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【第3回シアターホームステイプロジェクト】中村彩乃 レポート

若手の演劇人・アーティストが他地域の小劇場に滞在し、今後の活動について構想する「シアターホームステイプロジェクト」。
2023年7月~2024年1月に行われた第3回目の参加者によるレポートの紹介です。


■中村彩乃(安住の地)
 京都→上田
 犀の角 2023年7月1日(土)〜6日(木)


長野県上田(犀の角)での滞在レポートを書きました、安住の地の中村彩乃です。

私のレポートは、
・どうして上田に行ったのかを書いた「Ⅰ.はじめに」
・6日間の滞在の内容を「Ⅱ.滞在記」
・今回の滞在の感想を「Ⅲ.まとめ」
という3つのセンテンスに分けました。

読んで頂いた方に少しでも上田の魅力が伝われば、そして「行ってみたいな」と思って頂けたら幸いです。
充実が過ぎて、滞在記がボリューム満タンとなっています。ご容赦ください。

Ⅰ.はじめに
◎何故シアター・ホームステイ・プロジェクト?
私は、京都を拠点に活動する俳優です。京都という土地は演劇を続けていくには充実した大変有難い環境だと日々感じています。一方で、ここ6年ほどで数々の歴史ある小劇場の閉館や、稽古場料金の値上がり等、とりまく環境に変化が起きていて、これまでと同じような姿勢では演劇を続けていくことが少しずつ難しくなっているように感じています。
そんな中2021年、静岡のSPAC(静岡芸術センター)の市民劇『忠臣蔵2021』に、(市民じゃないのに!)参加させて頂きました。滞在を通して、SPACの”市民の方々への関わり方”や”舞台公演にとどまらない様々なアウトリーチ活動”に感銘を受けました。そしてこの体験を経て、「各地域の演劇のあり方」に深く興味をもち始めました。自分が知らない演劇のあり方が各地それぞれにあり、知恵や工夫がある。それは自分の身体を以ってして触れることでしか味わえないんじゃないだろうかと思います。
今回の滞在を希望したのも、新たな場所に触れることで、自分の演劇観をほぐし、今後どのように活動していくかを考え直してみたかったためです。

◎犀の角を選択した理由
犀の角の噂は、特にコロナ禍に入ったここ数年で、周りの演劇関係者からよく聞いていました。「カフェやゲストハウスが併設していたり、演劇に縛られずに地域の方々との繋がりを模索していたりと、柔軟な面白い場所」その噂の場所に是非行きたいと希望しました。また犀の角の代表である荒井さんは、大学時代は京都で演劇をされていて、さらにSPACに勤めていらっしゃったということも聞き、不思議なシンパシーを感じ是非お話したいと思ったことも理由の一つです。

Ⅱ.滞在記

【滞在初日】
◎名古屋3時間待機。財布紛失。一瞬長野駅。
初日。少しでも長く上田を感じたいと、京都駅始発で上田へ!しかし、大雨のため名古屋から長野方面のしなの号がまさかの運休で3時間待機。仕方がないので喫茶店ときしめん屋さんで時間をつなぎ、やっとこさ電車へ。ようやく上田に到着!と思ったら今度は財布を落としたことに気づき、頭をかかえる。
どうやら親切な方が拾ってくださっていたらしく、長野駅にあるとのこと。迷った挙句、犀の角にまずご挨拶した後、財布をとりに行くことに。自分の段取りの悪さに落ち込みながら犀の角に入ると、荒井さんとスタッフの村上さんがあたたかく迎え入れてくださいました。
思えば、最初に出会ったこのお二人の「大変だったねー。ようこそようこそ」と、自然に受け入れてくださるスタンスこそが、犀の角の魅力に直結しているんじゃないだろうかと振り返ります。

◎犀の角にてスタッフ村上さんと濃密なお話
長野駅からやっとこさ犀の角に戻ると、村上さんが今時間空いているから!と早速お話の時間をとってくださいました。もともと東京で舞台のスタッフをしていたという村上さん。移住の経緯や犀の角&上田の魅力を教えてくださいました。
その際、印象に残ったことが。ひとつは、犀の角での様々な取り組みの中でも「ケアをする/される」の関係で接するのではなく「隣で一緒に話す」ことを大切にされていること。この考え方は、上田に居る際、様々な方から毎日のように聞いたことでした。
もうひとつは、犀の角関係者の方は、犀の角の存在を大事に思われているんだなということ。盲目的な信頼というより、「うちにも課題はありますよ」という冷静なスタンスでありつつ、でも根本は場所を好いて誇りを持っていらっしゃるということがひしひしと伝わり、それがこの空間を作り上げているんだと感じました。

◎上田英劇にて、『幾多の北』と三つの短編を観る
その後、「ちょうど10分後に上演されるから!」と映画館に連れて行っていただきました。3人の作家さんによるアニメーション作品。(内お一人はコロナ禍で上田に滞在をして作品を制作されたそう!)さっきまで財布を無くして右往左往していたとは思えないほど、楽しく上演を拝見しました。

◎居酒屋へ
地元のおいしいものとお酒を頂くことが大好きな中村。今回の滞在でも真剣に満喫しました。初日から、信州上田名物 美味だれ焼き鳥 &地酒。最高でした。

【滞在2日】
◎犀の角のモーニング

「犀の角はモーニングが最高」と噂を聞いていたので、2日目に早速注文。美味しい!のんびりした空間がさらにおいしく感じさせてくれました。

◎上田散策
この日は日中予定が空いていたので、上田の町を散策しました。
北国街道柳町通り、上田城、本屋めぐり。歩く歩く。「面影書店」では本を購入。するとオーナーさんとお話が盛り上がり、上田のことを色々と教えてもらいました。

◎上田の台所、ツルヤ
「面影書店」オーナーさんからの情報で、上田の台所、スーパーツルヤに。「下手なお土産屋さんより、上田の名物沢山ありますよ~」と教えて頂いた通り、あんまり見たことのないものが沢山!

◎野村さんとお話
夜、犀の角に戻って過ごしていると、全国小劇場ネットワーク代表の野村正之さんがちょうど上田にいらっしゃるとのことで訪ねてくださり、今回の滞在の事から演劇の在り方について幅広くお話させて頂きました。
ここでも、「相手と対峙するのではなく、一緒に問題を見るように隣に座る」という言葉が。そして、「犀の角は、コロナ禍で演劇を守ろうとせず、今一緒にいてくれている人を大切にすることを選び許容したことが大きいのではないかな」「自分にとっての切実な望みや目標がある時、獲得するために自分を変えるものではなく、適切な時に適切な人が現れて変えてってくれる」と、何か大切なヒントのような言葉も頂戴しました。

◎犀の角&百景社のみなさんとご飯 
実は今回の滞在、ちょうど茨城県土浦市の百景社の皆さんがお越しになられるタイミングにかぶっており、折々で百景者の皆さんとお話をさせて頂く機会がありました。有難い!
滞在製作されていらっしゃった内容はこちら。
“犀の角と、茨城県土浦市の百景社が連携し、信州にゆかりある文豪・島崎藤村の「夜明け前」をもとに2年かけて作品創作する企画「犀の角&百景社 藤村プロジェクト2021-23」”
野村さんとお話の後、ありがたいことにご飯会に同席させていただきました。2日目も日本酒!

【滞在3日】
◎犀の角の荒井さんとお話

3日目午前中は、荒井さんとお話を。ご出身である京都の学生劇団第三劇場のこと、その後SPACに制作として入られたこと、上田に戻られて犀の角をつくるにいたった経緯をお聞きしました。京都・静岡と場所をまたいで共通の知人が次々あがって「あー!〇〇さん!」と話がもりあがり、ここはどこなんだろう(笑)という気持ちになりました。また「大学卒業後に京都演劇にうまく馴染めず京都をから離れ、静岡、上田と拠点をうつしてきたのに、今になって京都の若い演劇関係者が訪ねてくるのが不思議だ」と仰っていて、しかし(他の方はともかく)私個人に関して言えば、京都の演劇に留まらず異なる地域を見たいと感じた人が犀の角に訪れるのは、荒井さんの経歴を聞くとなんだかまっとうな流れのように思え、2日目の野村さんの言葉「しかるべき人がしかるべき時に現れる」はこれなんだろうなと、感じ入っていました。
そして、記憶に残った言葉があります。「“犀の角という劇場をつくる”、という演劇を20年かけてしている感じ。ある意味ゲストハウスのオーナー、劇場のオーナーの顔をしてみている。何か役割を担ったりどこかの環境に入ったりすることで、身体が変わる。それも演劇として、広義にとらえてみてる」この言葉は、滞在後レポートを書いている今も斟酌中。きっと1年とか5年で落とし込める言葉じゃなくて、でもこれから先自分の中の演劇観をたくさん揺らして鍛えていくときに支えてくれる言葉のように思う。

◎荒井さんご一家とお昼ご飯
お話の後。ちょうごはん時だということで、荒井さんご一家のお昼ごはんに混ぜて頂きご馳走になりました。「せっかくの滞在だし是非」にという感じよりは「時間が合ったのでよかったら」と自然に一緒にいてくださる。こういった時間からも、犀の角の考えに触れることができました。とてもおいしかったです。

◎サントミューゼへ
午後からは、美術館・劇場が内設されている文化芸術センター、サントミューゼへ。主に音楽ジャンルで、学校へアーティストの派遣事業もされている素敵な施設。目当ての山本鼎さん常設展示は残念ながらお休み。とにかく広い館内をのんびり歩きました。

◎別所温泉へ
別所温泉3つのうち、真田幸村隠しの湯「石湯」へ。道中太陽にぎらぎら照らされていたので、熱めのお湯はとても気持ちよく、温泉を出た後の夕日と風は最高でした。思わずビールが飲みたくなり、見つけた酒蔵に駆け込み信州ビールを購入。するとオーナーのおかあさんが、「今から駅の方に車出すから乗ってく?」と親切に車に乗せてくださいました。こういう交わりでその日があったかくなります。

【滞在4日】
◎野菜市
朝、犀の角にて作業をしていたら、商店街から「やさいは~♪」「やさいが~♪」と野菜の音楽が。えらく野菜の音楽がかかるなと過ごしていたら、荒井舞さんより「今日ははす向かいお店で、週に一回の野菜市があるんですよ」と情報。それは是非とも!と向かうと、瞬く間に列が。開いた瞬間みるみるうちになくなる野菜。上田は食材の素材がおいしいからみんなあんまり外食しないと噂には聞いていて、確か皆さん大量の野菜を購入されていました。せっかくなので私も野菜をいくつか購入。プチトマトおいしかった!

◎12月上演する一人芝居の稽古
午後からは犀の角の3階稽古部分を利用させて頂きました。鏡張りの広々したスペースを贅沢に一人で利用。今年12月に上演する一人芝居の初回稽古、集中しておこなうことができました。

◎お蕎麦屋さん、大盛り!
稽古後遅めの昼ごはんを食べる場所を探していると、「刀屋」と書かれたそば屋が。信州はそばだよなーとわくわくしてお店に。メニューには小・中・並・大。私は中を選んでみました。そしたらこんな量。

店員さんに聞いたところに「うちは、小がだいたい1人前、中が1・5人前、並が並の3人前」とのこと。並が並の3人前とは、一体。上田は何故かデカ盛りが通例のよう。

◎「島崎藤村の夜明け前を朗読する」に立ち合い
百景者×犀の角の企画の一環として、夕方からは朗読会が行われていました。驚いたのは、ただ犀の角スペースで行うのではなく、なんと商店街を通りがかる人にも聞こえるように外にスピーカーを設置!近隣の方とコミュニケーションがとれていなければ実現が難しい企画をこうも自然とおこなえるのは、普段から劇場然として閉じていない犀の角だからこそだと隅で聞きつつ感動。

【滞在5日】
◎上田映劇へ
初日にお邪魔した上田映劇に再度お邪魔し、直井恵さんとお話しました。この映画館では、通常の映画上演以外にも、「うえだこどもシネマクラブ」という取り組みを実施されており、犀の角同様、「映画館は映画を観るところ」という概念にとらわれない活動をされています。そしてとにかく、直井恵さんが魅力的!朗らかな話口とこっちもつられそうになる笑顔で、色々お話をしてくださいました。(居合わせた女子高生からも直井さん情報が数々飛び交い、人を惹きつけるお人柄が見えました。)また、シネマクラブに来ていた方との雑談の最中、何かの拍子に「すべてのジャンルはマニアがつぶす」という言葉を聞き、それは今回の滞在で学んだことにつながるような、警句のような響きをもって受け取りました。

◎リベルテへ
午後からは、障がい福祉サービス施設のリベルテへ。(犀の角スタッフでもある)リベルテスタッフの伊藤さんに案内をしていただきました。ここでもやっぱり「する/される」ではない関係が見え、「障がいがあるからといってサービスや福祉を受ける一方でなく、こちら(リベルテに集う人)からも渡す姿勢を大切にしたい」と伊藤さんはおっしゃってました。
リベルテでは日々表現活動やオリジナルグッズ製作がおこなわれています。私が伺った時はクッキー作りや絵画創作、ダジャレ創作(めっちゃ良作でげらげら笑いました)など多岐に渡って活動が行われており楽しい時間を過ごさせて頂きました。中には、「京都から来ました」と言うと、莫大な資料を探り、私も知らない京都の地名看板を出して見せてくださる方も!

◎ブルーベリー畑に劇場!

リベルテの後は、荒井さん伊藤さんと一緒に、ブルーベリーガーデン黒岩さんへ。
「ブルーベリー畑黒岩の黒岩さんは演劇をされていて、是非お会いしてみて」と事前にお話しは聞いていたものの、「ブルーベリー畑…演劇…?」となかなか繋がらなかった私。しかし到着後、その言葉がそのままだったことがわかりました…。
おいしそうなブルーベリーの直営所。優しそうな黒岩力也さんと司白身さんに案内されて奥にいくと、衝撃の劇場空間が!思わず興奮で「うおおおおおお」と大きな声で騒いでしまいました。ブルーベリー畑に劇場!!すべて自分たちの手で改装されたとのことで、増築や工夫のあとが。すみずみまで案内をしていただき帰りはおいしいブルーベリージュースまで頂戴しました。

【滞在最終日】
◎利賀村へ

最終日。なのに、何故か利賀村に!というのも、前述の通りSPAC時代に鈴木忠司さんのもとで働いていらっしゃった荒井さんが鈴木さんに会いに行く予定あり、私も同行をさせて頂くことになったのでした。人生初の利賀村が、まさかのタイミングで…!道の険しさに驚愕し、無事に利賀村へ。会う方会う方、荒井さんを見ると嬉しそうにお話をされていて、なんだかこちらまでうれしくなりました。そして、SCOTのスタッフさんの計らいで、各劇場を見学させていただけることに。なかなか見れないオフシーズンの劇場!貴重すぎる経験をさせて頂きました。
その後、なんと鈴木さんと荒井さんのお話の席に同席をさせて頂くことに。SCOT、利賀村のお話から、平田オリザさんや宮城聰さんといった名だたる演出家のお話まで、貴重な時間にずっと背筋が伸びっぱなしでした。鈴木さんはお話の要所で「あいつは元気か」と後輩(私からすれば大先輩)のお名前を出されていて、その懐の大きさで日本の演劇シーンを牽引されて来られたんだろうなと思いお話を拝聴していました。

◎富山駅から京都へ
その後、利賀村から富山駅へ。犀の角の皆さんとは車で「また行きます」と何度も言いつつお別れをしました。長野県上田の滞在のはずが何故か帰路は富山駅発。想定外の旅程でしたが、小劇場ネットワーク事務局の方が柔軟に対応してくださったおかげで、無事に京都に到着。6日間ずっと充実の旅となりました。

Ⅲ.まとめ
◎手放すこと・許容すること
今回の滞在で、自分の中の演劇観が予定通り揺さぶられました。
私のこれまでの演劇経験は、縁あって出会った沢山の方々に助け支えてもらい積んできたものだと思っています。何か確かな系譜の下で進んでこなかったということに不安が全くないと言えば嘘になりますが、自分の身体を以って会う人に影響されて流れされてみてきた経験を、それはそれで誇りに思っています。
今回の滞在で、出会う魅力的な人達がそれぞれの言葉で「すべての決定の舵を自分で持ち切らず、すこし手放してみること」「定義やこれはかくあるべきだ、という概念を一度捨てて、やわらかく許容してみること」とおっしゃっていて、お陰様で自分の今までの道を「いいぞいいぞ」とほめてあげることができました。と同時に、年齢を重ね固執が生まれがちになっても、手放すこと・許容する考えは持っていると素敵なことが起きるんだと、上田で出会った方々を見て感じ直しました。
また滞在を経て、自身に目を向けた時、もしかすると固執したくないと言いながら過去の京都の演劇シーンにとらわれているのは自分かもしれない…と反省しました。
帰って改めて思った3つのこと。
・京都も一つの地方であること
・過去に固執せずに今居る人・在る場所に向かい開いていくこと
・演劇を縛らないこと
考えを固めず柔らかく居ることができたら、身の回りに溢れたり隠れたりしている演劇の要素をたくさんキャッチできるのではないか。上田でもらった考え方で、今一度今の京都を見なおしてみたいと思いました。

◎人が人といる、その時に「する/される」じゃなく「隣にいる」関係
ではなく、となりに立つ」ということを言っていて、その考え方を持つ様々なジャンルの人が上田に集まるからこそ、この文化や取り組みの循環が成り立つのだと感じました。そしてこの考え方は演劇だとか以前に、何かと接する時の心構えに通ずるような気がして。相手をどうしてやろうこうしてやろうとせずに、ただよく話を聞き一緒の方向を見る。難しいことと思いつつ、上田での滞在で、その姿勢で居ようとする人にあこがれをもちました。

最後に。
滞在記を見返すと、本当にたくさんの方に時間をかけて頂いたことがよくわかります。出会ってくださった皆様、ありがとうございました。また訪れたいと思います。
また長い長いレポート、もし最後まで読んでくださった方がいましたらありがとうございます。是非上田に!

主催:一般社団法人全国小劇場ネットワーク
助成:公益財団法人セゾン文化財団「創造環境イノベーション」

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