見出し画像

正しく情報を発信するというフィルター

オーダーメイドの靴工房を始めてもうすぐ18年になります。

それは、まだ私たちがこの靴工房を始めたばかりのころのことですが、予約をしていただいたお客様がいらっしゃったときに、そのお客様がおっしゃったのが・・・、

「ウェスタンブーツを作りたいんですけど。」

という言葉。

私には、まさに不意を突かれたというのがその時の正直な気持ちです。

こんなことを書いても、いったい何のことだか全くわからないという方も多いと思いますが、そのあたりのことを詳しくお伝えします。

まず、意外と知られていないことなのですが、私たちのような靴の作り手は、作るものによって非常に細分化されているのが現状です。

言ってしまえば、これは作るけれどこれは作りませんということです。

私たちのような革靴を作っている靴工房では、通常はスニーカーは作れません。

そのほかだと、登山靴やワークブーツなども作れません。

先ほどのとおり、ウェスタンブーツも作れません。

ここまででも結構面倒な感じですが、さらに言えばほとんどの場合でイギリス靴を作っている工房ではイタリア靴は作れません。

その逆も然り。

あとは、私たちの場合はローファーなどのスリッポンも作れません。

ですが、意外にもブーツとシューズの垣根は低く、アンクル丈のブーツは作れます。

女性用の靴は作れますが、それでもなかなか条件が付いてしまいまして、男性用のデザインの革靴を女性用としてバランスをとりなおした靴は作れますが、パンプスは作れません。

とってもわがままなことを言っているようで、お客様には本当に申し訳なく思っています。

でも、なぜこんなに作れないものがあるのかといいますと、主な理由はラスト(木型)や使っている素材、そして専門的なノウハウなどなのです。

ローファーは、ヒモがついている靴とは根本的にラストが違う上、私たちの工房で作る靴の製法がローファーとの相性が良くないので、作れません。

ウェスタンブーツやワークブーツ、登山靴などに関しては、これまた専用のラストや厚い革を縫うことができる専用のミシンなどが必要で、それらがないために作ることができません。

パンプスに関しては、やはり専用のラストや専用の機械(たくさん必要です)がないため、作ることができません。

イギリス靴とイタリア靴の件も、ラストのこともありますし、作り手の経歴なども大きく関係します。

そんな古臭いことを言っていないで、どんどん改善していけばよいというのが正論かもしれませんが、それにかかる費用がこれまた莫大なもので、全然ペイできないという実情もあります。

それでも、昔は担当する作業まで完全に分業だったのが、最近では一人の作り手が最初から最後まで担当する(私たちもそうです)工房も多くなり、改善されてきている部分もあります。

そんな状況の中で、お客様にこれは作れますがこれは作れませんということをいかに分かりやすく伝えるかということが、じつは双方の大きなメリットにつながっていきます。

そりゃそうですよね、あまり得意ではないもの、もしくは実際に作れないものを依頼されたら、作る方はなかなか大変だったりしますし、お客様にしても納得のいくものが出来上がらない可能性だってあるわけです。

場合によってはクレームになったり、せっかく出逢ったお客様とのお付き合いが途切れてしまうことだってあるわけですから。

私たちのような小さな靴工房は、生産力も限られますが、そこにお客様とのトラブルが発生したら、作業どころではなくなってしまいます。

なので、円滑に業務を進める基本はお客様とのトラブルが起きないように、あらかじめ正しい情報を分かりやすく発信することだと思います。

私たちは、こんな商品が得意です、こんな時にお役に立てます、こんな特徴を持つ商品を作っています、こんな作り手が作っています、こんな商品は作れません、そのようなことをしっかりと発信することで、その条件を承諾してくださるお客様が来てくださいます。

おまけに、仕事の話ばかりではなく、作り手の趣味の話や物事に対する考えかたなど、言ってみれば私の人間としての部分を発信することで、お客様から見た私との相性を何となく事前に把握していただけるはずです。

今はウェブサイトばかりではなく、SNSやYouTubeなどでも発信することができますので、非常にありがたいです。

実際、お客様と作り手との相性って非常に大切で、心が通じるか否かで出来上がる商品に大きな影響を及ぼします。

お客様にしたら、それなりの金額を払って注文するわけですから、安心して納得のできる作り手に依頼したいですよね。

そんな理由から、私は大変失礼な言い方かもしれませんが、しっかりと情報を発信するというフィルターをかけさせていただいていて、お客様も私たちも幸せな結果が出るように心がけています。















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?