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「観る将」が観た第50期棋王戦五番勝負第二局
2月22日、第50期棋王戦コナミグループ杯五番勝負第二局が石川県金沢市の北國新聞会館で行われました。先勝した藤井聡太棋王が防衛にあと1勝と迫るのか、増田康宏八段がタイスコアに戻すのか、注目の一局となりました。
前夜祭で、藤井棋王は被災地を気遣う言葉を述べた上で、「そういった中で棋王戦金沢対局を開催していただき、石川県の多くの方に期待していただいていると感じていますので、それに応えられるよう精一杯明日の対局を頑張りたいと思います」と挨拶しました。増田八段もお見舞いの言葉を述べ、「私としては明日良い内容の将棋を指して、是非石川県の皆様にそういった将棋をお届けできればいいなと思っております」と話しています。
藤井棋王が雁木を選択
落ち着いた雰囲気の対局室に増田八段が濃紺の着物と濃灰色の袴に淡い藤色の羽織で入室すると、藤井棋王は藤色の着物と細い縦縞の袴に紺色の羽織で入室します。先手の増田八段が飛先の歩を伸ばすのを保留したまま、角を7筋に上がって後手からの飛車先の歩交換を防ぐと、藤井棋王は角道を止めて雁木に組みます。
慎重な駒組み
前例の少ない将棋となり、お互いに少しずつ時間を使い、増田八段は飛先の歩を伸ばし、藤井棋王が9筋の位を取ると、5筋の歩をぶつけます。藤井棋王は桂を7筋に跳ね、増田八段が次の33手目を考慮中に昼休となりました。各4時間の持ち時間の内、残り時間は藤井棋王が2時間47分、増田八段が2時間31分となっています。
増田八段の意表を突く手順
増田八段は昼休を挟む33分の熟考で5筋の歩を取り込み、藤井棋王が銀で取ると、2筋の歩を突き捨ててから6筋の歩を突いて自ら角の利きを止めます。意外な手順に藤井棋王は22分考えて角を4筋に引き、増田八段が6筋の銀を立って雁木に構えると、じっと6筋の歩を突きます。増田八段は7筋の歩もぶつけ、藤井棋王が飛車を浮いて桂頭を守ると、5筋の銀頭を歩で叩きます。
小技の応酬
この歩を取ると銀を捕獲される筋があるので藤井棋王が銀を4筋に引くと、増田八段は7筋の歩を取り込んで飛車で取らせてから4筋の歩をぶつけます。藤井棋王は29分の熟考で同歩と応じ、増田八段が右銀を5筋に上がって位を支えると、4筋の歩を伸ばします。増田八段は飛車を4筋に回し、藤井棋王が7筋の角頭に歩を打つと、角を6筋に引いてかわします。藤井棋王が6筋の歩をぶつけると、増田八段は4筋の飛車を走って歩を取ります。
自陣の隙を消す藤井棋王
21分の考慮で残り50分を切った藤井棋王はじっと4筋に歩を打って飛車の直射を緩和し、増田八段が6筋の歩を取り込むと、9筋の歩を突き捨ててから歩を垂らします。増田八段が2筋の桂頭を叩いて金で取らせてから角を5筋に上がると、藤井棋王は玉を4筋に寄って角交換後に角を打ち込まれる隙を消しします。
先手陣の急所を突く金頭の歩
増田八段も残り1時間を切り、4筋に歩を合わせて吊り上げてから飛車を下段に引き、藤井棋王が3筋に桂を跳ねて浮き駒となっている2筋の金を守ると、3筋の歩を突き捨ててから7筋の飛頭に歩を打ちます。藤井棋王は角で取って角交換し、増田八段が5筋の歩を伸ばすと、5筋の金頭を歩で叩きます。ずっとほぼ互角の範囲で揺れていたAIの評価値は、藤井棋王の63%とわずかに傾きます。
増田八段の飛馬両取り
増田八段は同金と応じ、藤井棋王が桂を6筋に跳ねて金に当てると、銀で桂を食いちぎります。藤井棋王は飛銀両取りに角を打ち込み、増田八段が飛車を1つ浮いてかわすと、角で銀を取って馬を作ります。増田八段は3筋の桂頭を歩で叩いて銀で取らせてから4筋に桂を打って金に当て、藤井棋王が金を4筋に寄ってかわすと、6筋の銀を立って飛馬両取りを掛けます。
飛車を見捨てて自陣を補強
素人目には厳しい一手に見えましたが、藤井棋王は平然と馬で自陣に迫る歩を取り、増田八段が銀で飛車を取ると、馬で4筋の桂を取って自陣を固めます。増田八段は取った飛車を王手で打ち込み、藤井棋王が5筋に底歩を打って逃れると、6筋に角を打って馬に当てます。藤井棋王は5筋に銀を打って角に当て返し、増田八段が角銀交換に応じてから飛車で銀を取って竜を作ると、4筋に角を打って竜に当てつつ馬と連動して先手陣を睨みます。
増田八段の勝負手
増田八段は竜を一段目に戻し、藤井棋王が王手で7筋に桂を打ち込むと、玉を立ってかわします。藤井棋王は桂で8筋の桂を取り、増田八段が持ち駒の銀を馬取りに打つと、馬で3筋の桂を取って飛車に当て返します。増田八段は飛車を5筋に寄ってかわし、藤井棋王が6筋の銀頭を叩くと、5筋の金を寄って馬に当てつつ、自陣の飛車の利きを後手陣に通す勝負手を放ちます。
秒読みに追われる中での大熱戦
うっかり馬で金を取ると先手の飛車が後手陣に飛び込んで大逆転となるところでしたが、藤井棋王は残り2分となり、馬を7筋に引いてかわしつつ自陣の底歩に紐を付けて逃れます。増田八段は2筋の金頭を歩で叩き、藤井棋王が金を1筋に寄ってかわすと、残り2分まで考えて竜で銀頭に打たれた歩を取ります。藤井棋王は4筋の歩を伸ばし、増田八段が金を引いてかわすと、5筋に桂を打って竜に当てます。AIの評価値は藤井棋王の56%と接近し、双方とも秒読みに追われる中での大熱戦となってきました。
増田八段が竜を切っての追撃
増田八段は竜を5筋にかわしつつ角に当て、藤井棋王が3筋の銀を引いて角を支えつつ竜に当て返すと、竜を角と刺し違えてから、歩で叩いて吊り上げた4筋の金に当てて角を打ち込みます。藤井棋王は桂を打って金を守り、増田八段が5筋に銀を打って金に当てると、金を引いてかわします。AIの評価値は藤井棋王の74%と大きく傾いています。
増田八段の馬金両取り
歩切れの増田八段は9筋の香で歩を取って補充し、藤井棋王が1筋の金で2筋の垂れ歩を取ると、4筋の金頭に歩を打ち込みます。藤井棋王が金を5筋に寄ってかわすと、増田八段は銀で5筋の桂を食いちぎり、取った桂を馬金両取りに打ちます。藤井棋王が玉を3筋に寄って角を捕獲すると、増田八段は4筋に"と金"を作って王手します。
藤井棋王の攻防の角
藤井棋王は玉で角を取って"と金"から離れ、増田八段が桂で馬を取ると、4筋に攻防の角を放って反撃に転じます。ついに1分将棋に突入した増田八段が6筋に角を合わせると、藤井棋王は7筋に王手で銀を打ち込んで金と交換します。先手陣は受けが難しく、攻め駒が不足して勝ち目がないと見た増田八段は、この局面で潔く投了を告げました。
まとめ
本局は増田八段が意表を突く手順で力勝負に持ち込み、双方とも小刻みに時間を使う難しい中盤戦が続きました。藤井棋王は先手陣の急所を突く叩きの歩を入れて抜け出したかと思われましたが、増田八段は飛馬両取りから飛車を取り、金を寄って馬に当てつつ自陣の飛車の利きを通す勝負手を放ち、残り時間が切迫する中でどちらが勝つのかわからない大熱戦となりました。藤井棋王は馬を取らせる代わりに自陣に打ち込まれた角を捕獲して先手の攻めを凌ぎ切り、140手に及ぶ激闘を制しました。
防衛まであと1勝となった藤井棋王は、次局に向け「スコアは意識せずに、また精一杯頑張ります」といつも通り淡々と話しました。「長手数だったと思いますし、勝負所もあったと思うのですけれど、勝てなかったところはまだまだ力不足かなと感じました」と、悔しさをにじませた増田八段は、「次はすぐ一週間後にあると思うので、後手番ですけれどまた何か作戦を用意して臨みたいなと思っています」と話しており、次局も熱戦になることを期待したいと思います。
棋王戦コナミグループ杯は、共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟が主催しています。
本稿は「棋王戦の棋譜利用ガイドライン」(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#kiou) に従い、インターネットでの棋譜の利用はすべて「営利を目的とする」ものとみなす(有償)と通知がありましたので、棋譜の利用は断念しています。