第81期順位戦B級1組の展望
順位戦のB級1組は、13人が総当たりで全12局を戦う、順位戦の中でも最も対局数の多いリーグ戦です。A級から陥落して復帰を目指す実力者や、B級2組から昇級して更に上を目指す伸び盛りの若手らが鎬を削り、上位2人の昇級と下位3人の降級を巡る熾烈な戦いは「鬼のすみか」とも形容されています。前期は10勝2敗の藤井竜王と9勝3敗の稲葉八段が昇級しています。また3勝9敗の3人が降級しています。
今期の注目棋士をリストアップしておきたいと思います。
羽生善治九段
1985年プロ入りの51歳。タイトル獲得通算99期で、永世七冠の資格保持者。
名人またはA級に29期連続で在籍していましたが、昨年度はプロ入り後初めて年間成績が負け越しとなり、順位戦でも初めての陥落を喫しました。羽生九段が大不振を脱してA級復帰を果たせるのか、全将棋ファンの注目するところだと思います。今期王位リーグでは挑戦権獲得こそ逃しましたが、2連敗後の3連勝で30年連続陥落なしの大記録を継続し、復調の兆しも感じられるので期待したいと思います。
千田翔太七段
2013年プロ入りの28歳。タイトル挑戦1回。
将棋ソフトを使った序盤研究の先駆者であり、昨年度の将棋大賞では自身2度目の升田幸三賞を受賞しています。奨励会時代の藤井三段に将棋ソフトの利用を勧めたことでも知られ、朝日杯では七段時代の藤井竜王の3連覇を阻んで優勝した経験があります。前期は藤井竜王を破って9勝3敗の好成績を残しましたが順位の差で惜しくも昇級を逃しており、今期こそは自身初のA級昇級を目指します。
佐々木勇気七段
2010年プロ入りの27歳。
16歳1か月でのプロ入りは中学生棋士5人に続く6番目の年少記録であり、そろそろタイトル獲得が期待される俊英です。プロ入り直後の藤井竜王の30連勝を阻止したことで知られ、横歩取り勇気流で升田幸三賞を受賞したように序盤研究の深さにも定評があります。前期は7連勝で昇級争いをリードしましたが終盤5連敗で失速しており、今期こその想いは強いはずです。
近藤誠也七段
2015年プロ入りの25歳。
順位戦に強く、当時順位戦では18戦無敗だった藤井七段に初めての黒星を付け(藤井竜王はその後も順位戦で22連勝し、41局中唯一負けた相手が近藤七段でした!)、自らも順位戦に参戦して4期でB級1組に駆け上がりました。前期は5勝7敗と初めて負け越しとなりましたが、3期目となる今期はB級1組の壁を乗り越えたいところです。
澤田真吾七段
2009年プロ入りの30歳。
B級2組では毎年昇級候補に挙げられながら、7期目となる前期に9勝1敗の好成績でついにB級1組への昇級を果たしました。今期の王位リーグでは最終局まで白組の優勝争いをリードするなど、連続昇級してA級に参戦する実力は充分に備えていると思います。
中村太地七段
2006年プロ入りの33歳。タイトル獲得1期(王座)。
2011年度には、史上2位となる勝率0.851を記録しています。前期はB級2組で開幕8連勝し、タイトル経験のある実力者がようやくB級1組への昇級を決めています。Youtubeなどによる普及活動も好評の人気棋士であり、連続昇級が期待されます。
今期のB級1組は、上記にリストアップした飛躍が期待される30歳前後の中堅棋士と、羽生九段、郷田九段、丸山九段、屋敷九段、三浦九段、久保九段ら、立ちはだかる50歳前後のベテラン棋士との対決という見方もできるかと思います。誰がこの厚い壁を突き破り、A級昇級を掴み取るのか楽しみにしたいと思います。