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ネット右翼だけの専売特許ではない!意外と身近に潜む「歴史修正主義」

「戦後80年が迫る今、生き証人がいない中で色々な解釈をして、後付けで架空の歴史を史実と勘違いし、改竄へと繋がっています。“関東大震災に伴う虐殺は無かった”などという荒唐無稽な言説は、90年代初めには存在しませんでしたが、目撃者が亡くなっていき、デマが生まれてきました」

(映画「リリアンの揺りかご」神戸金史監督へのインタビューより抜粋)

ミクロ規模の歴史修正主義

「歴史修正主義」とは、ある歴史上の出来事について特定の界隈にとって都合のいい言説を流布し、あわよくば歴史そのものを改竄してしまおうとする動きです。代表的なのが上述した「関東大震災に伴う虐殺の否定」で、発生から100年を過ぎた今では、生き証人の絶滅を待っていたかのようにデマゴギーが噴出しています。

扱われている出来事からして、いわゆるネット右翼のイメージがありますが、別にネット右翼に限ったことでもありません。それに、歴史上の出来事という大きなターゲットばかりという訳でもなく、寧ろちょっとした炎上騒ぎの経緯などでミクロ規模の歴史修正主義が頻繁に起こっています。


燃やした責任は弱者男性へ転嫁

その一例が、レッグウェアブランド「ATSUGI(アツギ)」の広告炎上です。ATSUGIは三重交通や千葉県松戸市などと同様に、広告がきっかけで“燃やされた”経験があります。他の炎上と同様に、反対する意見は「名誉男性」「表現の自由戦士」と造語交じりに拒絶され、目障りな広告とそれを出す企業への叩きは熾烈を極めました。しかし、ほとぼりが冷めてATSUGIの名が聞かれなくなると、次第にこのような書き込みが投稿されます。「忘れられる権利を行使したいのはATSUGIの方だよね…。キモいオタクどもに好奇の目で見られて可哀想…」

「ネットで女性が、他の女性や企業などを叩いて炎上させる。それが鎮火したり旗色が悪くなったりすると、弱者男性のせいにして逃げる」というムーブメントが明らかとなっています。つまり「好き勝手しておいて、責任は“チー牛”に押し付ける」のが常態化している訳です。(チー牛もまた、歴史修正主義によってまんまと差別用語の括りから逃げおおせた背景を持ちますが、この辺の話は別の機会に回します)

既に幾らかの炎上騒ぎが「性的搾取や不適切表現に対する真っ当な批判を、弱者男性が横入りして抵抗したため、収拾がつかなくなった」などといった経緯へ無理矢理にでも書き換えられています。好きに暴れた挙句、その責任を負わずに転嫁して逃げ、また別のところで暴れることを“彼女ら”は繰り返しています。ミサンドリストにしろネット右翼にしろ、極めて強い差別と排斥の思想が歴史修正主義へと駆り立てているのかもしれません。


ファクトを強くするには記録しよう

歴史修正主義が罷り通るのは、ファクト(事実)の影響力が弱まっている時です。その原因は、高齢化による生き証人の減少や、事実が事実として広まらなかった伝達力不足など様々ですが、受け手のリテラシーばかりに責任を問うだけではデマを押し返せないでしょう。ファクトとデマにはただでさえ大きな力量差があり、「広まったデマを払拭するには、拡散に比べて6倍の労力がかかる」とまで言われています。

最近の出来事でも、遠い将来には認識を捻じ曲げられるかもしれません。これに抵抗する一つの術が「記録すること」です。ミサンドリストによる炎上対策として、このような呼びかけがありました。「とにかく記録しろ、スクショでもいいから魚拓を取れ。彼女らは後で必ず、書き込みを消すなどの証拠隠滅を図るだろう」ファクトの影響力を高めるためには、確かな記録が必要です。見るに堪えない醜悪な書き込みにも向き合い、証拠として保存する勇気が、将来の歪曲に立ち向かう武器となってくれる筈です。


生き証人とは監視の目でもある

ところで、生き証人がいなくなったことで逆に事実へ向き合えるようになったレアケースも存在するので最後に軽く触れておきます。ひとつはジャニーズ問題。2002年ごろにもスクープになりかけていたそうですが、ジャニー喜多川氏が健在だった為か有耶無耶にされて終わりました。それが一転して性加害とその補償が報道を染め上げたのは、ジャニー氏の死去が大きな原因であろうことは疑いようもないでしょう。

もうひとつが、ドイツの精神医学界です。反ヒトラー・脱ナチスへ躍起になっていたドイツが唯一なあなあにしていたのが、「T4作戦」という大規模な障害者殺戮作戦でした。戦中の精神科医らは積極的にこれへ加担していたのですが、敗戦後は「我々はヒトラーに利用された被害者だ」というスタンスに転換しのうのうと生き延びます。

ドイツがT4作戦と向き合うようになったのは、遅れに遅れた2010年のことでした。精神医学界のトップは過去の過ちを認め、思想の土台となる著書を出したカール・ビンディングがライプツィヒ名誉市民の座を剥奪されます。この方針転換は、当時の医師がほとんど死去して影響力を失っていたのが原因でした。

生き証人の全滅によって、告発を妨げる厳しい目がなくなり、忌まわしい事実と向き合えることもあります。事実から逃げずに向き合うという茨の道は、そうそう選べるものではありません。ただ、これはかなりのレアケースです。なんにせよ、デマゴーグ(デマを流す人)の狼藉を防げるのは、生き証人になり得る全ての人間です。


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Written by 遥けき博愛の郷
大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

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