映画の中の障害者(第14回)『ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-』
ADHDの女子高生を描く青春映画
今回、4月5日から東京・アップリンク吉祥寺で公開され、順次全国で公開が予定されている北宗羽介監督『ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-』を紹介します。ADHD(Attention Deficit Hyperactivity Disorder)は、注意欠陥多動性障害のことで、注意力や集中力の欠如、過活動、衝動性などが特徴的な神経発達障害の一種です。一般的には、子供や若者に見られることが多く、学業や日常生活に支障をきたすことがあり、当事者は人口の約5%というデータもあげられています。映画はその当事者である2人の女子高生を主人公にした作品です。鑑賞前は、結局、難病恋愛だろうかと身構えたのですが、恋愛要素は全くなく直球でADHDの困難と希望を描いている点に気持ち良さを感じました。
※ネタバレあります
社会が求める「普通」への違和感
後援に発達障害団体の名前が連なり、良くあるオファー企画ものと思ったのですが監督インタビューなど読むと、青春映画を撮りたいと脚本募集したところ、たまたまADHDがモチーフのものを採用したとのことでした。これが脚本デビューの神田凛さんは身近に当事者がいて、その時の経験が活かされています。
「たまたま普通に生まれたやつがイキって見下してんじゃねー!」 等印象に残るセリフが数多くあり、発達障害を特別な才能と結びつける風潮にも苛立ちをぶつけたりする箇所など、当事者に寄り添って気持ちをうまく代弁しているように思います。また当事者同士が支え合い困難を乗り越えていく点は、三宅唱監督「夜明けのすべて」と同じく公開時期も重なっているので興味深く、希望を感じました。
北監督は「自分たちが持っている普通や常識の枠を一度外してみて、それぞれの価値観という当たり前のことを知ってもらい、器の大きく緩やかな社会になってほしい」というメッセージを映画に込めたと語ってます。それゆえ近所のお寺の住職の「適当に頑張ってください」という印象的なセリフは、ADHD当事者以外も、社会が求める「普通」に違和感を持つ多くの人に温かく響くし、普遍的な青春映画として、特に10代の多感な若者たちに見てもらいたいなと思いました。
未来へつながる作品として
本作は、文化庁の「コロナ禍を乗り越えるための文化芸術活動の充実支援事業」(Arts for the future ※通称AFF)作品です。このAFF支援事業により数多くの日本映画が制作されたのですが、低予算で企画も中途半端な作品が大量に生まれた弊害も指摘されています。本作も上映時間は70分というコンパクトな作品ですが、予告編がSNSで話題になり、監督の意図を超えてADHDについて理解を進める学校の授業や医療講演にぴったりな作品になったというのも大変面白く感じました(実際オファーが来てるとのこと)。膨大なコンテンツが溢れて、大規模予算作品でも視聴数獲得に激しい競争にさらされる中、きっと本作は各地の自主上映会等でも末長く大切に見られ語られ、未来へつながる作品となっていくはずです。
参考リンク
映画『ノルマル17歳。-わたしたちはADHD-』公式サイト
障害者ドッコム:北宗羽介監督インタビュー
Kaien公式チャンネル『【発達の主張Live】映画『ノルマル17歳。』~ADHDの女子高生たちが見る「普通」の世界に込めた思いとは~』