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死者からのメッセージ         (ペルーその❹)


リマ郊外のスラム

         「記憶の断片」 

機内アナウンスで目が覚める。
鄭さんやS氏との出会いに何か運命的なものを感じつつ
ぺルー企画に思いを馳せる。                        
そして午後10時頃、リマの国際空港に到着。
国際空港は我々と空港職員以外、人の気配はなく静まり返っていた。入国審査も簡単に終わり空港ロビーへ。

S氏らとはそこで別れ、迎えにきてくれていた鄭さんの娘・大谷さんと落ち合う。
初対面だがメールやスカイプのやりとりをしていたので以前からの知り合いのような不思議な感じである。

到着が遅れ3時間待ちとなっていたにも関わらず大谷さんは元気で明るい表情だった。
南米で飛行機が3時間ぐらい遅れるのはしょっちゅうとのこ
と。
それより治安悪化で観光客が来なくなり仕事もなくて困っていたところにこの話で元気になったそうだ。
テレビ取材の仕事も初めてで興味も沸いていると話してくれた。
予約したホテルまでは大谷さんが運転する自家用車で送ってもらう。

 大谷さんは、取材中も自家用車を使っても構わないと話してくれる。タクシーや運転手付き車のチャーターは高くつくから。
その代わりガソリン代・運転手費などコーディネーター費に上乗せしてもらいたいとの申し出。
こちらとしても費用を抑えられるし、動きやすいので快く承諾。
大谷さんは鄭さんの娘らしく、明るくハッキリした性格で安心できそうだ。
ホテルにチェックイン。すでに時間は0時になろうとしている。8月のリマは真冬なので寒く、暖房の効いた部屋でベッドにもぐりこむ。

リマで初めて迎える朝。
移動の飛行機で寝てばかりだったせいか5時に目が覚めてしまう。それとも時差ボケ?時差は確か14時間だがあまり影響はなさそうに感じる。
鄭さんに大谷さんと無事会えたことをメールし朝食を食べにホテルのカフェレストランに向かう。

ホテルはA氏の予約で報道局の支払いになっている。もし制作会社の立場なら利用をためらうクラスのホテルで私には贅沢な雰囲気。
A氏もこのホテルにチェックインしており、朝の9時に連絡する予定になっている。
朝食には早いかなと思ったが朝6時には利用できるようで、
レストランのバイキングにはご飯やみそ汁、卵焼きなども用意されていた。

このホテルも閑散としておりレストランには、裕福そうな白人数人とペルー人らしきグループ6人ほどがいた。
朝食をすませホテルの外に出てみるが、真夏の日本から真冬のリマにやってきたので体感としてはかなり寒く感じる。
リマの中心街だが朝早いせいか人もまばら。

部屋にもどり備え付けのインスタントコーヒーを飲み、小型ビデオカメラなどの準備をしておく。取材自体はカメラマンがいるのでプロ用カメラだが、何かトラブルなど起きた時や緊急事態に対応できるよう常に小型のホームビデオカメラは持ち歩いている。

大谷さんが9時前ホテルに到着。 
A氏に連絡するとホテルの部屋で待っているとのことで大谷さんとA氏の部屋に向かう。
A氏は私と同世代ぐらいか。物腰は柔らかいが行動的な感じがする男性である。英語、スペイン語が堪能でテレビ朝日報道局外信部所属で海外支局を転々としており現在はメキシコ支局長で南米エリアをカバーしているとのこと。
私とは波長が合いそうで一安心。

そしてホテルから3人でカメラマンの事務所に向かう。
そこで紹介されたのはカメラマン・アントニオ。ビデオエンジニア・セサールの二人である。
この二人、 A氏とは長く付き合っており信頼関係も厚く仕事もできそうだ。

簡単な打ち合わせをし、取材自体は明日からとなった。明日は先住民によるデモがあり町に治安部隊や警察が出動する。衝突などあり騒ぎが起きそうなのでそこに向かう予定。
明日の朝はアントニオ達がホテルに迎えにきてくれる。

そして今日の午後からはA氏の案内でリマ市内探索となった。A氏は明日にはメキシコに帰るので今日の夜までは私と付き合ってくれることになっている。

大谷さんのほうはA氏と面識はないがA氏のほうは大谷さんの所属する観光会社で飛行機のチケットを手配しているので名前は知っていたそうだ。その大谷さんの案内でA氏も知らないペルー料理の店に入る。

手ごろな値段だが料理は美味しくA氏も今後利用したいと喜んでいた。
魚介類の料理は特に美味しくて、セビチェ(魚介類のマリネ)、エビのスープなどなど。あまり食に関心のない私でもセビチェは気に入りみんなでおかわりをした。
そしてしめは、ピスコサワー。ペルーの代表的なカクテルで爽やかで飲みやすく取材もないことから、これもみんなでおかわりをする。

昼食後は大谷さんと別れA氏とホテルに帰り打ち合わせ。A氏のメキシコの連絡先やリマでの日本大使館など主要連絡先など教えてもらう。
また、政府関係者、警察などへのインタビューや取材許可など事前にA氏に連絡してありその日程などはアントニオに確認することになっている。

 夕食はA氏の案内で午後5時ホテル出発と決めて私は部屋に帰る。ピスコサワーのせいか旅の疲れか、うとうととまどろむ。
今日はゆったりとした時間の流れのなかで初めてのぺルーの空気を感じられる初日になりそうだ。

ただし、カメラマン・アントニオは警察や軍からの情報を得ているので突発の大きな事件などあれば取材に出る可能性もある。その時には大谷さんに連絡が入り私を迎えに来ることになっている。

午後5時
A氏とホテルを後にする。
A氏「初めてリマに来た日本人男性を必ず案内する日本食レストランがあるのでそこに行きましょう。」
タクシーはいつもA氏が使っている運転手でチャーターしているそうだ。
食事中も待ってくれるので便利である。運転手の連絡先は教えてもらったが今回の私には必要がないと考えたので値段はあえてきかなかった。

着いた日本食レストランはリマ繁華街から少し離れた住宅街の中にあった。塀に囲まれた広い敷地で駐車場も広く、全てが日本風に作られている。塀の上には赤い提灯がぶらさげていてガードマンのいる木戸を抜けると石畳が続いている。建物も和風でリマにいるとは思えない風情だった。

のれんの掛かった引き戸を開ければレストランだが、室内はちょっと普通とは違っていた。
入った入り口付近は普通にテーブルが並び日本の居酒屋風だが奥に入ると周り廊下があり、その中は靴を脱いであがる座敷が円形に広がっている。席はそれぞれが屏風でしきられておりかなり広い。
A氏に促されその座敷に上がり座卓に座る。まるで日本にいるようだ。
昼、ペルー料理をかなり食べたので刺身をつまみにビールをA氏と飲む。
スーツ姿の日本人客も何人か入ってきた。

A氏「今は治安が悪化して自粛ムードで暇なんですよ。でもそろそろ時間かな。18時まわったし」
私はなんのことだろうとA氏に問いかけようとしたらA氏が周り廊下の入り口付近に向かって手を振っていた。
そちらを見ると綺麗な女性たちが周り廊下に入ってくる。
どの女性も身なりは派手でもなくきちんとしており、若くてスタイルもいい美人ばかりである。
その女性たち6人ほどが座敷の周りを歩き始めた。

A氏「この店は馴染みなんで、何人かは知り合いです。ここは安心できる店なんで心配しないで。もし気に入った女性がいたら声をかけ呼んでいいですよ。そういう店なんで。」
後で知ることになるがこの店にはリマ現地に住む日本人、駐在員、日本大使館の職員なども来る隠れ家的な店だった。
治安が悪くなり繁華街の風俗に行くより安心できるということらしい。店で働いているのもほとんどが日本人。
しかし表には赤ちょうちんやのれん、電飾などあり隠れ家とは思えないが、場所は住宅街の中なので知らなければ観光客は確かに来れないだろうなとは思われた。

 私も男。美人ばかりでかなりそそられたが、リマの初日で明日からは取材。ここは大人しくと思っていたのを見透かしたようにA氏は女性に声をかけ2人をテーブルに呼んだ。

なんと一人は片言だが日本語ができる。彼女に聞くと日本語ができる子は多いよとのこと。
A氏「気が合えばこのままホテルまで彼女と一緒にどうですか?チップ込みで100ドルから150ドルぐらいで適当に」
私「・・・・・・明日は取材なんで今日のところは」
その状況を察したのか隣の彼女は私に電話番号の書いた名刺を渡してくれた。
A氏「ホテルは教えておいたのでここに来なくても彼女に電話すればホテルまで来てくれますから。今日のところは食事の相手だったのでチップ20ドルぐらいで」

 食事代などはA氏が払ってくれ外へ、すると建物の裏からA氏の隣にいた女性が出てきてA氏に寄り添いタクシーに歩き始めた。
A氏「明日はメキシコに帰るので私はリマを楽しみます。彼女がこれからディスコに行きたいというので一緒にどうですか?」 

初めてのリマで初めての経験、ならば付き合うしかないなと思いタクシーに乗り込む。
この時は、リマの寒さが火照った体にちょうど良く感じられた。

タクシーはリマの繁華街に戻り、派手なネオンが光り輝くビル群の中に吸い込まれ止まる。
冬というのにミニスカートの女性たちが路上のあちこちで呼び込みをしている。この風景をみていると厳戒態勢のリマにいる実感が全くない。
A氏同伴の女性の知り合いに会い彼女に連れられ派手なビルの中のディスコに入る。
A氏「ここも日本人には人気の店で気に入った女の子がいれば声をかけても大丈夫です。普通の学生もいますが小遣いや学費を稼ぎにきているので。日本語のできる子も多い ですから」
そうつげると私をボックスに残し同伴の彼女に引っ張られるようにホールに出て彼女と踊り始めた。
何組かホールでサルサを踊っていたが、なんとA氏カップルのダンスが華麗でなめらか。一番うまい。スーツ姿の日本人も何人かいたが目的はダンスではないようで踊っているのはペルー人カップルとA氏達だけ。
南米を渡り歩いてきたA氏、ほぼラテンのノリで初対面から当てられっぱなしだが、悪い気はしなかった。
むしろ颯爽とした気配りが感じ取れ心地よかった。
そんなA氏の鮮やかなステップに見とれていると、隣に若い女性が座り、日本語で話しかけてきた。
「アナデス。ハナシ、イイデスカ?」
私「いいよ」
アナ「リマ デ スンデマスカ?」
私「いや、ツーリストでホテル」
アナ「ワタシ ホテルニハ イキマセン。ハナシダケ。イイデスカ?」
内心ホッとして私「いいよ。何か飲む?俺はビールだからオーダーして」
アナ「アリガトウ。ワタシモ ビールデス。」
そしてビールを飲みながらアナの片言の日本語と私のいい加減な英単語を交えた会話が始まる。

 彼女は大学生。治安悪化やデモなどで休校が多く、友達とここに来たそうだ。彼女の友達には日系人が多くて日本語の勉強を始めたばかり。このディスコには日本人が良く来るので日本語を話しにたまにきているそうだ。
ホテルには良く誘われるけど日本人は断っても普通に相手してくれてドリンクもおごってくれるから優しくて好き。
他の外国人はしつこいし断ると怒り出す。など話していると
帰る時間になったのかアナの友達がやってきた。

アナ「アリガトウ。マタ アイマショウ。コレ デンワバンゴウ。デンワシテ サヨナラ」
私「さようなら」
そうしている間にA氏カップルも踊り疲れたのか帰ることとなる。

 ホテルにつきリマでの初日が終わりを迎える。

「ぺルー1日目、こんなもんかな。世界は広い」

スラムでの祈り

ぺルーその❺に つづく




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