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性嗜好障害(性依存症)って、本当に周知されていいの?

性嗜好障害は、20年以上前にビル・クリントン元大統領が起こした不倫スキャンダルをきっかけに生まれた診断名で、ICD-10にも記載されているほか、俗に「性依存症」とも呼ばれています。性欲を満たすことが第一義となり、不倫だけでなく痴漢や盗撮や窃盗などの犯罪にも繋がりかねない厄介な疾患です。横浜にある「大石クリニック」が非常に詳しいので、分からないことがあればそちらのHPを熟読してください。

さて、大石クリニックの名前とURLを載せたことにより、私は性嗜好障害の周知へほんの少し“貢献”ないしは“加担”しました。ここで問いますが、あなたは「病名の周知」というものをどう捉えていますでしょうか。理解が進み偏見が減る、素晴らしい進歩であるかのように感じられることが多いでしょう。

確かに病名が周知されることは良いもので、「うつ病」などはまさに好例です。20世紀では「大恥」とされてきたのが、どうにかこうにか病名が広がったことで、診断は特別恥ずかしい事でなくなり、治療へ繋がる道筋も大幅に増えました。まだ誤解は多いですけれども、患者を取り巻く状況は幾分か良くなっている筈です。

ある精神科医は、理解が浸透せず診断すなわち絶望の「暗い病気」から、理解が進み診断に抵抗がない「明るい病気」になったと表現しています。

光が当たった病気には、診断への抵抗感がありません。ゆえに、比較的軽い症状でも医師に相談するケースが増えます。これが早期発見と早期治療であればまさに進歩の形なのですが、安心のために病名を得ようとする動きも生まれました。中途半端な周知によって、病気の一側面しか伝わらなかったためです。

また、「明るい病気」になることは「病気だから大目に見てあげて」「障害があるから大目に見てあげて」「困難があるから大目に見てあげて」などと譲歩を求められることにも繋がります。一人二人の意見なら無視できようものですが、多数派の意見になってしまえば犯罪行為への泣き寝入りさえ強いられてしまいます。

いま「痴漢は性嗜好障害によるものだから、刑罰よりも治療を」と言ったところで通じないのは、性嗜好障害があまり知られていない「暗い病気」の側にあるからです。しかし、仮に周知と理解が進んで「明るい病気」となれば、「性嗜好障害という『病気』なんだから大目に見なさいよ」と、無数の“善意”が泣き寝入りを強いるようになるかもしれません。「病気は病気として、犯罪は犯罪として」と弁別を求めても、ほとんどの人間はどちらの専門家でもないので、結局心情でしか判断できないのです。

その精神科医は、精神医学や精神疾患における知識や病名の中途半端な広がりを、「サイコバブル」と表現しました。「バブル」は膨れ上がる「泡」だけでなく、赤ん坊が「バブバブ」と発するように聞きかじりの病名を口にしている意味も込められているそうです。

周知によって「暗い病気」から「明るい病気」にすることは、その疾患や障害を持つ人から負わされた傷や不都合などを有耶無耶にさせられるどころか、責任の追及さえ禁じられることでもあります。「性嗜好障害だから大目に見なさい」の大合唱が痴漢や盗撮の被害にまで鳴り響く可能性はゼロではないと思います。

その上でお聞きしますが、あなたは「性嗜好障害」および「強迫的性行動症」が周知され、理解が浸透することを望みますか?まさか、障害そのものを「異常者」「パブリックエネミー」に括って叩き続けるという“逃げ道”は選びませんよね。


参考サイト
性嗜好障害・強迫的性行動症 - 大石クリニック

林公一「サイコバブル社会」を読んで


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Written by 遥けき博愛の郷
大学4年の時に就活うつとなり、紆余曲折を経て自閉症スペクトラムと診断される。書く話題のきっかけは大体Twitterというぐらいのツイ廃。最近の悩みはデレステのLv26譜面から詰まっていること。

この記事は障害者ドットコムの以下のコラムより転載しております。2024年1月以前のバックナンバーもこちらからどうぞ。


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