91歳の爺ちゃんが、結婚指輪を買いました
父方の爺ちゃんが92歳で亡くなってから、約2週間経った。
僕にとって、爺ちゃんとの思い出は少ない。何故かと言うと、爺ちゃんは大の仕事人間だった。
戦後の日本。26歳で会社を創業し、数十年かけて社員を160名まで増やした。
そんな爺ちゃんにとって休日という概念は存在せず、来る日も来る日も仕事し続けた。お盆や正月は爺ちゃんと食事したり遊んだりしたのだが、それ以外はそんなに会うことは無かった。
僕は18歳で地元を離れたが、それ以降に爺ちゃんと会ったのは恐らくたったの15回くらいだ。
(爺ちゃんが亡くなったときに僕が思ったことをまとめているので、是非読んでください。)
そんな爺ちゃんが亡くなる半年前。爺ちゃんは、親族にとってとても印象的な、そして感動的な行動を起こした。僕はその行動に強く胸を打たれた。
爺ちゃんのことを少しでも覚えておきたい。記憶に残しておきたい。そんな思いで、このnoteに事のあらましを書こうと思う。
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爺ちゃんは、会社を創業した26歳の時に結婚した。おしとやかで、優しくて、思慮深い女性。僕にとっての祖母だ。
当時から爺ちゃんはモーレツに働いていたらしい。仕事に命を燃やす彼を、祖母は懸命に支えた。毎日社員のお弁当を作っては、家から数キロある会社まで自転車で運んだ。現代のように道が舗装されていた訳ではない。過酷な毎日だったと聞いた。
祖母は、2年前に体調を崩して、入院しがちになった。2020年の夏には体調が急激に悪化。いつ亡くなってもおかしくないほどに衰弱していった。
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そんな時、僕の姉が婚約した。素敵な男性との職場婚だった。僕も旦那さんと会ったが、とっても素敵で、姉には勿体ないと思ったほどだ。
姉は、親族に婚約を報告した。もちろん、爺ちゃんと婆ちゃんもその話を聞いた。
祖母は、突然こんなことを言いだした。
私、まだ結婚指輪貰ってない。死ぬまでに欲しい。
親族一同がざわめいた。そういえば、結婚指輪をしているところ見たことない、、、!
爺ちゃんは、実は結婚指輪を買っていなかった。現代ではちょっと考えがたいような話だが、爺ちゃんにとっては、結婚指輪を買うことすら後回しにしたいくらい仕事が大事だったのかもしれない。
いやー。この話はビックリした。結婚指輪あげないなんてあるのね。笑
で、爺ちゃんは、、、
91歳にして、結婚指輪を買ってプレゼントすることにしたのだ。
人生の中で何度も何度も通った市内のデパートで。祖母の誕生日の誕生石をあしらった指輪を買った。
爺ちゃんは、入院する祖母のもとに行って、細った指に指輪をはめた。
その瞬間を、僕の母が写真に収めていた。
祖母は、その指輪を大事に大事にして過ごしたという。
それから2週間後、、、
2020年10月初旬に、祖母は安らかに亡くなった。左手の薬指に指輪をはめたまま。
通夜と葬式が愛知県で開かれ、勿論僕も駆けつけた。
「喪主挨拶」で、爺ちゃんはこんなことを言った。
僕は、これまでの長い人生で、全然女房孝行をしてきませんでした。
2年前に女房が体調を崩して、それからやっと二人で過ごす時間が増えました。
この2年間は、人生の中で最も幸せな時間でした。
亡くなった妻の分も、あと3年は生きたいと思います。
これには流石に僕の涙腺が緩んだ。あんなに仕事人間だった爺ちゃんが、こんなことを言うのか、、、と。人間って、最後の最後には愛に生きるものなのかな、と。
火葬される祖母を見届けた爺ちゃんは、骨壺を大事そうに抱えて家に帰っていった。
祖母が亡くなってから4か月。
爺ちゃんは亡くなった。祖母が亡くなってからすぐに爺ちゃんは体調を崩し、そのままあの世に旅立っていったのだった。
爺ちゃんは、とても大事なことを僕たちに教えてくれた。
人生において本当に大事なものは何か。それは仕事だけじゃない。お金だけじゃない。「深い愛」なのだと。
そして、爺ちゃんは身を持って伝えてくれた。
愛する人の存在がどれほどまでに生きる活力を生むのか。
僕は爺ちゃんが創業した会社の跡継ぎ候補で、継ぐべきなのかどうかを悩みまくりなんだけど、、、爺ちゃんが教えてくれたことをしっかり胸に刻んで、大事にして生きていきたいと思います。
祖母が亡くなる直前に姉が婚約したのも、必然だったのかもしれない。それをキッカケに爺ちゃんが結婚指輪を買ったのだと思うと、とても感慨深い。
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ていうか、彼女欲しいなあ、、、とひとりで安っぽいワインを飲みながら物思いにふける、バレンタインの夜でした。僕も、独り身になってもうそろそろ1年半か、、、。恋の芽はいずこに?