。JRグループの運賃制度における「東京都区内」も適用可能です。
なお、綾瀬駅から改札を出ず、そのまま北綾瀬駅に向かった場合は、綾瀬駅から千代田線に乗ったとみなして、綾瀬~北綾瀬間の乗車に対して東京メトロの運賃が掛かります。
常磐線亀有方面から綾瀬を経由して北千住に向かう場合
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常磐線の亀有方面からJR線に乗車し、綾瀬駅で千代田線に乗り換え(または直通)し、北千住まで乗った場合も、全区間をJR線に乗車したとみなして運賃を計算します。JRグループの運賃制度における「東京都区内」も適用可能です。
なお、北千住駅から引き続き千代田線に乗車する場合、または同駅から日比谷線に乗り換える場合は、北千住駅から東京メトロ線に乗ったとみなして東京メトロ線の運賃を計算します。
また、先のパターンとの混合で「常磐線の亀有方面から綾瀬駅と北千住駅を経由して常磐線の南千住方面に抜ける」という乗車をした場合は、常磐線(JR線)を通過したとみなし、全区間をJR線として運賃計算します。
まとめ
常磐線と千代田線の北千住~綾瀬間は、歴史的経緯から運賃計算が結構特殊です。ざっくりまとめると…
両駅間だけ乗る場合は東京メトロ扱いだけどJR東日本の運賃
北千住~北綾瀬間を乗る場合は純粋に東京メトロの運賃
JR線から綾瀬駅を経由して北千住駅まで乗った場合は、全区間がJRの運賃
JR線から北千住駅を経由して綾瀬駅まで乗った場合も、全区間がJRの運賃
ということになります。明日から使える豆知識として、ぜひ参考にしてしてくださいw