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「先生は……私にとって理想の人間なのです。誰にだって優しい、太陽のような、いいえ、よしましょう。人が人を称賛するのにこの言葉はあまりに陳腐だから。先生のその、誰にだって同じ顔で接してくれる平等さが、かえって私を平安な心地を与えてくださるのです。先生は私が目を見つめても私の目を見つめ返してくれる方でしょう?」
 こうした文句を言われたとき、果たして教師は生徒に、大人は子供にいかなる答えるのがいいのだろうか。この時点で渡辺は、あることを見抜いていた。
「別にあなたにそう言われても嬉しくないけれどね」
 と嘯いた。
「どこから話したものでしょうか」
 と、桜井は咽喉を締めつけながら喋った。渡辺は片方の肘だけを長机にのせて、唇を結んだまま桜井を眺めていた。こうして桜井が彼女を頼ることは、彼女に誇りを与えた。彼女はただ黙っていた。桜井は渡辺が何か、何でもよかった、話すのを待っていたが、とうとう彼女にその気のないことを悟ると、観念して話し出した。それはとめどがなかった。渡辺は結んだ唇を保った相槌しいしい、彼の独白に聞き入っていった。

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