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「観る将」が観た第36期竜王戦 5組ランキング戦決勝

5月16日に竜王戦の5組ランキング戦決勝が行われました。飛躍が期待される若手棋士の中でも特に注目している服部慎一郎六段と伊藤匠六段の顔合わせとなりました。両者とも既に竜王戦4組への昇級を決め、2期連続昇級の規定をクリアして六段への昇段を果たしています。服部六段は村田(智)七段、竹内五段、矢倉七段、杉本(和)五段に勝って決勝に進出しています。伊藤六段は瀬川六段、石田五段、井上九段、藤森五段を破って決勝に駒を進めています。


両者のプロフィール

今更ご紹介する必要はないかもしれませんが、両者ともいつタイトル戦に登場してもおかしくない実績を積み上げています。各棋戦で勝ちまくっている両者ですが、不思議なことに公式戦での対局は本局が初めてのようです。

服部慎一郎六段
2020年4月プロ入りの23歳。第11期加古川青流戦優勝、第53期新人王戦優勝。
第50回将棋大賞新人賞、最多対局賞獲得。
第7期叡王戦では豊島九段らを破って挑戦者決定戦に進出。第72期王将戦では王将リーグ入りを果たし、渡辺名人と永瀬王座から白星を挙げる活躍。第64期王位戦では予選トーナメントで3人のA級在籍棋士を破って王位リーグ入り。順位戦は2期連続で惜しくも昇級を逃し、3期目で昇級を果たして今年度はC級1組。

伊藤匠六段
2020年10月プロ入りの20歳(藤井竜王と同学年)。第52期新人王戦優勝。
第49回将棋大賞新人賞、勝率一位賞獲得。
第35期竜王戦で6組優勝し、決勝トーナメントでも2勝して3回戦に進出。第63期王位戦では王位リーグ入りを果たし、永瀬王座らを破り最終局まで優勝の可能性を残したが、豊島九段に敗れて陥落。第48期棋王戦ではベスト4に進出。順位戦はC級2組を1期抜けし、C級1組も1期抜け目前となった最終局に敗れて惜しくも残留。

戦型は相掛かり

振り駒で先手となった伊藤六段が相掛かりに誘導すると、服部六段は先に飛先の歩を交換し、7筋の横歩も取ります。伊藤六段が角を6筋に上げて後手の飛車の可動域を狭めると、服部六段は飛車を8筋に戻してから三段目に引く工夫を見せます。伊藤六段は飛車先の歩を交換して五段目に引き、9筋の歩を突き捨てます。

伊藤六段の仕掛け

伊藤六段が9筋に歩を垂らすと、服部六段は銀を8筋の飛車の前に繰り出して受けます。伊藤六段が香を走ると、服部六段は7筋の歩を突いて先手の飛車と角の利きを止めます。伊藤六段は垂れ歩を成りますが、服部六段は構わず7筋の歩を伸ばして桂に当てます。次の41手目を伊藤六段が考慮中に昼休となり、AIの評価値は伊藤六段の63%と早くもわずかに傾いています。各5時間の持ち時間の内、残り時間は服部六段が4時間1分、伊藤六段が4時間0分となっています。

飛角交換

伊藤六段が昼休を挟む94分の長考で桂を8筋に跳ねてかわすと、服部六段は36分の熟考で銀で取ります。伊藤六段が9筋に香を成り、桂で取らせてから▲9三同角成と飛び込むと、服部六段は飛車を馬と刺し違えてから△6五桂と打ち、銀取りを防ぎつつ7筋への攻め駒を足します。伊藤六段が銀取りに▲8一飛と打ち込むと、服部六段は55分の長考で△7七歩成と踏み込みます。

飛頭に歩突き!

伊藤六段が金で"と金"を取ると、服部六段は角道を開けて7筋に利かせます。伊藤六段が金を6筋に上がってかわすと、服部六段は力強く△2四歩と先手の飛頭に歩を突き出します。取ると5筋に桂が飛び込んで間接王手飛車の筋があるので、伊藤六段は37分の熟考で飛車を見捨てて▲7三桂と攻め合います。

"と金"攻め

服部六段は王手桂取りに△9五角と打って自玉に迫る桂を取りますが、伊藤六段は午前中に作った"と金"を8筋に寄せて角を攻めます。お互いに飛車と角を取り合い、服部六段が7筋に香を打って飛車の横利きを緩和すると、伊藤六段は右桂を4筋に跳ねて後手の玉頭を押さえます。次の64手目を服部六段が考慮中に夕休となり、AIの評価値は伊藤六段の80%と大きく傾いています。各5時間の持ち時間の内、残り時間は服部六段が1時間32分、伊藤六段が1時間21分となっています。

竜の横利き

服部六段が夕休を挟む37分の熟考で玉を4筋に上がって桂成を防ぐと、伊藤六段は飛車を成って王手します。服部六段は7筋に歩を打って竜の横利きを止めますが、伊藤六段は"と金"を6筋に寄せて包囲網を狭めます。服部六段が金を2筋に上がって玉の退路を作ると、伊藤六段は更に"と金"を5筋に寄せて玉を追い、竜を三段目に引いて援軍を送ります。

竜切りの寄せ

服部六段が更に7筋に桂を打って竜の横利きを止めると、伊藤六段は残り1時間を切り、▲6五金と桂を食いちぎってから竜を四段目に引きます。服部六段は△7四金と打って徹底的に竜の横利きを遮断しますが、伊藤六段は竜で金を食いちぎり、"と金"を4筋に捨てて寄せに入ります。服部六段は玉を中段に逃がして粘りますが、伊藤六段が着実に寄せ切りました。

まとめ

本局は伊藤六段が中段飛車に構えた飛車の利きを活かし、9筋を突破して飛角交換を果たしました。服部六段も7筋から反発して激しい戦いとなりましたが、伊藤六段が後手陣に打ち込んだ飛車が竜となり、後手玉を睨んで威力を発揮しました。服部六段は4度に渡って横利きを止めて抵抗しましたが、最後は伊藤六段が竜を切って鮮やかに寄せ切りました。
2期連続のランキング戦優勝と決勝トーナメント進出を決めた伊藤六段は、終局直後のインタビューで「強敵ばかりだと思うので、一局一局良い将棋が指せるように頑張りたいと思います」と意気込みを述べました。前期は3回戦で敗れましたが今期はそれ以上に勝ち上がり、竜王戦ドリームを実現して欲しいと期待しています。

竜王戦は読売新聞社が主催しています。
本稿は竜王戦・棋譜等利用ガイドライン(https://www.shogi.or.jp/kifuguideline/terms.html#ryuuou)に従っています。

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