第5章

利用者調査から見た日本におけるVRChatのコミュニティと経済圏 第五章 VRChatの経済圏について

お世話になっております!

ついにこの卒論研究の調査報告も最後となります。経済圏に関するご報告をさせていただければと思います!

下のリンクに本研究の調査目的と、調査方法、そして今までの研究のリンクについて記載したnoteがありますので、ご一読いただければ幸いです!

VRCにおける経済圏

この章では、この本論の仮説の大きな一角を占めるVRCに関連する経済圏に関してインタビューと調査結果をもとに考察していきます。

VRCには現在、Boothを中心としたアバター経済圏や、VR機器やパソコンといったハードに関する経済圏が存在しています。

本章では、この2つに関して調査をもとに考察していければと思います。

では早速調査結果を見ていきたいと思います!

VRChatにおけるアバター取引

第三章の通り、VRCでは様々なイベントが行われています。この中で、昨今のVRCにおけるアバター経済圏の発生に大きく貢献したイベントが、今までに3回開催された「バーチャルマーケット」です。

バーチャルマーケット・・・来場者が会場に展示された3Dアバターや3Dモデルなどを自由に試着、鑑賞、購入できる、バーチャル空間最大のマーケットフェスティバル 公式HPより引用

この度、このバーチャルマーケットの発案者であり、現在もバーチャルマーケットを運営している株式会社HIKKYの取締役である「動く城のフィオ」さんにもインタビューさせていただきました!

その際におっしゃっていたのが、バーチャルマーケット開催前の状況でした。

2018年8月26日に初めてバーチャルマーケットが開催されるまで、VRCで使用されいているアバターには著作権的に問題のある版権アバターや、MMDモデルアバターを利用規則を破って利用することが横行していたようです。

そんな状況のさなか、「アークトラスちゃん」というあいんつ氏によって製作されたVRCでの利用を想定したアバターが発売されたのをきっかけにクリエイターがアバターを販売するという文化が誕生したようです。

こうしたアバターを増やし、より安全なアバターをVRCで利用できるようにと思って開催されたのがバーチャルマーケットでした。

これを証明するかのように、実際に統計に使用アバターの変化が表れています!実際に見ていきたいと思います!

バーチャルマーケット1以前に使用していたアバター 回答数=435


スライド30

選択肢+その他で回答を募集しました。

これを見ると販売アバターは19.5%に過ぎず、MMDアバターや自作アバター、worldにて配布されていたフリーアバターが大半であることがわかります。

では実施後はどうなったのでしょうか?

バーチャルマーケット1以後に使用していたアバター 回答数=463

スライド31

同じく選択肢+その他で回答を募集しました。


これを見ると販売アバターが19.5%から47.7%と急伸し、MMDアバターが7.6%まで後退していることがわかります。これにより、バーチャルマーケットがVRCにおいて「アバターやアクセサリーを購入する」という文化の形成に大きく貢献したことがわかります。

現在メインで使っているアバターの種類 回答数=571

では、現在ユーザーが使っているアバターはどのような種類が多いのでしょうか?

今メイン

選択肢で回答を募集しました。

これを見ると、購買するだけでなくそれをさらに改造するという方が60%と最多を占める結果となり、それに続いて自作される方が22.5%という結果になりました。

つまり現在のVRCでは自作または購入したアバターを、blenderなどの3Dモデリングソフトを用いて改造するという文化が根付いていると言えます。

それを証明しているのが次のグラフになります。

アバターの自作、改造経験について 回答数=570

スライド29

選択肢+その他で回答を募集しました。

驚きべきことに、自作も改造も両方する人が37.6%、改造のみする人が45.6%、自作のみする人が11.8%と、何かしらの自作または改造をする人が95.6%に上ることが判明しました!

第一章での通り、ITを生業とする人は決して多くないにも関わらずこれほどの数の人々が自作または改造を行っているのは、どういった人でもクリエイターになりえる可能性を示しているように思えます。

Booth等での使用金額 回答数=561

さて、ではこの経済圏の中心となっているBoothはどれくらい使われているのでしょうか?

今までBoothやUnity Assets Storeで使用した金額についてお聞きした結果が次のグラフになります。

スライド28

選択肢で回答を募集しました。

これも驚きで、一切使っていない人はわずか8.1%に過ぎず、最も多いグループが2万円から3万円で21.9%、次いで1万円から2万円が19.7%、そして5万円が18.7%という結果となりました。

比較として、株式会社三菱総合研究所が出したスマホゲームの動向に関する調査によると、ゲームにお金を払ったことはないと回答した人が71.1%に上ることを考えると極めて高い数値であると言えます。

Boothでの販売経験 回答数=564

では実際にBoothで販売する人はどれくらいいるのでしょうか?

Boothでの販売経験に関してのグラフがいかになります。

アバター出店経験

選択肢で回答を募集しました。

これを見ると、出した事がない人が84.8%と大変であることが分かります。ただ一方で10万や100万円以上売り上げている方も存在しているようです。

以上のことから、VRCではBoothを中心としたアバター経済圏が存在し、VRCユーザーにも購買を行ったり改造をする文化が根付いていると言えます。

ハードメーカーとVRC

次はPCやVRなどのハードメーカーに関してです!VRCはプレイに耐えうるパソコンの要求スペックが高く、比較的値段の高いパソコンやVR機器を必要とします。

ここからはVRCユーザーがどういったPCまたはVR機器を使っているのかについてグラフをもとに紹介していきます。

現在のプレイ環境 回答数=572

まず最初に、VRCユーザーがどのような環境でVRCをプレイしているかについてです。

プレイ環境

選択肢+その他で回答を募集しました。

これを見ると、なんと56.1%がPCとVRHMDだけでなく、モーショントラッカー等を用いてプレイしていることがわかります。

一般的にイメージされるVRHMDのみのプレイでなく、より高度な没入感を求めて機材を買っているようです。

モーショントラッカー・・・HMDとコントローラーのほかに体の部位や物体の位置と回転情報をVRHMDやPCと共有して、VR内に反映させることができる装置。VRCでは足や腰の同期に使われることが多い。

PCやVRなどのハードウェアや有料ソフトウェアへの出費 回答数=570

さて、これほどの充実した環境をそろえるにはかなりの金額が必要であるが、それを表しているのが次のグラフである。

スライド33

選択肢で回答を募集しました。

これを見ると30万円以上消費している層が合計で48.7%以上と高い水準を示しています。

もちろん前述の使用環境を考えれば30万円までは発生するためでもありますが、それ以上の出費に関しては2台以上のVRHMDを所持している人が多いのが要因である可能性が高いかとおもわれます。

次の所持VRHMDに関するグラフの回答数が540件なのに対して、回答されたVRHMDの数が814個と一人当たり1.58個という数字がそれを証明しています。

所持しているVRHMD 回答数=540

では、どういったVRHMDを所持しているのかを見てみたいと思います!

所持VRHMD

複数回答可能な選択肢+その他で回答を募集しました。

この中で特筆すべきはHTC ViveOculus Quest、そして発売されたばかりであるはずのValve Indexです。

まずHTC VIveですが、これはやはり前述のモーショントラッカーが大きく影響していると言えるでしょう。

HTC社はViveトラッカーというモーショントラッカーを民間向けにリリースしています。

これを公式でサポートしているのはHTC社の販売しているベースステーションだった時期が長かったために、HTC Viveを選択した人が多いのではないかと思われます。

Oculus Questに関しては5万円を切る価格で販売されている上、単体でも最低限のVRC体験ができること、そして有線または非公式ではあるものの無線でPC版のVRCをプレイすることができる点が評価されていると思われます。また、インタビューやTwitterでも聞かれたのですが、予備機として持っておきたいという方が一定数居るようです。

そして個人的に最も驚きだったのが2019年6月に数か国で販売が開始され、10月に国内販売が開始されたValve Indexが3位ということでした。

こちらのValve Indexはフルセットで税抜125800円と安価はありません。それにも関わらず支持されているのは、他のVRHMDに付属するコントローラーと違い、5本指全てを独立して動かせるコントローラーが評価されたからではないかと思われます。

VRCを始める前の環境について 回答数=574

では、VRCユーザーの方々は最初からこういった環境を保有していたのでしょうか?以下はVRCプレイ前の環境について回答していただいたグラフになります。

VRC前

選択肢+その他で回答を募集しました。

このように、両方保有していなかった人が37.1%と最多であり、最初から両方保有していた人は23.6%に留まるようです。

このように、VRCユーザーはVRCに関連するものに対して高い購買力を保持していることが分かります。

VRやPC、ドローンといったガジェットなどの購入頻度 回答数=568

では、VRCユーザーは普段からVRやPC、ドローンといったガジェットなどを購入する層なのでしょうか?

スライド36

選択肢で回答を募集しました。

実際にグラフを見てみると、滅多に購入しない層が55.5%を占め、半年に一度購入する層が24.5%とむしろ購買傾向がないことが分かりました。つまり、イノベーター気質だからVRCに消費しているというよりは、VRC単体のために消費しているようです。

まとめ

以上が、VRCの経済圏に関する調査になります。

アバターなどの3Dモデルやハードへの高い購買力や、それを使う文化がしっかりとVRCに根付いていることがわかりました。

上記のように、ソフト・ハードともに経済圏が存在し、VRCそのものの価値を高めていることは間違いないと言えるでしょう。

上記調査を簡単にまとめます。

バーチャルマーケット前は販売アバターは19.5%に過ぎず、使用に問題のあるアバターの利用が横行していたが、開催後は販売アバターが47.7%まで増加し、使用に問題のあるアバターの利用が減少。
現在ではアバターを購買するだけでなく、それを改造する人が60%存在し、自作する人も22.5%存在している。
VRCのユーザーは95.6%が何かしらの改造または自作を行っている。
91.8%はBooth等で何かしら購入しており、最も多いグループは2万円から3万円使用していることが判明。一方でBoothでの販売経験のあるものは15.2%に留まった。
VRCユーザーの多くは高度なVR環境におり、56.1%はPCとVRに加えてモーショントラッカーを使用している。
ユーザーの48.7%が30万円以上消費している。
HTC Vive、Oculus Quest、Valve Indexの順で使用されており、安さの他にVR空間への没入感が重要視されている。
VRCを始める前に十分な環境を保有していた人は23.6%に留まり、VRCを始めてから揃えたことが分かり、VRCユーザーは高い購買力を有していることがわかる。
一方で普段からこういったガジェットを買うわけではなく、イノベーター気質の人間が多いわけではなく、純粋にVRCのために消費を行っている。

以上が、経済圏に関するまとめになります。ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

次回はいよいよこの調査によって見えてきたVRCの全体像と特徴に関する最終章になります!


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