N a g r y a i企画書
キャッチコピー
閉じ込めた感情解除のパスワード=nagryai
あらすじ
破天荒な元ボクサーのジョージとホームレスの父を殺した冤罪で収監された少女ヒカリが女子刑務所で出会う。優勝賞金100万ドルと無罪放免の権利獲得するため二人で古代ボクシング監獄世界一を目指す。常識が通用しない海外刑務所で反則おかまいなしの犯罪者ファイターと殴り合う。感情を失っていたヒカリは戦いの中で、今まで閉じ込めていた感情を取り戻した。殺された父の復讐を誓う。決勝の前夜、父を殺した真犯人の正体を知り混乱するヒカル。決勝のリングで待つ相手は?どん底の人生を送ってきた二人が監獄からの脱出と栄光を掴む物語。
第一話 赤毛の少女
無言でミシンに向かう女たち。全員同じ薄いサーモンピンクの作業着を着て黙々と作業を続けている。床に帽子が落ちた。ぼさぼさの赤毛のショートカットの少女が拾おうとすると大きな靴が帽子を踏みつけた。
「サボるんじゃない」
赤毛の少女が靴の先を見上げてにらみつけた。
「111番何だその目は?」
看守は少女の腹を蹴り上げた。そして、赤毛を鷲掴みにして
「謝れ」
と少女に迫った。次の瞬間、少女は看守の耳にかみついた。
「痛タタタタタタ」
作業していた女たちは大爆笑。エンピツみたいなガリガリ女は黙々とミシンをかけている。
「また癖が出た」
とつぶやく。
騒ぎを聞きつけた刑務官が現れ
「111番を独房に連れて行け!」
と看守が指示をすると、赤毛の少女は2人の刑務官に抑え込まれる。
「お前ら作業を続けろ」
と看守が女たちに叫ぶ。
赤毛の少女は独房に放り込まれた。
少女の名前は高橋ヒカル。
父は日本タイトルにも挑戦した元プロボクサーの高橋真斗。引退後はホームレスに転落。その父を殺したという冤罪で女子刑務所に収監された。ヒカルは幼い頃、母の虐待や度重なるショックな出来事で感情を失くす。理不尽ないじめを受けると耳に噛みつく癖がある。今回もヒカルのカミツキグセが出た。
女子刑務所の廊下を歩く足が所長室の前で止まる。
"コンコン"
ドアをノックすると中から
「入りなさい」
と声がした。看守が中にはいるとスキンヘッドの所長が座っている。
スキンヘッドの頭を揺らしながら
「スポーツを通じて更生させるプログラムを導入することになった」
看守は緊張した表情で
「はい」
相変わらずスキンヘッドの頭を振りながら
「ボクシング部をつくってジェイル・ワールドカップに出場させる」
「ワールド・カップですか?」
「監獄ワールド・カップだ。国が刑務所のイメージアップとインターネット配信で収益をあげるためだ」
「しかし、指導者がいません」
ピタッとスキンヘッドが止まり
「あの方に手配をお願いした」
ニヤリとする所長。
第二話 招かれざる男?
成田空港の到着口から、ジーンズに革ジャン姿にサングラスをかけた大きな男があくびをして出てきた。首を左右にふって腰をねじると"ボキッ、ボキッ"と音が鳴る。
「エコノミーでロサンゼルスからはキツイな。帰りはビジネスクラスやな」
男の名前は石川丈二39歳の元ボクサー。訳あってアメリカに逃げていた。
「ジョージ・ビッシュと同じだな」とアメリカで言われてジョージと名乗っている。しかし、ジョージ・ビッシュはバカの代名詞とおちょくられていることを本人は理解していない。タクシー乗り場に向かって歩いていたが新宿行きの高速バスを見つけ
「こっちの方が安いな」
ジョージはそうつぶやいてバスに乗りこんだ。 新宿のバスターミナルに到着すると東口に歩き出す。
「しょんべん横丁か。懐かしいな」
JRガード下のトンネルを抜けるとスタジオアルタが見えてきた。
「タモさんいるのかなあ」
とつぶやくジョージ。しかし、タモリはもうここにはいない。
1988年新宿
ある夜、新宿のライブバーでバンドの演奏が始まる。
"ジャージャーン!ジャージャーン♪"
「Let's rock everybody let's rock♪」
酔っぱらい客が
「女と踊れる曲やれ」
「Everybody in the whole cell block♪」
「ヘタクソがヤメロー!」
連れの客も野次を飛ばす。バンドはそのまま演奏を続ける。酔っ払い客は立ち上がってバンドのボーカルのジョージに近づいて
「聞こえねーのか?ヘタクソ」
ジョージは肩から掛けていたギターのネックを握って酔っ払いの顔面をフルスイングした。「グォーッ」
ステージは血まみれになった。
「黙って聴いとかんかい!」
連れの仲間が
「ふざけんなぁ!」
と三人で殴りかかるが、ジョージはギターを振りまわし一人を倒すが、背後から蹴りを入れられた。すぐ立ち上がって右フックを振り回すと
「そこまでだ!」
仲間の男が銃をむけていた。
「まいった」
ジョージは両手を上げた。
「ふざけやがって」
銃で思い切りジョージ鼻を殴った。
「事務所に連れていけ」
仲間が腕をねじ上げ店から連れ出そうとした。
「勘弁してやってくれんか」
金田会長が声をかけた。銃を持った男が
「アンタにゃ関係ないだろ」
金田はジョージに近づいて
「兄ちゃん、歌よりボクシングの方が才能あるな」
「はっ?ふざけんなオッサン!」
ジョージはねじ上げられた腕を振り払って、金田に殴りかかった。
「アレっ?」
ジョージの視界から金田は消えた。次の瞬間、右アッパーでジョージは宙に浮いた。
第三話 潰したチャンス
ジョージの才能を見抜いた金田はマンツーマンでジョージを鍛えた。デビューから10連KO勝ちのレコードをひっさげて日本ウェルター級タイトルへの挑戦も決まった。 下馬評でもジョージの優勢で新チャンピオン誕生はほぼ間違いないと言われていた。スター気取りのジョージはタイトル戦直前まで飲み歩いていた。歌舞伎町のキャバレーでホステスたちに囲まれて飲んでいた。
「おい!調子乗ってんじゃねえぞ」
チンピラがジョージの席にやってきた。
「なんや俺を誰やと思ってんねん。シッ!シッ!」
とジョージがあしらうと、いきなりビール瓶でジョージの頭をチンピラが殴った。
「キャー!!」
店の中はパニックに。
「ヤクザなめんなよ」
ジョージは頭から血を流しながら
「ふざけやがって」
ビール瓶を持った男の顔面に右ストレートを打ち込む。 男は吹っ飛ばされた。
「テメェ」
もう1人の男が殴りかかるとジョージは相手の攻撃を軽くかわし、左のボディーアッパーをレバーにねじ込む。
「ウッ…」
男は前のめりにうずくまった。
「しょうもないの」
席に戻るそのとき
「オイ」
声がして振り向くと、椅子で顔面を思い切り殴られた。
"バキッ"
これには流石のジョージも目の前が真っ暗になる。ぼやけた視線に映った男は、またビール瓶で殴りかかった。
「お前まだやられたいんか」
とジョージが言うと
「うるせー!」
ともう一度椅子で殴りかかってくる。ジョージは椅子を払いのけて、今度は左右のボディーから顔面右アッパーを打ち込んだ。相手はスローモーションで宙に浮き上がり床に叩きつけられた。
「ふざけやがって」
ジョージはそのまま店を後にして。
翌朝、
「あぁ首が痛い」
と言いながら起き上がる。
「昨日は飲み過ぎたかなぁー」
洗面所で顔を洗う。
「あれっ」右の視界がおかしい。目をパチパチして
「二日酔いか?」
顔がぼやけ、目の前に何か流れているようだ。トレーナーに相談すると
「とにかく病院で診てもらおう」
医師から
「とりあえず目のレントゲン写真を撮りましょう」
「網膜に穴が開いていますね」
「穴?それって…」
「網膜剥離です」
「先生、何とか治してくれませんか?来週タイトルマッチがありますねん」
と頭を下げるが
「手術すれば視力を失わずに済むかもしれませんが、完治は難しいです」
「そんなアホな…せっかくのチャンスが」
ジョージは逃げるように姿を消しアメリカに渡った。
第四話 ミッション
後楽園ホール
エレベーターの扉が開くと、ヤジと歓声が聴こえる。ジーンズのポケットに手を突っ込み、押し込んだチケットをつかんで入り口で渡す。
3番入口の階段をのぼるとチケットを見ながら座席を探す。
「Cの25はどこや。Cの筋はここやなあ」
しかし、誰かが座っていた。
「なんや、おいおい俺の席やがな」
ジョージは男に近づいて
「じいちゃん、誰の席に座ってんねん。そこ俺の席や」
白髪頭の小柄なおじいちゃんが、ニコッと笑って
「威勢がいいねー」
とジョージに言うと
「じいちゃん聞こえたか?俺の席や」
「わかってるよ」
「わかってるんやったらどけて。終いに怒るで」
「まあ、そんなにカリカリしなさんな石川君」
「ん?じいちゃん誰や」
「頭山だよ」
「…頭山会長」
頭山はニコリとしてうなずいた。
「失礼しました。石川ジョージです」
「元気だねー、まあ座りなさいよ」
「はい」
ジョージは股を閉じて、手を膝の上に置いてかたまってシートに座った。
「僕はこの席で良いの」
「もちろんです」
「変わろうか」
ジョージは首を横に振りながら
「とんでも無いです。どうぞ、どうぞ」
「あ、そう」
この頭山会長は、新宿、渋谷地区の大地主で、政財界にも太いパイプを持つフィクサーだ。ボクサー時代からジョージのスポンサードでもある。しかし、直接会うのは、この日が初めてだった。
リングの上では、若い4回戦ボーイが戦っていた。ボクシングというよりは、激しい殴り合いと表現したほうがいいかもしれない。
「こんな試合してたらあきませんわ、ボクシングになっとらん」
「でも若いっていいよね」
「ごもっともです。青春は素晴らしい」
「石川君、やってもらいたい事があるんだ」
「なんでしょう?」
「コーチしてやってほしい選手がいるんだ」
「なんや、そんな事ですか。お任せください。すぐにでもチャンピオンにしてみせますよ」
「そうか、それは良かった」
「どんな選手ですか」
「女の子なんだ」
「えっ?女の子…」
「ビザと活動費のことは、任せておきなさい」
「あっ、ありがとうございます」
頭山はゆっくり席を立ち、ジョージもすぐ立ち上がった。
「頼んだよ、石川君」
「はっ」
会場を後にする頭山はエレベーターに乗り込むと振り向いて
「あっ、場所は女子刑務所だから」
エレベーターのドアが閉まる。ジョージは口をポカンとあけたまま
”カン”
ゴングが鳴った。