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私の戦い方 vol.10 福間香奈女流五冠「好きな道なら楽しく歩け」

はしがき

トップ棋士に現在の将棋界とその中での戦い方を語ってもらう「私の戦い方」。節目の第10回には長きにわたって女流棋界のトップを走り続けている福間香奈女流五冠に登場していただいた。  
多くのタイトルを獲得しても生活が大きく変わろうともブレることがない、福間の将棋への姿勢がそこにあった。  


今回の主役、福間香奈女流五冠 【写真】大成建設杯第6期清麗戦第1局【撮影】常盤秀樹


初代クイーン清麗に輝く

―本日はよろしくお願いいたします。  
  
「よろしくお願いします」  
  
―いきなり将棋と関係なくて恐縮ですが、出身校である大社高校が甲子園でベスト8に進出して話題になりました。福間女流五冠もXで発信されていましたね。

「勉強もしっかりやる学校で、野球部もそれほど強いわけではなかったので甲子園にいったことにまず驚きました。まさかあんな快進撃をするとは思いませんでした」  
  
―テレビで観戦していましたか?  
  
「妊娠で外に出られない時期だったのでほとんど全部観ていました。特に早稲田実業との一戦は大逆転で感動しました」  
  
―高校生の頃はどんな生活をしていましたか?  
  
「授業以外に全員が受けなければいけない補習も結構あったので、将棋との両立が大変でした。夏休みにも補習があって、終わったあとに野球部の試合を観にいった記憶があります」  
  
―ありがとうございます。では将棋のお話を。まずは最近の女流棋界についてということで、先日終了した清麗戦を振り返っていただけますでしょうか。  
  
「全局、私が中飛車で加藤さん(桃子女流四段)が居飛車という戦型になりました。前に指した将棋をベースにして、そこから工夫することが多かったと思います。加藤さんは序盤の研究が深いですし、中盤で過激な手を指してそのまま押しきるというパターンを得意とされているので、そうならないようじっくり指すことを心がけていました」  


今期清麗戦は序盤研究に定評のある加藤桃子女流四段と。
序盤戦の細かい工夫が随所に現れるシリーズだった(撮影:常盤秀樹)


―「前に指した将棋をベースに」ということですが、実戦の局面を使って解説していただけますでしょうか。  

「第1図は第1局の序盤で、私が▲2六歩として銀冠を目指した場面です。この対局の2ヵ月前にあった女流王位戦の第3局と同一局面で、そのときは第1図から△3三角▲2七銀△2二玉▲3八金△3二銀と囲い合いになりました。  
本局では第1図から△4五歩と指されました。これが加藤さんの工夫だったと思います。対して▲2七銀なら△4二銀▲3八金△3三銀▲3六歩△4四銀と進んで後手の陣形が手厚く、手が出しづらくなると思いました。そこで本譜は△4五歩に▲5九飛と引いて△4二銀に▲5八金左(第2図)と進めました。▲2六歩との関連性がないので違和感がありますが、低い陣形にとどめておいて、▲6八角~▲7九飛~▲7五歩と動いていく順を見せています。実戦は第2図から△7三桂▲6八角△6五桂▲7七桂と進行しました。これで有利というわけではないのですが、相手が万全の形になる前に局面をほぐすことはできました」  


(第1図は▲2六歩まで)


(第2図は▲5八金左まで)


―加藤女流四段の工夫に福間女流五冠が臨機応変に対応したのですね。  
  
「清麗戦の第3局も同じように進行して、第2図から△7二飛と加藤さんがまた工夫されました」  

―まさに前に指した将棋がベースになっています。この将棋もそうですが、福間女流五冠は中飛車で持久戦模様になったときに銀冠を目指されています。木村美濃にする方も多いと思うのですが。  
  
「そうですね。木村美濃を目指して▲4六歩を突くと将来△2四角からその歩を目標にされることがあります。▲4六歩のほうが主流ではあると思いますが、自分のオリジナリティも出していけたらなという思いもあります」  
  
―銀冠にする積極的メリットは何でしょうか?  
  
「美濃囲いよりも堅いので攻め込まれても反撃の余地があるのがいいところです。また、持久戦になったときに手待ちしやすい、ということもあります。一方で、玉形が偏るのでバランスを取るのが難しいというデメリットもあります」  
  
―後手のゴキゲン中飛車も棋士の間ではあまり採用されていません。福間女流五冠はよく指されていますが、まだ戦えるという印象でしょうか?  
  
「後手番の振り飛車は全体的に苦しいところはあります。ただ中飛車は経験値で戦える部分もありますし、戦法としてもまだ可能性があるんじゃないかと思って指しています。個人的には定跡を突き詰めていく方向性ではなく、中飛車を一つの含みにして相手の形を見て自在に戦い方を変えるような柔軟な指し方ができれば理想的なのかなと思っています」  
  
―今回の防衛によって通算5期獲得となり、初代クイーン清麗の称号を手にされました。  
  
「清麗戦を創設していただいてからまだそれほど年数がたっていない中でクイーンの称号を獲得することができたのは光栄です。今回の番勝負は体調面での不安もありましたが、主催の大成建設様はじめ関係者の方にお気遣いいただいて、運営の皆様のありがたみを強く感じたシリーズでもありました。個人的には『清麗』という言葉の響きが好きなので、永世称号が取れたことはうれしかったです」
  

得意戦法の中飛車を武器に、挑戦者を退けた福間女流五冠(写真提供:日本将棋連盟)


中飛車で我が道をゆく


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