ワーキングアグリーメントを作ろう!
この記事は「組織を芯からアジャイルにする」をテーマに活動するコミュニティ「シン・アジャイル」が運営する note マガジン「【ほぼ月刊】シンアジャマガジン Vol.5」に向けて執筆しています。
Vol.5 のテーマは「ワーキングアグリーメント」ということで、実際に自分が所属する開発チームにおけるワーキングアグリーメントの内容や、その運用を紹介したいと思います。
ワーキングアグリーメントとは
ワーキングアグリーメント(Working Agreement)とは、その名の通りチームにおける働き方における(Working)合意(Agreement)、つまりチームで働く上での「ルール」や「文化」「おやくそく」を明文化したものです。
ワーキングアグリーメントの目的
働き方の期待値を擦り合わせる
「チーム」と言うからには、共通の目標・目的を持った複数の人が集まっているはずです。同じ目標に向かっているとしても、生まれも育ちも経験も異なる複数のメンバーが集まれば、その価値観も様々です。
チャットひとつにしても「メンションされたら数分以内に返信するべき」と考える人もいれば「せっかく非同期コミュニケーションなのだからいつ返信しても OK」と考える人もいます。これに限らず、様々な場面・シチュエーションにおいて、それまでの経験などから個々人の「期待」があり、そうならなかったときにはストレスを感じます。さらに、場合によっては摩擦・衝突に繋がることさえあります。
前述の例では、チームで「チャットでメンションされたとき」の「おやくそく」が決まっていれば、そういったストレスを減らし、衝突を防ぐことができます。
新メンバーがチームの文化をすばやく学べる
チームが長期間活動をする場合、メンバーの増減というものはどうしても起きるものです。特に、新しいメンバーが参画する場合、チームの仕事内容を学ぶことももちろん重要ですが、チームにおける仕事の仕方や文化、スタイルを学ぶことも同じくらい重要です。
チームの仕事の仕方が明文化されていない場合、新メンバーは往々にして「空気を読む」ことでそのスタイルを学ぼうとします。
なんか、誰かに何かを頼むときはチャットの先頭に必ず【依頼】って書いてある気がする。書いた方がいいのかな……?
前のチームでは重要なメッセージ以外はメンションしない文化だったけど、気軽にメンションしてもいいのかな……?
その結果、勘違いからズレた行動をしてしまったり、既存メンバーに質問することでお互いの時間を消費することに繋がってしまいます。
ワーキングアグリーメントが明文化されていれば、新メンバーはそれを読むことによってチームで合意された仕事のスタイル・文化を学ぶことができるため、すばやく本来の業務に集中することができるようになります。
ワーキングアグリーメントの作り方
前述の通りワーキングアグリーメントはチームにおける「おやくそく」ですが、その名に「合意」とある通り、上司やリーダーがチームに課すものではなく、チームが「合意」したものである必要があります。そのため、チーム全員でミーティング(グループワーク)を行い、そこで合意されたものだけを「おやくそく」としてワーキングアグリーメントとします。
ミーティングの進め方は特に決まったものはありませんが、ざっくりと以下のような流れになります。
ワーキングアグリーメントの観点を洗い出す - 何についての「おやくそく」を明文化したいのか、を各人からの提案ベースで洗い出す。
具体的な「おやくそく」を洗い出す - 観点ごとに、どんなルールを守ろうとしているか、守って欲しいのかを書き出し、それらについて議論する。
「おやくそく」を決める - 書き出された「おやくそく」の内、議論を経て合意に至ったものをまとめ、ワーキングアグリーメントとする。
議論の際には「おやくそく」を作る目的に注目し、それを見える形で残しておくことをオススメします。その理由は次の項目の中で解説します。
ワーキングアグリーメントの運用
ワーキングアグリーメントを掲示する
ワーキングアグリーメントを決めたら、チームの全員が目にしやすい場所に掲示しましょう。
リアルなオフィスで仕事をしているなら、壁やホワイトボードに貼り出すのがオススメです。リモートワークが主体のチームであれば、チームの仕事の中心になる場所、目にしやすい場所に掲示するのが理想です。例えば、自分の所属するチームではスプリントバックログのある Miro のボードに掲示しています。
ワーキングアグリーメントのお手入れ
ワーキングアグリーメントは一度作ったら終わりではありません。アジャイルチームは、自分達の仕事を日々検査し、適応していくものです。
日々のふりかえりの中で気付いた新たな「おやくそく」を追加したり、逆に形骸化したり、既に役目を終えた「おやくそく」がある場合にそれを取り除いたりしましょう。既にあるルールを少し変えてみるのもいいかもしれません。また、定期的に見直し・棚卸しの時間を設けて、議論するのもオススメです。
このとき、前述の「目的」が重要になってきます。個々の「おやくそく」の目的が残されておらず、あやふやな状態だと、お手入れもままなりません。目的がハッキリしていれば「もっとこういうやり方がいいんじゃないか」「これはもういらないんじゃないか」と目的を基準にワーキングアグリーメントをアップデートしていくことが可能です。
ワーキングアグリーメントの実例
実際に自分が所属する組織におけるワーキングアグリーメントをいくつか紹介します。
仕事を終わらせることを優先して、ルールやガイドラインを逸脱しない
一番大事なおやくそくとして、先頭に載せています。
人は、目の前の仕事を終わらせるという「正義」を前に、様々なものを犠牲にしてしまいがちです。時には「おやくそく」を犠牲にして、仕事を終わらせようとしてしまうかもしれません。それが常態化してしまうと、ワーキングアグリーメント全体が形骸化してしまいますし、そのやり方・文化が本当に適しているのか、方向性が正しいのか検査することも難しくなってしまいます。
そのため、ワーキングアグリーメントの先頭にこのルールを載せ、仕事を終わらせることよりも、ワーキングアグリーメントを守り、透明性を担保して検査・適応することを重視しています。
※ただし、やむを得ず逸脱する場合は相談・合意の上で、という逃げ道も残しています。
メンションされたら返事 or 絵文字リアクションする
チームでは主なコミュニケーションツールとして Slack を使っており、このルールは「Slack では返答が欲しい人・見て欲しい人にはメンションする」というルールと共に載っています。
この「おやくそく」があることで、返事も絵文字リアクションもない場合は「無視されている」のではなく、ただ忙しくて「まだ目にしていない」とわかるようになりました。
とはいえ、反応がいつまでもないと人は不安になるものです。関係性や雰囲気によっては「↑これのお返事そろそろください!🙏」と催促するのも気が引けてしまいがちです。そこで、我々はさらに「Slack で返事やリアクションがない or 遅いと感じたら気軽にフォロー・リマインドする」という一文を ワーキングアグリーメントを加える事で、ガンガン催促していいよ!ということを明文化しています。
なるべく残業しない
これを明文化している組織はめずらしい?かもしれないですが、個人の価値観のズレも大きいところなんじゃないでしょうか。残業せずにプライベートを重視する人もいれば、できるだけ残業してでもチームに貢献したい、遅れがあるから残業して取り戻したい、と考える人もめずらしくはありません。
我々は次の目的から「なるべく残業しない」ことを明文化しています。
安定したパフォーマンス、良好なワークライフバランスを重視する。
長時間・長期間の残業はパフォーマンスの低下を招く。
また、やむを得ず残業をする場合・した場合はそれを共有することで PBI の見積りやプランニングの精度を検査可能としています。
まとめ
ワーキングアグリーメントは、難しいプロセスなしですぐに実践でき、その効果も非常に大きいプラクティスです。まだ導入していない、という場合は是非実践してみてはどうでしょうか。
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冒頭でもお伝えしましたが、この記事は「組織を芯からアジャイルにする」をテーマに活動するコミュニティ「シン・アジャイル」が運営する note マガジン「【ほぼ月刊】シンアジャマガジン Vol.5」に向けて執筆しています。
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