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死者からのメッセージ     (ペルーその❸)



テレビ朝日「サンデープロジェクト」

   「記憶の断片」

 鄭(テイ)さんのもとに通い、ペルーに住む娘さん・大谷さんともメールやスカイプを駆使し連絡を取り合う。
大谷さんはペルー移住後、現地の男性と結婚し首都リマで日本人相手の観光ガイドや通訳として働いていた。
 初めてのペルー取材において心強い存在になると、すでにこの時感じていたので、ペルーにおける通訳・ガイドの心配はなくなった。

 テレビカメラマンについては危険な状況での取材が考えられるので日本人ではなく、テレビ朝日報道・メキシコ支局長が雇っているペルー人カメラマンに決定。

 私のペルー渡航に合わせメキシコ支局長・A氏ともリマで落ち合う予定で準備は整った。

 あとはペルーに飛び立つだけとなるが、成田空港に向かう前日あたりから様々な思いと不安が私に襲い掛かってきた。

 そもそも海外に出かけた経験はそれまで数回ほど。英語もほぼ話せない。ロサンジェルスまではJALなので心配ないが、ロサンジェルスでヴァリグブラジルに乗り換えないといけない。トラブルなく乗り継ぎリマに到着できるのか?
混乱した戒厳状況の中で放送に値する取材はできるのか?
テロリストに襲われるリスクは?
或いは強盗やギャングに襲われないか?
などなど頭を駆け巡る・・・・。

そしてほとんど寝むれずに成田空港に向かった。
そのおかげかロサンジェルスまでは爆睡状態。
起きたのは機内食を食べる時とトイレぐらい。

そしてロサンジェルスに到着。ここで想定していた不安が見事に的中。ヴァリグブラジルへの乗り換えがどこなのかわからず焦ってしまう。

 冷静になろうと空港を見渡し、日本人らしき人を見つけ教えてもらうがヴァリグブラジル航空のカウンターは空港の端のほうにあり搭乗時間に間に合うかどうかギリギリの状況。
間に合わなければどうすればいいのかと切羽詰まった思いのままチェックカウンターになんとか着くがカウンターには職員が一人だけ。周りに乗客らしき人影もなく静まり返っている。

乗り遅れたのかと立ち尽くしている私の前に一人だけいた職員が「ミスター、コンドー?」と声をかけてきた。
彼はゆっくりとした英語で話してくれたので乏しい英語力の私でもなんとか理解できたのは、
飛行機の出発はかなり遅れて3時間後になったこと。それと驚くことに私のエコノミーの搭乗券はファーストクラスへの変更となったことなど。
理由については理解できず、その職員にファーストクラスのラウンジに案内される。搭乗できる時には呼びに来るからと彼は去っていった。

 手渡されたファーストクラスの搭乗券を見直すが、私の名前で間違いではなかった。
豪華なラウンジで何か食べようかとカウンターに向かう私に奥のソファーから日本語で声をかけられる。
「もしかして日本人ですか?」
振り返るとスーツ姿の男性二人が私を見ていた。
50代半ばぐらいの男性ともう一人は60過ぎぐらいの日本人男性。
私が「そうです。」と返事を返すと50代半ばの男性が
「よかったらご一緒にどうですか?ステーキとワインがお勧めですよ」と教えてくれる。
カウンターに向かい改めてラウンジを見渡すが他に乗客の姿はない。

 食事を手に彼らと同じソファー席につく。
私が話しかけようとする前に、50代半ばの男性が私に問いかけてきた「リマには観光ですか?渡航自粛のなかで観光とは思えないし日系人の方?」 
スーツ姿の彼らにすれば、アーミー風カーゴパンツにM1ジャケットの私は戒厳状態のリマに向かうには奇妙に見えたのかもしれない。

 私も、この時期、リマに向かうスーツ姿の日本人は商社関係あるいは外務省?または自衛隊か外事課がらみ?など考えを巡らせながら、ここは正直に身分を明かしたほうがいいと
「テレビニュースの取材です。フジモリ政権1年でペルーの現状を取材する予定です。」と答える。

 50代半ばの男性は納得したように
「なるほど。しかし海外メディアも来てない状況下での取材は大変ですね。気をつけてくださいね。このヴァリグブラジルの便に搭乗客は我々日本人の三人だけです。おかげで私もビジネスクラスだったのがファーストクラスになりました。海外にはよく行きますがこのケースは初めてです。」

 私「ところで失礼ですがご職業は?」

50代半ばらしき男性「すいませんがハッキリとした身分は明かせませんのでお察しください。そのかわりペルー滞在中に何か困ったことや知りたい情報などあれば連絡をください。現地での携帯番号を教えておきます。私は2週間ぐらいは滞在する予定です。」
と電話番号と名前を書いたメモを手渡してくれた。
彼の名前はS氏

 そして60過ぎと思われる男性のほうを向き
「こちらの方は船会社の社長さんでリマに寄港しているタンカーの視察です。」
とS氏が代わりに紹介してくれた。
S氏らとペルーについて話をしている間に時間は過ぎてゆき、さきほどの航空職員が迎えに来た。
そして我々3人は飛行機へと向かう。

搭乗しファーストクラスの広いシートに身を沈め目を閉じる。
その時、確かな予感が頭をよぎっていく。今回出会った鄭さんと同じく、S氏とはここだけでなく、またどこかで出会うことになるだろうなと・・・・・。
そして深い闇に落ちてゆき眠りについた。

       ペルーその❹につづく

フジモリ大統領


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