【ゲーム感想】『ゼルダの伝説』(初代)のファンがティアキンをやってみたら宿敵と再会した話


 最近、ネット上で「一生遊べる」と話題になっているゲームがある。『ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム』。このゲームをやったことがないという人も、執拗にいじめられている森の妖精や、近代兵器で殲滅される魔物たちの姿を、Twitterなどで見かけたことがあるのではないだろうか。
『ティアーズ オブ ザ キングダム』(略してティアキン)はあまりにも自由度が高く、いくらでも工夫して遊べるため、死ぬまでかかっても味わいつくせるか分からない。私も発売直後にティアキンを買い、のんびりとプレイしている者の1人なのだが、はたして何年をこのハイラルの地で過ごすことになるか見当もつかない。
 
 私がプレイしたことがあるゼルダシリーズは、初代『ゼルダの伝説』と、前作『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』(略してブレワイ)だけである。以前、初代ゼルダのファンから見たブレワイの感想を文章にしたことがあるが、今回も初代ファンから見たティアキンの感想を書いていこうと思う。
 
※前回の感想はこちら

◆オープンワールド――心の赴くままに、どこまでも行ける
 ティアキンは前作ブレワイと同様、いわゆるオープンワールドのゲームだ。やろうと思えばチュートリアル終了直後にラストダンジョンに突っこむことも可能だし、ストーリーを一切進めることなく世界を端から端まで旅行することもできる。
 しかしこの自由なシステムは、実は初代『ゼルダの伝説』の時点で萌芽が見られる。初代ゼルダは1986年に発売されたゲームであり、私は幼少期、我が家にあったファミコンでプレイした。当時からすでに、ゲーム開始直後に世界の果てを見に行くことができたし、ダンジョンの攻略順序も自由だった。
 初代ゼルダのファンである私は、ブレワイやティアキンをプレイするたびに、腕組みしながら「まあ、俺は初代ゼルダの頃から自由度の高さはよく知ってるけどね」と気持ち悪い笑みを浮かべるのだ。
 
 ティアキンでは、ブレワイで自由に探索できた地上の他に、「洞窟」と「空」と「地底」のマップが追加され、世界はさらに広大になった。隅々まで足を運ぼうと思ったら何百時間かかるのだろうか。ティアキンは、知らない場所を「散歩」しているだけで何年も遊べるのである。
 
 
◆やりたい放題できる戦闘――戦術の幅が広いため、ゲームが下手でもなんとかなる
 ティアキンでは、戦闘で使えるアイテムがブレワイと比べて大幅に増えた。たとえばそこらへんに生えている「実」やら「花」やらを採取して矢につけることで、敵を凍らせたり、痺れさせたり、燃やしたり、爆殺したりできるのだ。強敵と出会ったときには、煙幕をはって背後から奇襲する、混乱させて同士討ちを誘う、エトセトラ、エトセトラ。さらに、とあるアイテムを使うと矢が勝手に敵に向かってくれるため、弓矢の扱いがへたくそな人でも簡単に凄腕スナイパーになれる。
 
 私は3Dのゲーム経験が浅く、複雑なボタン操作が苦手だ。それでも、便利アイテムをたくさん集めておくことで、多くの戦闘を楽に突破することができた(混乱して同士討ちをする魔物たちを安全圏から眺めるのはとても楽しかったが、絵面がひどい。完全に悪役の戦法である)。
 
 
◆懐かしの強敵――グリオーク
 前作(ブレワイ)でも、モリブリンやオクタロック、キース、ライネルといった初代ゼルダからの敵が登場していた。今回追加された敵の中ではギブドやライクライク、ゴーマなどが該当するわけだが……やはり最も印象深いのはグリオークであろう。
 グリオーク――それは多頭の竜であり、幼少期の私をボコボコにし続けた恐るべき魔物である。初代ゼルダではブーメランも矢も効かず、ひたすら剣で攻撃する他なかった上に、切断した頭は宙を舞って襲ってきた。体力は高いし、おまけにビームまで吐く。
 
 子どもだった私は何度も何度もグリオークに挑み、そのたびに返り討ちにあった。初代ゼルダをプレイしなくなってもう20年以上経ったが、奴のことは時々思い出し、「大人になった今ならば勝てるだろうか」などと考えたものだ。
 
 そんなある日、私はティアキン発売前のプロモーション動画を見ていて……三つ首の巨竜の姿を見つけた。瞬間、私の心は躍った。
 間違いない、奴だ。グリオークだ。
 かつて私を何度も跳ね返した最強の魔物。ラスボスよりも私を苦しめた宿敵。20年以上経って、ティアキンにてリベンジの機会が巡ってきたわけである。
 
 チュートリアルを済ましたあと、ある程度の武器やアイテムを集めた私は、さっそくグリオーク討伐に向かった。初代ゼルダでもリンクの何倍もの巨躯を誇った魔物であるが、ティアキンではさらに大きくなっていた。おまけに空も飛ぶし、炎やらなんやらで遠くから攻撃してくる。そして恐ろしくタフだ(おそらく、グリオークが1体通りかかっただけで普通の集落は壊滅するだろう。こんな化け物が普通に飛び回っている地獄のようなハイラルで、人類は歯を食いしばって生活している。なんとたくましいことか)。
 早い話、グリオークはとんでもなく強化されて再登場したわけである。が、驚きはなかった。幼少期の私をあれほど苦しめた相手が、雑魚敵に毛が生えた程度のものであるはずがない。相手にとって不足なし。
 
 私は、勢い込んでグリオークに挑んだ。そして、強くなった宿敵に2回連続で殺された。二十数年前の個人的復讐に目がくらんだ結果、ハイラルに平和をもたらす前に丸焼きにされたわけである。
 しかし、幸いにしてこれはゲームである。人生と違って死亡しても再チャレンジができる。へこたれずに立ち上がった私は、アイテムの使用法を工夫することで、3回目にはこの三つ首巨竜を討伐することに成功した。
 その際、活躍してくれたのは後述の「ゾナウギア」である。
 
 
◆ウルトラハンド――時間が際限なく消えていく
 ティアキンを語る上で欠かせない要素に、「ウルトラハンド」がある。この「ウルトラハンド」の存在こそが、ティアキンが「一生遊べる」ゲームであると言われる所以であり、多くのプレイヤーがハイラルから帰還できなくなっている原因なのである。
 
 ティアキンには、大昔に滅んだ「ゾナウ文明」が遺したオーパーツ的なアイテム「ゾナウギア」が多数登場する。タイヤや気球、バネといった単純なものから、ロケットやレーザー砲などの未来兵器まで。リンクが今作で獲得した「ウルトラハンド」という特殊能力は、そうしたゾナウギアを自由に合体させることができるものだ。
 そう、文字通り「自由に」合体させられる。タイヤにレーザー砲をつけて回転する凶悪兵器を作ることもできるし、火炎放射器を束ねて汚物を消毒することもできる。乗り物だって、普通の自動車からマッドマックス世界の暴力マシーンまで好きに作り出せる。
 
 Twitterなどにあふれかえっている謎のロボットや殺戮兵器の画像や動画は、多くはプレイヤーが自分で作ったオリジナル作品だ。こうしたマシーンの制作だけで何時間でも遊べる。一応、ティアキンというゲームの目的はハイラルの地に平和をもたらすことなのだが……それを放り出してロボ作りに没頭する者が続出している。
 自分の手で作り出した破壊兵器で、悪しき魔物どもを蹂躙する――やはり主人公というより悪役の娯楽である。
 
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 発売から2か月弱――ゲーマーたちは今日もハイラルの空と大地と地の底で、せっせと材料を集め、ロボを作り、魔物を殺戮している。私もその一人として、のんびりとロボ作りに励もうと思う。はたしてあと何年遊ぶことになるだろうか。二十数年後に、新たなグリオークとの戦いに挑む際、私はティアキンの思い出をどのように語ることになるだろうか。今から楽しみで仕方がない。